「グランメゾン東京」第10話レビュー

 リンダは怖いんだよね。
 圧政を敷く権力者っていうのは、意識的には無意識的にか民を恐れている。どちらかといえば、自らに生じる民への恐怖を圧政によって無意識に抑圧しているのだろう。リンダもその部類なんじゃないかって思えてきた。尾花や平古くんをここまで執拗に追いかけ(冷蔵庫の中まで確認するか)、何度も何度も「星を取れなくさせる」だの「ミシュランの有力な調査員に知り合いがいる」だのと尾花たちに脅しをかけ続ける。しかも金銭的な要求などを突きつけることなどなく、ただ、自分のプライドと、現在の地位を守るために、そして尾花と平古を恐るがあまり脅しをかけつづける。ここには「美食家」としてのリンダの誇りはない。「地位と名誉がある人ほど耐えられない、料理人ごときに顔を潰されるのが」と、リンダも言っている。

 一方、そこで自らのプライドを見せたのはgakuのオーナーの江藤。最高の一皿は「金」によって成り立つと豪語する。まさに第1話のレビューに書いたように、資本主義を体現する者として再びドラマの中に姿を見せる。しかし、今までと違ったのは「三つ星の向こう側」を見ていた江藤の姿だ。
 尾花や丹後「三つ星を獲る」ということを「目的」としている。一方江藤は「三つ星と獲る」ことによって、コストを度外視した最高の料理を客に提供する「究極のレストラン」を作るという構想を明らかにする。つまり、江藤にとっては「三つ星」は「目的」ではなく「手段」なのだ。リンダ、倫子も含めて他の登場人物は「星」自体に執着する。江藤はそこからは一線を画しているということがわかる。
 リンダは恐怖に支配された哀れな独裁者である一方、江藤は自らの信念と理念に基づいて、時には手段を厭わない場面もあるが、厳しい決断をしてでも自分の店を最高のレストランへと成り上がらせようとする指導者である。金ですべてを解決する、という信念には同調はできないし、決してこれが正義としてまかりとおるとは思えないが、少なくともリンダよりも筋の通った人物として私の目には映る。だからこそ、江藤は丹後をクビにしたことを強く悔いた。あの最後の礼のシーンはよかった。なんというか、勧善懲悪的なこてこてドラマを演出していた江藤だったが、その信念を最後に垣間見ることができてなんだかうれしかった。

 あとは、やっぱり倫子って強いなっていうことも改めて実感した。第1話、星を獲るために単身フランスに乗り込んで無謀とも思えるオーディションに受けたときから、やはり無鉄砲な人だったけど、今回の京野さんに対する「ぼんやりした料理」発言もそうだけど、この人も大概図々しくて、デリカシーがなくて、大胆な人なんだよね。だからこそ、尾花と対等に渡り合い、独裁者からリーダーへと変貌させることができたのだろう。

 あとは、結局「ONE PIECE」的、仲間集めドラマとなったわけだけど、仲間を集めるのと並行して、お店のコンセプトも徐々にはっきりしていく脚本がすごい。相澤とのアイディアを組み合わせたナスの料理、凛子が苦心しながら体得したジビエのメイン、京野・久住がタッグになることで深みを見せていった日本産ワイン、そして平古とのキジバトのメイン。レストランの色までも細部に渡って規定しながら、その独自性を物語の中に編み込むのってすごい技術だと思う。まぁ、ワンピの焼き回しっていう評価もあるけど、ちゃんとレストランドラマとして成り立たせているあたりは見事。

 さぁ、来週は泣いても笑っても最終回。先週言った通り、ここで三つ星が獲れなくても別にいいんだけど、どんな展開が待っているのか。楽しみ楽しみ。

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