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樗堂一茶両吟/蓬生の巻 24

  風そよく信太の夕の夏すゝき
   小サキ棺送るむら雨          一茶
 名オ六句、無常甚深、流す涙の枯れることなし。
     〇
  小サキ
   小にチイのルビ。ちいさき。
  棺
   ひつぎ。
  送る
   葬列、野辺送り。
  むら雨
   村雨、にわか雨。
     〇
 かぜそよくしのだのゆふの/なつすゝき
 ちいさきひつぎ
 おくるむらさめ
 「風のそよぎ」を「無常の風」に置き代え、一転、胸張裂けんばかりの慟哭の涙に誘う俳諧師がここにいたのです。
     〇
 地獄極楽、みなこの世の出来事。
 民間伝承では、嬰児を失ったときの埋葬法は、近親者で弔うものとしていましたが、棺に入れられ葬送の儀礼があったことを思えば、生後しばらくこの世にあって慈しみを受けていたことでしょう。それだけに、残された肉親の悲しみを思うとき、多くの人々の涙を誘っていたのです。
 「いいかい、変な気を起こすんじゃないよ。あの子はこれから、石を積んでるんだからね。来る日も来る日もね。」
 「もう、どうしようもない。」
 「まだ分からないのかい。鬼が次々崩してゆくんだよ。積んだ石を。それを救って下さるのがお地蔵さんなんだ。」
 「だって、」
 「だってじゃないよ、泣いてばっかりじゃダメだよ。あんたが元気でお地蔵さんにお祈りしなきゃ、誰が祈ってくれるんだい。」
 「あの子のために、、、。」
 列島の暮らしのなかで、多くの人々が味わった悲哀の一端を、一茶は「小サキ棺」という象徴的な句にして残していたのです。
     *
 蓬生の巻 名残表一句から六句
  春 朝なあさな白き鳥の巣に鳴ぬ       仝
  雑  空海還化ありて此かた         茶
  雑 去男玉の盃底なくて           堂
  夏  あたら花田の帯に泥          茶
  夏 風そよく信太の夕の夏すゝき       堂
  夏  小サキ棺送るむら雨          茶
■画像は、野辺送り。

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