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謡ふ酒屋樗堂一茶/烟しての巻

    日常平語
     05

 人見て人の立かゝる也
べんべんと雛直ぎりし宵の内      樗堂

初オ五句、花の空き家は音をきかせて、、、

     〇

べんべんと 鞭々と、縦書きだと「べんく」と、鞭打つ音。琵琶、あるいは太棹の三味線のような。(老人に唸られてるのです)

雛 ひひな、春の雛まつり。伊予では女児の初節句に雛を贈る風が残されていました。

直ぎりし ねぎり・し、可愛いい孫のためとは云え、ここで値切っちゃいけませんね。

宵の内 よひ・の・うち。そうそう、年寄りが唸ってても、埒が明かないのですから。

     〇

 ひとみて ひとのたちかゝる なり/

べんべんと ひひな ねぎりしよひのうち

外の喧騒を引き込み、老人の皺がれた太い声を響かせて、ときは弥生の雛祭り。

孫のためならと爺さん婆さん、何だか人が変わったようになって「いいかい、少しは気をきかせて、ちったぁまけてみたらどうなの!!」とかなんとか、もの凄い勢いで人形売りに迫っているのです。

流石に樗堂、花の空き家は<音>でうめていたのです。

     〇

もっとも、寛政の世時ですから贅沢はできないのです。が、そこはそれ、お役人さんに目立たないように、年寄りたちが気張っている様子を、面白可笑しく描いていたのですね。

近代の句に

釘を打つ日陰の音の雛祭       平八
しはがれし声一間より雛の夜    七菜子

など

     〇

歌に

   松山
   —―町に入って、八朔雛を賣る子のむれにあふ。

旅を来て
 心 つゝまし。
  秋の雛 買へと乞ふ子の
 顔を見にけり

釈迢空「伊豫ノ國」『春のことぶれ』(歌は昭和2年、秋の雛<八朔雛>)

22.11.2023.Masafumi.

余外ながら、北条を舞台にした早坂暁シナリオ「花へんろ」シリーズに「春子の人形」がありました。

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