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社会派ドラマの巣窟WOWOW連続ドラマW「フェンス」

WOWOWの連続ドラマWはほぼ欠かさず観ている。昔から、地上波ではやらないような社会派のドラマが充実していて、社会問題化してから人の記憶の中で風化する前にドラマ化していくその姿勢に矜持を感じる。今回のこのドラマは野木亜紀子脚本、松岡茉優、宮本エリアナ、青木崇高をメインキャストに据え、新垣結衣、與那城奨(JO1)などの沖縄出身者や、朝ドラ「ちむどんどん」をはじめ数々の映像作品に出演し、沖縄を拠点に活動する吉田妙子など、現地のキャストも充実している(沖縄には沖縄を拠点に沖縄ローカルの番組で活動するタレントが実はたくさんいる)。


辺野古移設反対運動をしてるブラックミックスの女性がレイプ被害を訴えるが、それは運動を盛り上げるための嘘なのか。

ストーリーの幕開けから沖縄各地の映像が目に飛び込んでくる。胡坐のゲート前、キャンプ・シュワブの辺野古の海岸線などの実際の映像を映すことで、新聞やニュースでしか基地問題を知らない本土に暮らす人たちにも伝わる部分があるだろう。

現地ロケと沖縄言葉


私は数年前まで普天間基地から徒歩5分くらいの場所にアパートを借りていて、年間の何割かは沖縄暮らしをしていたので映像を見ると大体どの辺りかはわかるのだが、普天間、胡坐、アメリカン・ヴィレッジ、運動公園付近、沖縄中南部を中心としたロケをしているのでとても懐かしい。中南部は普天間飛行場や、町の面積の半分以上が基地の嘉手納町など、実は基地がギュッと凝縮されている地域だ。私が住んでいたのもキャンプ・フォスターと普天間飛行場に挟まれた日本の飛地みたいな小さいエリアの中だったし。

宮本エリアナさんや青木崇高さんが沖縄訛り(うちなーぐちではなく)でセリフを喋っているのだけど、それがとても細かく使い分けられていて丁寧な演出だと思う。うちなー同士の会話と、松岡茉優さん演じるキーのような内地の人間に対して話す時とで微妙に変化する、その感じがとてもリアルなのだ。更に「大騒ぎになったら、基地反対運動が盛り上がって県民大会になるかもしれない」など、現地では当たり前に使われていて本土では馴染みのない言葉も普通にでてくるところが良い。

県民大会というのは、県知事が公人として出席する社会運動の集会を指す。辺野古移設反対でも、過去の米兵によるレイプ事件への抗議集会でも県民大会は開かれている。開かれていると言うか、私が沖縄にいた間でも年イチは県民大会があった記憶がある。県知事が公人として出席しない場合は県民大会とは呼ばないというのが沖縄のローカルニュース番組の解説だった。その辺りは説明されないとわからない言葉だから敢えて使わないという選択肢もあったと思うのだが、沖縄の人にとって県民大会はごく身近な言葉であり、身近な集会であるのでサラッと出てきてこそ自然なわけで、それを聞いてわかる人、わからない人がいるとしても、わからない人がいてもいいという考え方はアリなのではないかと思う。言葉ひとつひとつがネーションワイドに伝わる標準語でなくても、現地のリアルを伝える言葉を優先する表現もひとつのインパクトを生むのだ。

辺野古移設と普天間基地を巡る問題


ストーリー開始早々に辺野古移設反対運動に繋げてキャンプ・シュワブの海岸を引きのショットで写してきたり、普天間の保育園に米軍機からと思われる落下物があった事件(怪我人はなし)は私も覚えているが、それに言及する場面でも「基地に反対するって私たちの存在を否定すること」「基地に賛成とか反対じゃなく、危険な運用をやめてほしい」というやりとりを挟んでくる、その細やかさに思わず唸る。実際問題として、本土では基地問題というと賛成反対の二極論に単純化されがちだが、そこに暮らす人たちにとってはそんな単純なものではないので賛成とか反対とか一言に集約できるものではないし、沖縄県民がみんな、基地に反対しているわけじゃない。Under 50は生まれた時から基地に囲まれて育ってきてる。基地に囲まれた生活がアイデンティティを形成してる。基地に反対するというより、基地に反対している人たちを否定したくない、という人が多いのではないかという体感がある。

2012年に沖縄のRBCでローカル番組として放送された特別討論番組、ギャラクシー賞にも選ばれた「ゴリMeets復帰っ子」でテーマに選ばれた「基地問題」、本土復帰以降に生まれた世代が「基地は私たちのアイデンティティの一部だし、なくなってほしいとは思ってない」と話し、それをTVで観られたというのは衝撃体験だった。もう一回観たいんだけどYouTubeにもどこにも動画が置かれてないのが残念なのだが。


普天間飛行場周辺の日常

現在第二話まで配信されている劇中で、普天間基地からの飛行機の爆音で電話の声が聞こえない、というシーンがあったが、確かにああいう状況ってたまーに、たまーになんですけどあるのは事実なんですよね。まあ中央線の線路の近くで育ってる私としては朝4時半から深夜1時過ぎまで毎日ひっきりなしに電車がゴトゴト通る方がよっぽど騒音としてはストレス、だったんだなあと普天間に引っ越してから気付きましたが。普天間自体はとても閑静な住宅街なので、その静かな中に時々、突然飛行機やヘリコプターの爆音が聞こえる。私的には中央線の方がストレスだと思うのですが、その辺も、都市型生活と離島生活、実際に体験してみないと実感出来ない部分だと思いつつ、劇中のあのシーンを見ながら「あー、TVでドラマ見てる時に飛行機の爆音来るとマジイラっとしたよなー」とちょっと懐かしく思い出しました。

日米地位協定の現在

日米地位協定で米軍人並びにその家族、基地内で働く軍属は治外法権的に護られてきたから犯罪行為をしても逃げ切れる、確かにそんな時代がずーっと、長く続いてきた。それがこの10年くらいの間で随分と変化し、現在の実際の運用は「対物を含む交通事故から不法侵入、凶悪犯罪に至るまで、そう簡単に逃げられるとは限らない」に変化している。変化しているけど、そこに絶対はない、くらいの運用だと思う。その複雑で不規則的に見える微妙なラインを、このドラマは丁寧に描こうとしている。予告を観ると、日米地位協定というフェンスに護られた米兵をこちら側に引っ張り出す困難さにこれから焦点を当てていくように見える。

セカンド・レイプ問題


レイプ事件に関して、告発すると「そんな時間に外をうろついて」とか「そんな格好で」などのレイプ被害者の落ち度の追求が始まる、その標的になりたくないというレイプ被害者の不安についても、もはやこの社会で広く知られている知見ではあるけどそれが当たり前の良識として定着しているわけでは全然ないという事実を踏まえてきちんと言語化していく、繰り返し言語化していく野木亜紀子さんの脚本は、伝えたいことで溢れているんだなと思う。彼女が書くセリフをひとつも漏らさずに聞きたい、このドラマを観るとそう思うのだ。

このドラマは全五話で、現在第二話まで配信中。WOWOWはBSを引いてなくてもタブレットやストリーミング・デバイスのWOWOWオンデマンドアプリだけでも観られる。




表紙画像は2011年に那覇で撮った虹の写真です。

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