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小説「僥倖」

運命についての感想や解釈は勝手だ。勝手だから好き勝手だ。バーゲンセールみたいなものだと思っていた。雑多に並んだものから自分にそぐうものを手当たり次第はぐればいい。そんなものだと思っていた。でも、今、少し怖い。運命は糸に仮託されることが多いけど、とんでもない。これは水流だと私は思った。私は生まれた時から小舟で川に流されて、つまり比喩で、流れ流れて生きていく。それが運命だと、つまり打ちのめされた。気まぐれに寄った占い屋台で、私とその人の相性について訊ねたら、「暁光」と示された。ショックだった。大学生のある日私は死ぬつもりで、一晩掛けてべろべろになって、夜明け前近くの橋から川に飛び込もうとした。4時だった。夏だった。ビール、どれだけ飲んだか分からないが、真っ直ぐ歩くのも困難な状態で私は橋にやってきた。これでこのやってらんない人生もお仕舞い。ザッツオール、さようなら、と言うときに、陽が射した。あんまりにも、あんまりな陽光だった。夜に染み入るあかねいろだった。美しかった。…。それがきっかけで、私は死ぬのを止めた。私は陽射しに生かされた。で、その人は私の曙光だと言う。かぎろいだと言う。どんな通路を辿っても、私は生きるように出来ている。非常に恐く、畏しい。

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