【ゆ虐SS】雨の日の誤解

 2日間ほど雨が降り続いていた。川の水位が段々と上昇し、河川敷にはじんわりと水が滲んでいる。

「あめしゃんやまにゃいね…おちょーしゃん、まーちゃあきちゃったよ」
「ゆぅ…きっともうすぐやむのぜ。もうすぐ…」

 まりさと赤まりさの親子が段ボールのおうちの中で雨を凌いでいた。まりさの番だったれいむは、3匹いたうちの2匹の子供たちと一緒に食べ物を人間に要求し、蹴飛ばされた直後に車に轢かれて死んだ。

 まりさは悲しみに震えていた。いったいなぜこんなことになってしまったのか。本来ならば家族一緒に河川敷でしあわせー!に暮らすはずだった。長く雨が降っているために、そこら辺を歩く糞人間たちに制裁を加えてやることもできない。惨めな境遇に悔し涙を流す。

「おちょーしゃん、にゃかにゃいでね」
「ゆぐぐっ」

 子供に慰められているという事実に、さらに情けなさと悲しみが増幅させられる。

 まりさは気付く。どんなに落ち込んでも仕方がないのだ。亡きれいむと他の子供達のため、この子をしっかりとしたゆっくりに育てるのだ。そして、いずれ人間へ復讐をするのだ。

「おちび!まりさはないてなんかないのぜ!めからあせがながれてるだけなのぜ!おちびのために、ないてるひまなんかないのぜ!」
「ゆぅ〜!おちょーしゃんかっきょいいにぇ!!」
「いっしょにおうたをうたうのぜ!あめさんもまりさたちのおうたをきいたらきっとどこかににげていくのぜ!ゆっくりのひ〜まったりのひ〜」
「ゆぴぴぴ!あめしゃんはなしゃけにゃいねっ!まーちゃもゆっきゅりうちゃうよ!」

 力強く生きる家族の姿がそこにあった。そこに近づく足音に2匹は慄いた。

「おちびい!!しずかにするのぜ!!くそにんげんがきたのぜ!!」
「ゆっぴいいいいいい!!!きょわいよおおおおお!!」
「おちつくのぜ!おとうさんがついているのぜ!さいっきょうっ!のまりさとれいむがいればにんげんなんていちころなのぜ!」
「しょっしょうだにぇ!ゆっゆ〜!くしょにんげん!かかってくるのじぇ!」

 人間は段ボールを覗き込んだ。

「やあゆっくりさんたち!こんにち…」
「ゆがああああああああ!!!くそにんげんがああああ!!!まりさたちをころそうとしてもそうはいかないのぜええええ!!!」
「いや、あの…」
「くしょにんげんはしゃっしゃとしにぇええ!!!」

 まりさは手を伸ばしてきた人間の手に噛み付いた。赤まりさはぷきゅー!と頬を膨らませて威嚇している。

「うわっいてぇっ!」
「(ゆっふっふ!くそにんげんはいたくてうごけないのぜ!おちびがこのままぷきゅー!でこうげきしつづければくそにんげんはこわくてしんでしまうはずなのぜえええ!いけえおちびいい!)」
「まーちゃがくしょにんげんにとどめをさしゅよっ!!ゆっおおおおお!!」

 勢いよく赤まりさはジャンプし、糞人間にとどめの飛び蹴りをかまそうとしたが、意気もむなしく届かず水浸しの地面に突っ込んだ。少量の水気を含んだ地面も、赤ゆにとっては硫酸の池と同じだ。

「(おちびいいいいいいいい!!!!なにやってるんだぜええええええ!?!?!?!」
「ゆぴゃあああああああ!!あんよしゃんとけにゃいでえええ!!おちょおしゃたしゅけっ…がぶがぼおお」
「えぇ…」

 赤まりさは溶けて死に、人間は困惑した。人間は噛みつかれた手を振り払った。まりさは振り回され、段ボールのおうちはその家具と一緒に河川敷にぶちまけられた。まりさは顔面を地面で少し擦ったあと人間を睨み据えた。

「くそにんげんがああああああああ!!!よぐもおちびぢゃんをおおおお!!!」
「えっいや…」

 まりさは絶望した。もはや自分に助かる道はない。雨がだんだんと体に染み込みm自分にこの人間を殺す力はもはやないと悟る。

 段ボールの家や、その中にあったタオルや空き缶の蓋が散らばっている。れいむとの初恋、はじめてのおちび、近所のケチなげすゆっくりを制裁して獲得したふかふかタオル、おちびたちが宝物にしていた缶バッチ、その全てを守るため、まりさは意を決して叫ぶ。

「ゆひっゆひひひひひ!!くそにんげん…!まりさはぜったいにおまえらにはくっしないのぜえええ!!!」
「はぁ?」

「おたべなさいっ!!!…ぴっ」

 突如まりさの体が真っ二つに割れた。「おたべなさい」とは本来は自らの子供の食糧に自分の体を捧げるための行為だが、自決方法に使うゆっくりもいる。

 河川敷に転がっているまりさの死体を見て人間は唖然とした。

 人間はゆっくり愛護団体「ゆっくりんぴーす」の人間だった。長雨によって野良ゆっくりの生活に悪影響が及ぼされることを危惧して、非常餌や防雨用の巣箱などを配っていたのだ。

「どうすんだよこれ…」

 川の水位がだんだんと上昇し、まりさの死骸が段々と水に流されて行く。

 人間は靴を濡らしながら急いで河川敷を後にした。


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