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次の部屋 Ⅳ


 止むに止まれぬ事情で部屋を後にする・・・躊躇いと仄かな期待が入り混じる気持ちを押さえて、出来たらもう一度草原の部屋に戻りたいと願ったが・・・残念ながら、そこは草原ではなかった。そこは...中世の欧羅巴のゴシック風の天井の高い大きな部屋で、一二人が座れる細長いテーブルと椅子とがあり、一番奥まった処の椅子に修道女の白い帽子のような頭巾を被った少女が微笑みながら、こちらを視つめていた。

どうやら複数の賽子を一度に振るように、出る目はめまぐるしく変わり、同じ目などは殆ど出る機会はないのだろうと考えが浮かび・・・今の現実のシチュエーションに意識を同期するのに少し間が必要だった
・・・しかし、少女の微笑みは僕を元気づけた。

 僕も微笑みながら、「こんにちは」と挨拶をした。
「こんにちは」と彼女も挨拶を返してくれた。
良かった。フランス語じゃない、日本語だ。
「お昼までには時間はまだ早いですよ。もう少ししたらみんな集まるわ」
テーブルには、食器が用意されていて、これから昼食をみんなで楽しもうという段取りらしいが、正直、少し食べ残したけれど朝食を食べたばっかりでお腹は減っていなかった。この時代は既にコーヒーがあるはずだから・・・いやお茶が無難だと考え直して僕は「出来たら、先にお茶を一杯頂けませんか?、お水でもいいです」と少女に伝えた。
少女は頷き、小さな呼び鈴を鳴らした。直ぐに後ろの扉が開いて、執事のような給仕のようなゲイリーオールドマンに似た男が入って来た。
「お呼びでしょうか?」
「ゲストの方にお茶をお願い。私はいつものをお願い」
「畏まりました」男は僕を一瞥して、すぐに部屋を出ていった。
「今、ゲストの方と言われましたけれど、僕は喚ばれていたのですか?」
「・・・・・・・う~ん、どうかな? まあ、詮索はせずに成り行きでいきましょう」

これは何処までも夢の話だけれど、語るこの話は嘘ではない・・・限りなくほんとうに近い物語なんだと考えている自分がいる。こうして僕は一連の体験しながら、物語を呟いている自分がいる・・・なんという不思議な入れ子状態!

テーブル?が遠すぎて小女の表情がよく視えない。もっと近くに寄らなければと感じていると・・・一瞬にして僕は、彼女の間近の椅子に座り直していて、はっきりと彼女の表情が視てとれた。少女はまぎれもなくマチルダだった。

                       次の部屋 Ⅴに続く

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