セブンティーンアイスの思い出

「子どもの頃の大切な思い出はなんですか?」

いつも読んでいるニュースレターの最後にそんな質問があった。すぐに思い浮かんだのは、本屋へ行った後にいつも父から買ってもらっていたセブンティーンアイスのこと。

父とは毎月1冊、マンガでも文庫でも雑誌でもなんでも買ってもらう約束をしていた。本好きだったわたしはそれだけでも毎月うれしかったのに、帰り際に本屋の前にあるセブンティーンアイスの自販機でどれでも好きなやつをひとつ買ってもらえることにさらに胸が躍ったのを思い出す。雑誌買ったらかわいい付録がついてきた、みたいなうれしさだった。

30年くらい前、当時は今みたいにコンビニやスーパーにいろんな種類のアイスクリームがあったわけじゃないから、自販機一面に広がるとりどりのパネルにワクワクした。買ったあとにすぐ食べていいのもうれしかった。いつもはダメだけど、溶けちゃうから車の中で食べていいことになっていたのだ。

上蓋をめくり、ぺりぺりと側面を覆っている包装を慎重にはがす。白いバニラアイスのところどころに、リボン状のいちごソースがつやつやと光る。バニラは口に含むとシャーベットのようにシャリッと溶けて、思っていたより酸味の強かったいちごのソースが舌を刺激した。

そして父は、決まってラムレーズンを選んだ。幼いわたしはラムはどうやらお酒のことらしいと知り、レーズンはぐにゅっとした食感がちょっと苦手。ふたつが合わさるとどんな味になるんだろう……。「らむれーずん」。ら行が多い響きもなんだか大人っぽい。そもそも家ではビールと焼酎しか飲まない父と、ラムなんていう聞いたことのない異国のお酒とのつながりが全然見出せなかった。わたしにとって未知のものだったラムレーズンというチョイスは、わたしの知らなかった父の一面を見た気がして、なんだかちょっとドキドキしたのだ。

あのときからずっとラムレーズンといえば父だし、父親というロールから少し外れた父の顔を覗き見してしまったようなうれしさと気恥ずかしさ、みたいなことを感じている。

今でも街でセブンティーンアイスの自販機を見かけると、つい買いたくなってしまうし、ラムレーズンはないかなと無意識に探してしまうのです。

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