見出し画像

オイディプスとアンジェラ Ⅻ

オイディプスは舞の最中に自分が吐き出す言葉の意味が無になるような感覚に浸り言葉を発するのを止めた そしてリラの旋律・笛の震えるような波動だけを感じ取って舞った 自身の動きに合わせて音域が高くなったり低くなったり 又リズムの強弱などが動きのメリハリに連動することに興奮を覚えた・・・・・・そして動きと音がほぼ同時に止んだ 自分一人の舞ではなく3人の共作で出来た舞にそれぞれが満ち足りた顔になった

ディプ ありがとう ほんとうにありがとう 今は清々しい気持ちと感
    謝で一杯だ
ア ン   はい 私達も同じです とても良かったです

             カリスは手文字を空で<何かが弾けました>と書いた

ディプ 踊りながら感じていたのだが・・・両手に持って打ち鳴らす摺
              鉦は私の踊りには向いていないと想う しかしやはり私も楽器
             が必要だとは感じている

    アンはカリスに今までの行商の旅で珍しい楽器に出会わなかっ
    たか?と問うた
    カリスは小屋に帰れば何か見つかるかも知れないし これから
    暫く熱い日中になるからひとまず小屋に行きましょうと応えた

    カリスの小屋はコの字型の園主の母屋から少し離れた処に一本
    聳え立つオリーブの木を中心に手頃な石を積み上げて作られて
    いて広々とした丸いドームのようでもあった 

    石の椅子に座り カリスが汲み置いた泉から湧く清涼な水を一
    気に飲み干すと 身体の熱がゆっくりと解き放たれていった 
    奥の隅に寝台があり カリスはそこまでオイディプスを連れて
    ゆき 暫く眠るようにと言葉を手になぞった

    さほどの疲れはないように思っていたが軆󠄁を寝台に寝そべると
    忽ち寛いで眠りに落ちた

ア ン  やはり疲れておいでなのだ
カリス 身体は結構鍛えておいでのように見受けられましたが・・・
ア ン  カリスには話しておいた方が良いかも知れないなぁ
カリス はい よくはわかりませんが・・・教えて下さい
ア ン わかった 少し長くなるが・・・

    アンジェラは王に見込まれて下僕になった時からのことをゆっ
    くりと話し出した  アンジェラの声がオリーブの老木に染み
    入るように静かに響きオイディプスの耳に心地よく届いた 
    オイディプスはアンジェラの語りの声を遠い物語のように聴い
    ていた そしてまた深い眠りに落ちた

不意に父を撲殺することとなった三叉路が夢の裡に浮かんできた
何がきっかけだったか・・・本当のところはもうほとんど忘れている
怒るべきじゃ無かったし 何故許せなかったのかも 今ではわからない
物の怪に憑かれたように 怒りの渦に巻き込まれていて そしてそれが少し快感だった
何かが抜け落ち 私は気がつくと相手(父)は息を引き取っていた
何かわからぬままに大声をだして その場から走り抜けた 真昼だった
あの三叉路は象徴的であった  私には道を選ぶことが出来ないように仕組まれていた
神もまた盲しいる時がある・・・アポロンの神託・・・もう何も言うまい

    カシスが冷たい水で絞った布でディプの額の汗を拭った 
    ディプは目覚めた

ディプ ありがとう うなされていなかったか?仕事をしなくてもいい
    のか?
カシス はい 大丈夫です 園主の許可を頂きました
ディプ そうか 優しい園主だな

    カシスは頷いて 手にある楽器をディプに渡した

ディプ これは一度視たことのない楽器だな・・・どうしたこれは
カシス 叔母との行商で見知らぬ土地にも行きました 多分その時のも
    のかと
ディプ そうか これはこのように振って音をだす楽器だな 女人でも持
    てる軽さだ

    それは東方の地の神楽鈴(かぐらすず)と呼ばれるものだった     ディプは立ち上がり柄を握りこむと上下に振った 
    それは澄んだ鈴の音で(しゃりんしゃりんと)とかろやかに響
    いた

ディプ おお これは良い 踊りのクライマックスにこれを使ってみよ                う・・・ありがとう 

    カシスはお役に立てて嬉しかった
    そしてオイディプスに、ではその神楽鈴を持って此処で踊りま
    せんかと勧めた

ディプ そうだな 此処は広いし使わせて頂き練習に励もう だが その
    前に構成と流れを考えたい 少し時間を・・・二人はその間笛
    とリラの合奏をよりよくするために話し合ってくれ・・・
    ではよろしく頼む
                            ⅩⅢに続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?