側溝のゆっくり


 都市部に住む野良ゆっくりは、主に公園を生活圏としている。雑草や虫などの食物も豊富であり、何より人間との“協定”によってどこよりも安定してゆっくりできる場所だからだ。

 協定とは、ゆっくりに草刈りや虫退治等の仕事を与える代わりに公園に住まわせてやるというものだ。人間にとっては下手に知能があるナマモノを都合よく管理出来るので、願ったり叶ったりなのだ。

 しかし、当然公園以外にも生活圏をもつアウトローも中にはいる。彼女(?)らは人家の庭、屋内、屋根裏、床下、側溝などである。それらを生活環境とするゆっくりは通常のゆっくりと大別して家ゆと呼ばれる。家ゆは普通のゆっくりに比べて非常に体が小さく、大きくても通常の子ゆ程度だ。それに胎生(もしくは枝生)ではなく卵生だ。そのために数を増やしやすく、通常のゆっくりに比べて独特な社会性を持つ。中でも側溝に住む野良ゆは、非常に危険な環境に住んでいるが故に独特の変異を遂げている。

 ここでは人間との関わりが比較的少ないためにあまり知られていない、「側溝ゆっくり」を紹介する。 

 蓋のされた側溝は側溝ゆっくりたちの絶好の住処だ。暗くじめじめした側溝の中で、彼女らは群れを作る。意外なことに、側溝に住むゆっくりの大半は一般的なゆっくりの群れと同じくれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりーで構成される。にとり種やまりさつむりなど水生の希少種の割合も特に変わりない。

 一般的なゆっくりとの違いはその社会構造だろう。群れは2、3の世帯で構成される。一夫一妻の家庭のもとには300ほどの子供が生まれる。女王ゆっくりは一度に30匹ほど生み、10回の出産を終えて寿命が尽きる。王ゆっくりは一家のリーダーとして10年というゆっくりとしては非常に長いゆん生を送る。

 300匹もの子供の数は繁殖力の高い家ゆとしても異常な多さだ。100人の子供のうち、早く生まれた順に一族の継承権が与えられる。大抵、1番目から10番目の子供は世継ぎ候補(王子)として大事に育てられ、それ以外の子供は労働力や資材として見なされ、生殖能力は失われる。

 資材というのはそのままの意味だ。資源に乏しい側溝では、ゆっくりの体も充分有用な食料や建築資材として扱われる。食糧不足時の非常食として、少量の水を避けるための高台として、大雨が降った時にはおさと世継ぎを乗せる救命ボートとして、子ゆっくりたちは貴重な資源となるのだ。

 しかし、側溝ゆっくりたちが日常的に同族殺しやゆん食をしているわけではない。彼らの基本的な食事は苔や虫、たまにトカゲやヤモリだ。また狩猟だけでなくまれに農耕も行う。落ち葉を腐らせて腐葉土を作り、それを使ってキノコを生やしたり、土そのものを食べたりするものもいる。全体的に狩猟によって生計を立てている群れが多く、他のゆっくりよりも身体が頑強だと言える。

 彼女らの狩猟や農耕を支えるのは、複雑に張り巡らされた側溝ネットワークだ。群れ同士は10匹の通信ゆを持ち、それらを使って情報交換をする。ドブさらいの情報や、道路工事による居住空間の消滅など、さまざまな情報を共有する。群れの消滅・合併、戦争の成否など、重要な群れの意思決定なども通信ゆによって伝搬される。

 群れの意思決定は群れの各家庭の王ゆっくりによる合議で行われる。互いの意見が対立することはほぼない。王による意思決定は王子ゆっくりたちによって労働ゆや資材ゆに伝えられる。

 王子ゆっくりは王の寿命が尽きると自動的に年長者が王になる。大抵同じ群れの別の家族から女王をもらうが、別の群れから女王を取ることもある。王になれなかった王子は群れから放逐される。放逐された王子たちは他の場所で群れを作るが、他の群れに入って女王となる王子もいる。

 側溝ゆっくりは他のゆっくりに比べて非常に真社会性の高い種族である。他ゆっくりが自分のゆっくりを第一に行動するのに対し、側溝ゆっくりは第一に王ゆのゆっくりを考える。王にとってのゆっくりプレイスこそ、他王子や労働・資材ゆのゆっくりプレイスなのだ。ゆっくりの中央集権体制だと言えるだろう。

 最後に、他のゆっくりから見た側溝ゆっくりの意見について紹介する。1匹の通常れいむを用意した。両親ともにゲスではなく本ゆんもいたって善良で賢い個体だ。そのゆっくりに捕獲した王ゆ、王子ゆ、労働・資材ゆをみせたところ、王ゆを非常によく可愛がる反面、後者2匹をまるでいないものかのように扱った。

 私は霊夢に対して王子と労働・資材ゆへの感想を求めたが。れいむはキョトンと不思議そうな顔をした。

「れいむおにいさんがなんのこといってるかわからないよー。ゆっくりなんてどこにもいないよ?」

 れいむの目にゆっくりはどこにも映っていなかったのだ。



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