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お口の生活習慣病

皆様、お口の病気としては虫歯や歯周病はよく耳にされると思いますが「、酸蝕症(さんしょくしょう)」という歯の病気をご存じでしょうか?
酸蝕症とは、酸性度の高い食べ物や飲み物、また逆流した胃酸などに日常的にさらされることで歯が病的に溶けて傷んでしまう症状です。健康志向の高まりでお酢を用いた物などを食べる機会が増えたり、ストレス社会の中で増え続ける逆流性食道炎に罹患したり、私たちの食生活や多忙な毎日との関係が深い現代人ならではの生活習慣病と言えます。
国の調査結果によると、4人に1人が酸蝕症というデータがあるとのことです。
歯はもともと酸が苦手ですが、それでも歯が溶けないのは唾液が酸を洗い流し、また再石灰化してくれることで歯を守ってくれています。ただ、唾液の能力にも限度があり、強い酸が口の中に繰り返し入ってくると唾液の作用が追い付かず歯が溶けてしまいます。
虫歯も酸により歯が溶ける病気ですが、虫歯と酸蝕症の決定的な違いはその範囲です。

酸蝕症とむし歯と健全歯

虫歯は、磨き残したプラークの中の虫歯菌が作り出す酸によって歯が溶けるのでその範囲は限定的になります。一方、酸蝕症は酸が触れた歯面全てで歯が溶けていきます。
さらに、酸蝕症で硬いエナメル質が溶けて薄くなったところに虫歯ができると虫歯の進行が速く、酸で柔らかくなった歯は摩耗・咬耗も進行が速く、複合的にトラブルが拡大しやすいのも酸蝕症の特徴です。
では、どのような物が酸蝕症につながるかというと、読んで字のごとく「酸に蝕まれる」、つまり「酸」が要因です。その酸がどのように口の中に供給されるかというと、最も多いのが食事、お菓子、飲み物などの飲食物、次に胃酸になります。
これまで季節物だった柑橘類が一年中売られているようになり、食事にも酸味の効いたドレッシングやポン酢など酸性度の高い物が使われるようになりました。また、お酒も果汁の多いチューハイやワインが人気です。ジュースにしても炭酸系飲料やオレンジジュースなどの柑橘系ジュースも多く売られています。
そして、最も注目すべきは健康志向の向上により人気のお酢飲料です。黒酢、リンゴ酢などなど最近特にお酢を飲まれる方が増えています。お酢は体の健康に良いとは言うものの、飲むたびに歯には大きなダメージとなりかねません。酸蝕症を防ぐためには酸性飲食物の摂取を控えて、唾液の防衛能力が効果を発揮できる摂取量を意識するようにしてください。
次に胃酸です。胃酸が口に逆流する要因としては逆流性食道炎と摂食障害(過食症や拒食症など)により繰り返される嘔吐があります。逆流性食道炎の原因の1つに炭酸飲料や酸っぱい物の摂りすぎが挙げられます。炭酸飲料や酸っぱい物は直接的にも酸蝕症を引き起こし、逆流性食道炎を誘引した上で胃酸の逆流でも酸蝕症を引き起こしてしまいます。逆流性食道炎対策と酸蝕症対策には共通するものがありますので、消化器内科、歯科医院で食事指導を受けて対策を講じてみてはいかがでしょうか。逆流性食道炎のもう1つの大きな原因として食後直ぐに横になることも挙げられますので、食後は横にならずに椅子に座って1時間ほど過ごすこともお勧めします。また、摂食障害による嘔吐と酸蝕症とのかかわりも注目されています。心療内科での相談と歯科で歯が溶けていないかの確認を行うようにしてみましょう。
最後に、エナメル質が溶け始めるのは概ねpH5.5が境となります。pHの低い順(酸性度が高い順)に代表的な飲食物を並べると次表のようになります。

酸性度の高い食品

健康志向の高まりとともに目にするようになった物も含まれていますが、歯にとっては逆にリスクとなりかねませんので、これらを摂取した後には水を飲んだり水でうがいをしたりするなどして、歯を労わることも忘れないようにしてください。そのひと手間が酸蝕症へのリスク軽減につながります。
酸蝕症は、現代の食生活や生活習慣とのかかわりが深い病気です。発生要因をしっかり知って、歯を溶かす習慣を食い止めて歯を守っていきましょう。

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