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次の部屋 Ⅱ

振り返ると、部屋は跡形もなく消え去り、なだらかな丘の上に僕は居て、その側には手の形をした銅のドアノブだけ落ちていた。意味もなくその銅のドアノブをポケット に入れて・・・そのノブは中が空洞で驚くほど軽かった・・・草原の空気を胸腔にい っぱい入れ込んだ。
なんだか、ビートルズの「Fool on the hill」を思い出して最初のフレーズを口ずさんでみた・・・

Day after day, alone on a hill
一日一日丘の上で一人いる
The man with the foolish grin is sitting perfectly still
呆けた笑みを浮かべて彫像のように佇んでいる

僕は、この丘の上で軽く座禅を組んで、改めてそこに繰り広げられる風景をゆっくりと見渡した。ここのお花畑は「去年マリエンバードで」の映画に出てくる庭園のように幾何学的に配置されていて、視る者に意味的バリエーションを解くことを余儀なくするという構成だった。花はジャーマンアイリス(虹の花)でその色彩がまた意味を深化させていた。

瞑想的な気分になるのを押さえて、ひたすらこの風景に溶け込もうと一心した。

Nobody wants to know him   誰も知る人もいない
They can see that he's just a fool 愚者にしか視えない
But he never gives an answer   彼は黙して語らない

そう、僕は沈黙が好きだ・・・なぜなら自由でいられるから

But the fool on the hill  しかし丘の上の愚者は
Sees the sun going down 陽が沈むのを視
And the eyes in his head 心眼で
See the world spinning round 廻り続ける世界を視る

Well on the way, head in a cloud
想像を羽ばたかせ
The man of a thousand voices talking perfectly loud
愚者は壱千の声を使い分けて夥しい声を放つ
But nobody ever hears him or the sound he appears to make
しかし、その声を聴いた者は誰もいない
And he never seems to notice
愚者は自然にある

And nobody seems to like him, they can tell what he wants to do
好意を寄せる人はいないし、彼らは愚者のほんとうをわかったつもりでいる
And he never shows his feelings
愚者は表情を崩さず裡に秘める

ここまで歌詞を口ずさんで・・・僕はこのような愚者にはなれないのだとわかった。

雲が流れ、陰が刺した。すると陰の部分にまた部屋が現れた。
                  
                        次の部屋Ⅲに続く

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