何物にも変えられない譲れないもの
「死にたがりの君に贈る物語」
私はこの本をTikTokで知った。
様々な本を紹介しているユーザーの動画がたまたま流れてきて、その紹介ぶりと表紙の綺麗さに興味を持った。
彼が言うには、「推しがいる人、大切なものがある人にはぜひ読んで欲しい」と。
私には推しがいる。それは自分の中で何よりも優先してきたもので、推しをみると心がわくわくしたり幸せな気分になったりする。だからぜひこの本を読んでみたいと思った。
【あらすじ】
物語は、人気シリーズ小説を書く年齢も性別も公開されていない作家、ミマサカリオリの死から始まる。
その訃報は瞬く間に日本中に広がり、インターネットではさまざまな憶測や悲しみの声が上がった。
ミマサカリオリの作品に浸透していた一人の女子高生、中里純恋は自殺をはかってしまう。
彼女の自殺は未遂に終わったものの、「シリーズの結末が読めないなら死んだ方がマシだ」と、生きる希望をなくしてしまった。
ある日ファンの間で、シリーズの結末を探るため小説の物語を現実世界で再現してみようという企画が始められようとしていた。
純恋はすぐに企画に参加し、集まったのは物語の登場人物と同じ、七人の男女だった。
彼らは人里離れた廃村で共同生活を始めることとなる。
【感想】(ネタバレ含む)
集まったファンの中でも純恋の作品に対する愛や情熱は飛び抜けていて、自殺行為に出る気持ちも分かった気がした。
ミマサカリオリが他人を信じられなくなり、自分をも信じられなくなるほどネットの書き込みや匿名での誹謗中傷は人の精神を壊していくのだと胸が痛くなった。
作品を絶賛し、週一でファンレターを送ってくる純恋を目の前にしてもその壊れた心は簡単には修復しないことが、ミマサカリオリの深い闇が垣間見えた。
呪いとも言える純恋の純粋な願いに、ミマサカリオリは作品の続きを最後まで書くと決めた。特に感極まったのは、最後の2ページ。
彼女の作品にはこれまで1度も無かったのだが、最後のシリーズではあとがきが書かれていた。
その内容は純恋に向けたメッセージなのか、文字を一つ一つ読む毎に涙が溢れてきた。
彼女がいるから純恋が生きていられるのであり、逆もまた、純恋がいるから彼女を小説を書き続けることができるのだと。
推しでも家族でも友達でも、大切な譲れない何かがあるなら、最後までその思いを伝えていくことの大切さをこの本から学んだ。
この作品に出会えてよかったと思う。
#読書の秋2021 #死にたがりの君に贈る物語 #読書記録
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