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少女と虹のエンジェル Ⅳ


選考会当日
少女はすべて真っ白な純白の衣装で、控え室で待っていた 不思議に落ち着いていた
あれから5日間の特訓?で毎日エンジェルは来てくれて 適宜なアドバイスや意見を優しく教えてくれたのでとても励みになったし自信になった・・・そして思った・・・エンジェルって名前があるはず・・・どうして尋ねなかったの?と自問した

番号と名前が呼ばれ、大きな舞台のある会場へ向かった  舞台の袖に審査員が数名U字型のテーブルに座っていた 何故U字型?・・・何か可笑しかった・・・ふっわと緊張が解けた・・・さあ、勝負!・・・いや
・・・それは的を射ているのか・・・勝ち負けじゃない・・・楽しく踊ろう・・・その言葉を胸に喫して

曲目はパッヘルベル カノンのさびの部分からヴィヴァルディ四季の夏の第一楽章を繋ぐ7分余りのダンス・・・一礼して・・・ゆっくりと一歩を踏み出す・・・蝶が羽ばたく小さな動作を円を描きながら 少しずつ∞の図形に変化させ 動きを加速化して大きく踊る
そして跳躍・・・あぁ綺麗に跳べた・・・次はもっと大きく跳ぶ・・・そして空で一回転・・・あぁ、これも出来た・・・フィニシュに向けて連続の跳躍・・・最後は大きく大きく跳ぶこと

しかし、少女は踊ることに余りにも夢中になりすぎて、歓びが大きすぎて・・・限界を超えて翼を広げた為に、空中でバランスを失い会場の緞帳に当たり、絹を引き裂くようにして堕ちた

リハビリセンターの庭 エンジェルと話す少女は晴れ晴れとした顔をして話し出した
「あの一瞬はまるで過去・現在・未来のすべてが叩き込まれていたよう
 に感じたわ あの瞬間の満ち足りた想いは・・・私の一生の宝物 
 ・・・後悔なんかしていない・・・でもエンジェルあなたの大切な翼
 を粉々にしてしまった どう償っていいのかわからない・・・教えて
 ・・・こんな身体になってしまったけれど・・・」
少女は複雑骨折で生涯車椅子の生活になってしまった
「ほんとうを言うとね、翼を外して時点で・・・僕はもうエンジェルで
 もなにものでもなくなったんだよ」
「ええ、それじゃ嘘をついたの、私のために・・・」
「・・・・・・う~ん、いや僕は天使の使命に迷っていた・・・いや倦
 むでいた・・いゃ一寸むいていない気がずっとしていて、切っ掛けを
 待っていたのかもしれない」
「なるほど、でも・・・」

「人として生きてみようと思ってね・・・」
「人間世界は空から視れば素敵に視えるのかしら?」
「虹のカーテンを広げて閉まってまた別の場所に移動する・・・雨の日
 は原則休みだけど・・・雨が上がる頃にはまた・・・結構忙しい でも
 みんなの綺麗だという言葉を聞くとね・・・続けていこうと思う訳な
 んだけど・・・でもやっぱり機会があれば・・・そう思ってどれだけ
 の歳月が過ぎたと思う?」
「アトランティスの時代から数えると1万年位?」
「君は・・・なかなかのユーモアの持ち主だ・・・だけどほんとうは3
 万年位かな」
「それは問題では無くて・・・あなたが此処で生きて行くためにはまず
 仕事を探さなくちゃいけない・・・何か出来ることある?」
「実を言うと僕の家系はね・・・みんな芸術家肌なんだ・・・つまり
 ・・・僕は、踊れるし・絵も描くし・笛も吹ける・・・もっともそれ
 でお金になるのかどうかはわからないけど・・・」
「そうなの そうなんだ・・・・・う~ん私は車椅子だけどピアノも弾
 けるし 楽器は大抵のものはそれなりに・・・」
「ということは、二人で即興で演奏したり・歌ったり・君の楽器の調べ
 に合わせて・絵を描いたり・・・ああ・・・一杯出来ることがある」
「何だかとても楽しくなってきたわ・・・お願い私が笛を吹くから、踊
 って!」

少女は、車椅子に掛けてある袋から篠笛を取り出すと 力強く篠笛を吹き出した 曲はエンジェルにとっては初めての旋律であったが・・・
瞑目しその調べが内包するテーマを嗅ぎ分けて 両手の指先に力を込めて赤子を抱くような仕草から 地に円を描くように足を捌き そのループを重ね・・・ずらし・・・繰り返しながらそのループが花瓣のように広がると・・・その中心に立ち、空を目指して跳躍した 
するとその姿を囲うように東南の空に虹の架け橋が現れた 少女はその美しさに吹くことを忘れ泪が頬を伝っていった 
降り立ったエンジェルは少女の方に駆け寄り・跪き・抱きしめて少女の耳に囁いた 「二人で力を合わせればきっとうまくいくよ」
「お友達? 祝福してくれているわ」「ああ そうだね・・・感謝だ」 エンジェルは車椅子の後ろに立ちゆっくりと 虹がよく視える丘へと歩き出した
二人が視る虹は消えることを忘れたように何時までも輝いていた
少女が呟いた「あなたはやっぱり虹のエンジェル」        了

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