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TikTokバズラー定点観測

先日、Wiredのこんな記事を見つけてモヤモヤした気分になった。どうしてメジャーな音楽業界までTik Tokに引きずられていくのか。そんなところに金脈は眠ってないと言うのに。

「こんな曲の始まりはどう?」と言いながら、チャーリー・プースは視聴者と一緒にシングル「Light Switch」をつくりあげていき、曲が早く最終形になってリリースされるよう視聴者に期待をもたせる。「これ、リリースしたほうがいいかな?」英国のラッパー、セントラル・シーは新曲「Obsessed With You」を試しに聴かせながら視聴者にたずねる。この曲には、以前TikTokでセンセーションを巻き起こしたピンクパンサレスの曲がサンプリングされている。ジャック・ハーロウは自分の曲「First Class」を、スタジオで踊り回る自分のキュートな動画をつけて先行公開した。フィービー・ブリジャーズのチームは、有名なインフルエンサーに新曲「Sidelines」の先行ビデオを送りつけ、シェアしてもらうよう依頼して先手を打とうと考えた。
Wired.jp TikTokは音楽マーケティングを迷宮へと導く

TikTokバズり系のフリーのシンガー・ソングライターたちは本当に、ギター片手に画面に向かってソングライティングのプロセスを丸出しにして動画を配信している。あのやり方は完全に、音楽を消費物にしてしまっているという危機感を、私は抱く。レコード会社にやれと言われているような人たちは、その場で曲を書いてるふりをするだけでいい。でもTikTokから発信しているフリーのミュージシャンたちは、自分の家の、時にはキッチンの食器や食料品が背景に映り込む中鼻歌でメロディーを口ずさんだり、リビングに座ってギターを抱えて画面に語りかけながら曲を作っていく。その過程を視聴者は楽しんでいる。つまり最早ソングライティングがポルノ化しているのだ。TikTokバズり系ミュージシャンはそうやって視聴者数やフォロワー数を伸ばしてきたからそれをやめられない。そして、出来上がった曲はストックしておいたら旬を逃すから、すぐにレコーディングしてリリースする。その結果、1-3曲入りのシングルやEPばかり数ヶ月おきにリリースして、アルバムが作れない。


TikTokバズラーの一部。順不同。
レーベル契約有りも含む。


何枚かEPを出した後、それをコンパイルしてアルバムとしてリリースしてるアーティストもいるが、それはコンピレーションであってアルバムとは方向性が異なると解釈する人もいる、私のように。才能あるミュージシャンであればこそ、アルバム単位で聴いてその真価を確かめたいと思うのだ。

それに「普通ならみんなが見せない過程を覗き見る楽しさ」というのはネット動画の世界で主軸のトレンドとなってもはやトレンドを通り越して定着した感もあるが、メイク動画などは誰でも真似できる、真似してもらってなんぼのインフルエンサーがやってるものだから異論はない。しかし「普通ならみんなが見せない過程」というのは大概、より良いものを作る努力の過程だったり、美しく変身するまでの過程だったりする。満を持して発信するからこそ、そこには驚きがあり、エンターテイメントにはその驚きが必要不可欠だ。

ソング・ライティングの過程を見てみたいと、曲を書かないリスナーたちが興味を持つのは自然なことでもある。カセットテープが普及した1970年代頃には既に、ブートレッグ(海賊版)という形で、バンドのリハーサルや練習風景を隠し録りした音源が流出して売られたり、お蔵入りにした楽曲が流出して売られたりしていたし、それを欲しがるファンは後をたたず、高値で取引されていたものがたくさんある。アーティストはそれを苦々しい思いでレコード会社と共に根絶するために奔走してきた、何故か。自信を持って聴いてほしいと思えるものを聴いてほしい。そのために、アルバム1枚30分あまりの音源を作るために何時間、何日、何週間、何ヶ月もの試行錯誤や努力を積み重ねた先に作り上げた作品を世に送り出しているからだ。

そこから50年経ってまさか、流出どころか自分から放出するようなミュージシャンが出てくるとは、20世紀のおじさんたちは思いもしなかっただろう。そしてそれによって、音楽そのものよりも「普通ならみんなが見せない過程を覗き見る楽しさ」の方が娯楽としての割合が大きくなって、1-2ヶ月という短いサイクルで細切れにリリースされていくシングル曲がひたすら消費されていく。そこに才能のあるミュージシャンが何人もいるのだから、もったいなくてモヤモヤする。TikTokで10-25万人フォロワーがいる、Spotifyで月間リスナー数100万人、年間再生回数2000万回超えのミュージシャンも珍しくない。ツアーに出れば集客できて、来年の各地の夏フェスのラインナップが続々と情報解禁になっている今、そうしたTikTokバズラーたちが名前を連ねている。

フリーランスでも世界に発信できるようになった、バンドを組まなくてもひとりで、ベッドルームから発信しても観てくれる人がたくさんいる、今までよりずっと多くのミュージシャンにスポットが当たるようになった。それはそうだろう。そして喜ばしいことだろう。だけどそれは持続可能なビジネス・モデルだとは思えない。TikTokバズり系ミュージシャンはファンベースを獲得したらとっととどこかのレーベルと契約するべきだとおせっかいおばさんのごとく説教して回りたい。

今日の1曲

TikTokフォロワー数25万超えのCateのライブの動画。客席が大合唱になっている。

@catecanning

i still cry every time i sing this song :’) #songwriter

♬ original sound - cate


今日のパンが食べられます。