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とくとくの水麦士一茶/梅の木のの巻

Berjaln-jalan, Cari angin.
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 折々獺の人をまねくそ
日ハ西に傾んと番つゝら         麦士

名ウ三句、歌合わせから矢数俳諧まで。

     〇

日ハ ひ・は、日中の太陽、月日の日。

西に にし・に、陽は東から登り、やがて西に。

傾んと かたむかん・と、傾こうとしている。

番つゝら つがひ・つ・づら、「つがう」の連用形に、助動詞「つ」、それに「つら=連・列」。「番つゝら」で麦士の用語。互いに仲良くくっついて歩む様子。

     〇

 をりをりうその ひとをまねくぞ

ひは にしに かたむかんと つがひつゝら

もしかしたら、獺にでも騙されていたのでしょうか、終日、ふたりして日が暮れるまで遊んでいたのですよ。それも、歌や句を番えながらの張行、うふふ、おてんとうさまが笑ってまさぁ。

     〇

番は、弓道で頻繁に使われた用語で矢筈を弓の弦にかけることでした。それが、「番ふ」となると、二つのものが一組になる。雌雄交尾する。固く約束する。といった多様な意味を持つようになりました。

俳諧の連句からすれば、左右の歌を番える歌合の大宮人から、矢次俳諧の市井の人々に至るまで、これも工夫の跡が数々の記録に残され、紐解く者にとっては、汲めども尽きない魅力となっているのです。

     〇

西鶴に

脉のあがる手を合してよ無常鳥

以下、清水哲男評の引用です。

 語は「無常鳥(ホトトギス・時鳥)」で夏。作者は三十四歳のとき(延宝3年・1675)に、二十五歳の妻と死に別れた。そのときに、一日で独吟千句を巻いて手向けたなかの一句だ。西鶴の句を読むには、いささかの知識や教養を要するので厄介だが、句の「無常鳥」も冥土とこの世とを行き来する鳥という『十王経』からの言い伝えを受けている。妻が病没したのは、折しもホトトギス鳴く初夏の候であった。あの世に飛んでいけるホトトギスよ、妻はこうして脉(みゃく)のあがる(切れる)手を懸命に合わせています。どうか、極楽浄土までの道のりが平穏でありますように見守ってやってください、よろしくお頼み申し上げます。と、悲嘆万感の思いがこもっている。速吟の一句とは思えない、しっとりとした情感の漂う哀悼句だ。

June 02 2004 井原西鶴『増殖する俳句歳時記』(一部抄出)

12.11.2023.Masafui.

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