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戯曲 『老いがいのクリスマス』シーン⑥-1「月光」師走・二十五日・十五時『クリスマス会』


   登場人物
大塚遥夏 施設長 四十九歳
上崎静雄 主任 五十二歳
久保芳明 月光利用者 七十六歳
吉岡花梨 新任介護士 二十五歳
山本咲子 介護士 三十三歳
堂本和雄 介護士 五十一歳
安田浩二 介護士 二十歳
真澄裕子 介護士二十九歳
舘川太一 介護士六十歳
野山和子 介護士 四十一歳
福森望美 三十三歳・美香 三十一歳
福森愛(母)五十五歳(新規利用者)
神岡直子(音楽療法士)三十六歳
三岸結い 三十九歳
エキストラ 利用者達・地域の人達・ボランティアの人達

   月光のリビングルーム(いつものテーブルは外に出されて三分の
   一が客席となり利用者やその家族及び地域の人達が着席している
   中央には柊模様の赤と緑のカーテンが引かれている
     そのカーテンの前に施設長の大塚が下手よりと登場する
 
大塚 皆様お待たせしました。それでは本日のクリスマス会の最終プログラムです。
「久保芳明 我が人生を振りさけみれば・・・」です。
 
   大塚一礼をして拍手をしながら、下手に消える。同時にカーテン
   が開くと、中央に小さな丸い白のテーブルと肘掛けのあるゆった
   りした椅子とオブジェ的な大木の椅子がある。上手に三メートル
   四方の和紙にスッポトライトがあたり、その横に福森が白足袋紋
   付き袴を穿いて控えている。その横に上崎が黒子の衣装で福森と
   吉岡にサインとポイントを教えられる体勢で身を潜めている
   野山は観客最前列の利用者さん七人の見守りの為に同列の端で
   待機している
   下手にも三メートル足らず小さな空間が確保されている
   インタビュー役の吉岡が下手から、久保が杖をつきながら上手よ
   り現れる 二人それぞれの席に着く
 
吉岡 皆さんこんにちは。久保さんよろしくお願いいたします。
体調は如何ですか?
久保 ああ、はいおかげさまで・・・宜しくお願いします。
(軽くお辞儀をする)
吉岡 今日は久保さんに、久保さんの人生そのものを誕生から今日までを色々とお聞きし辿りながら、それを一つの絵図として描き、またエピソードの幾つかは即興で演じるという枠組みで進めていきます。
初めての試みの上、まだ半年にも満たない私がインタビュー役を仰せつかって、緊張しています。ほんとうによろしくお願いいたします。
では、進めて参りますね。最初にお生まれは何処ですか?
久保 儂は、いや私の田舎は三重県、伊勢市。明星という処で生まれました。家は農家で三人兄妹の長男でした。野良仕事が嫌だと言ったら親父が「それも、いいだろう」と言って中学校を卒業したら、すぐに奉公に出されました。遠い親戚が宮大工で、手に職をつければ一生困らんぞと・・・嫌もこうもなく連れていかれました。
吉岡 それは大変でしたね。まだ十六歳ですよね。宮大工の奉公なんて・・・でも頑張って宮大工になられたんですね。
久保 いや、そうはいかなかったんです。修行はね、十年間は一緒に共同生活で学ぶと言うカタチで、私にはそれが馴染めなかった。たった三年で尻をわってしまった。
しかも、当時一番よく面倒をみて貰った兄弟子の婚約者と出来てしまう。
吉岡 ええ!それは・・・一寸・・・略奪婚あるいは駆け落ち?
 
   上崎より相手の話に批評的コメントを入れないとサインがでる
 
吉岡 ごめんなさい。余計なことを言ってしまって・・・
久保 (右手を振って、笑って)縁だよ。成り行きだよ。
若かっただけのことだ。女房もね。
吉岡 はい、それでどうされたんですか?
 
   中央の淡い光がゆっくり消えて下手に、燿子役真澄・久保役安田
   がもつれるよう にして登場する。
 

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