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クッキーが逝った日

ちょうど1年前のこの日の早朝、
私は、亡くなったクッキーを抱っこして庭を歩いて回っていた。
クッキーは庭が大好きだったから。


ポメラニアン家族のパパ犬クッキー。
愛妻と息子犬と養子犬、そして私達人間家族を残して、ひとりで逝ってしまった。
まだ10歳半だった。

箱が大好きで、荷物が届くと、前足で箱をシャッシャッとして、必ず「中に入りたい」と催促した。
新聞も大好きで、よく新聞紙の上で寝ていた。
いつもまったりしていて、ゆるキャラで、秋田犬のわさお君タイプ。
誰からも愛され、みんなを癒していた。

クッキーは、我が家の2匹目のわんこだった。
1匹目のポコちゃんのお婿さん候補として、我が家にやって来たのだ。
来た時はまだ1kgにも満たない小さな仔犬だったけど、すくすく育ち、やがてポコちゃんのお婿さんになった。
2匹は仲睦まじく、翌年、4匹の仔犬が生まれた。
出産の時は、愛妻の苦しみにオロオロし、生まれたあとは仔犬たちをぺろぺろなめたり、遊ぶ相手をしたり、とても可愛がった。
仔犬は、3匹は友人達に幸せにもらわれていき、一番小さく生まれて心配だった子だけ、我が家で育てた。
ミルクと名付けた。

クッキーはおとなしい性格だったけど、ミルクも一緒に散歩するようになってからは、外でよく吠えるようになった。
父親として、我が子を守っているようだった。

ミルクの事を、それはそれは可愛がったけれど、ミルクがどんどん成長し、自分の体と同じくらいの大きさになった頃、些細なことでミルクとよく喧嘩をするようになった。
反抗期の息子と、負けまいとする父親との関係のように。オス同士だから、テリトリー意識だとか、どっちが権力があるか、とか、そういう感じだったのだと思う。
父、息子という関係は、人でも犬でもややこしい。

喧嘩はエスカレートしていき、血を流す程になってきた。
もうこれ以上いくと大怪我するかも…危なすぎる、という判断で、2匹とも去勢手術をした。

手術後は落ち着き、平和な親子になった。

普段はまったり犬で、おとなしかったが、1度だけ本気で人を噛んだことがある。

その日、夫は何があったのかすこぶる機嫌が悪く、大声で私に文句を言った。その時、クッキーが夫の太ももにジャンプして噛み付いたのだ。
夫は、「痛い、痛い!」と叫んでクッキーを振り払った。一瞬の出来事で、私には何が起こったのか分からなかった。
「こいつ本気で噛みやがった!」
夫が「痛っー」と言いながらズボンを下ろして見ると、太もものかなり高い位置に深い噛み跡があった。
「えー!?こんなに高いところまでジャンプして噛んだってこと!?」
私はとにかくびっくりした。
いつもはおとなしいクッキーが、私を守ろうと夫を噛んだのだ。
それを目撃していた息子は、ケラケラ笑いながら
「クッキー、ようやった!」とクッキーを撫でた。
私もあとから、「ありがとうね。守ってくれて」と抱っこして撫でた。これからも何かあったら、クッキーが守ってくれる、と頼もしく思った。

後にも先にも、人を噛んだのはあの1回だけだった。

クッキーは、8歳を過ぎた頃から心臓の音に雑音が出るようになった。脚も弱くなってきた。胆嚢や肝臓も少し悪くなってきていた。
でも、薬を飲むほど悪くはなく、検診を続けていた。
今度クッシングの検査をしてみようかと言っていた。

小型犬の寿命は13~14年。
人間よりはずっと短い。
いつか別れの時がくる覚悟はしていた。
でも、「その時」が来るまでまだ数年ある。
それまで充分に愛し、寝たきりになっても、心残りがないようにしっかりと世話をして、最期の時には私の胸に抱かれて。
心から「ありがとう」って言おう、ってそう思っていた。

なのに…
突然だった。
まだ10歳半だった。


前日、体調が悪そうで診察に行き、検査や点滴もちゃんとしてもらった。
家に帰ってからもしんどそうだったので、夜も動物病院に連絡を取り、相談し、翌朝から入院させてもらうことになっていた。
しんどくて、なかなか寝れないクッキーをみんなで交代しながら撫でて、夜中の2時半、灯りをつけたままみんな寝床に入った。私はいつも通り、わんこ達と同じ部屋で寝ていた。
4時に見た時には、私の枕元まで移動していて、やっと寝れたみたいで、「寝れてよかったね」って声をかけて電気を消した。
6時頃、「おはよう。具合はどう?」って撫でたら…
動かなかった。
信じられなかったし、信じたくなかった。
でも、いくら揺すっても動かない。
自分の心が壊れていく気がした。

他のわんこ達はまだ寝ていた。
誰にも気づかれずに、クッキーはひとりで逝ってしまった。
まだ温かかった。

体を綺麗にして、抱っこして早朝の庭に出た。
いつもと同じ風景。
クッキーが大好きでだった庭。
毎日庭に出て、「家に入ろう」って声をかけても、お茶目な表情をして逃げたり隠れたりして…
とても可愛かった。

もう、そんな姿も見られない。

クッキーが亡くなって、ショックのあまり私も家族もあまり食べられなくなり、痩せてしまった。
ああすればよかった、こうすればよかった、って後悔ばかりがあふれ出る。

電車を乗り過ごしてしまったり、突然涙が溢れたり…。

涙が出そうになると、上を向いた。
「上を向いて歩こう」の歌が頭の中で流れた。
上を向いて歩こう。涙がこぼれないように、
って。
名曲だな、って思った。

「私はどうしてあの時寝てしまったんだろう。ずっと起きてクッキーを見ていれば、クッキーはひとりで逝くことはなかったのに」
最期を看取れなかった後悔がすごくあった。

知人の看護師さんが言った。
「亡くなる人って、その時を選んで亡くなるみたい。
家族に見守られて亡くなりたい人は、家族が来るのを待って亡くなるし、ひとりでそっと亡くなりたい人は、家族が帰ってから亡くなることが多い気がする」

クッキーもそっと亡くなりたかったのかな。
病院じゃなく、家で。
みんながいるこの部屋で
みんなが寝ている静かな時に。

家にあった絵本「わすれられないおくりもの」を読んだ。
今まで、何回も読んできた本だけど、この時ほど心の奥深くにしみわたったことはなかった。
すごく泣いた。

クッキーはどうしてこんなに早く、突然亡くなったんだろう、って考えていた。
聖書を読んだ。
「天の下では、何事にも定まった時期があり、
すべての営みには時がある。
生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。
・・・
神のなさることは、すべて時にかなって美しい」

私にとっては突然に感じたできごとだったけど、本当はそうではなく、「神の時」だったんだと思えた。

「去年の今頃は、クッキーは生きていたのに…」って思いながら1年経った。
もう、今日からはそう思えない。
去年の今頃、クッキーは亡くなっていたのだから。

可愛いクッキー
まったり犬のクッキー
実は頼もしいクッキー

本当に本当に、ありがとう。

これからは、
また逢う日までの毎日を
「恵みの時」
だと思って歩んでいく。

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