公園の傷まりさ パート2



  公園の群れの保育園は、保育士のありすを中心にとても強い権威を持っている。

 規模の大きいゆっくりの群れには保育園と専門の保育士がよく存在するが、その役割は非常に限定的だ。大抵のゆっくりの家庭は夫婦で役割が分かれている。例えばれいむとまりさの番であれば、まりさはもっぱら日中狩りに行き、れいむは専業主婦として子育を行う。保育園は両親不在時に一時的に子供を預かったりするだけだ。

 しかし、この公園のゆっくりたちは基本的に両親どちらも出産や病気・ケガ以外の時期はフルタイムで労働に身を捧げているので、群れの赤ゆ〜子ゆの子育てはもっぱら保育士に預けられる。そのために、群れの子供たちにとって保育士は第二の親となりうるのだ。

 群れの子育てがこのようになっているのは、おさのぱちゅりーの意向があってのことだ。公園という生活環境は人間との接触が絶えない。群れの一部のゆっくりが人間に粗相をすることが群れ全体に害を及ぼしてしまうことも多い。各家庭に子育てを任せた結果ゲスに育ってしまうリスクをさけ、子供たちの育成を群れの方針に沿わせるために、保育士のありすに子育てが一任されているのだ。反対するゆっくりもいたが、おさぱちゅりーの権威は非常に強く、逆らうゆっくりは誰もいなかった。

 保育士ありすはおさのぱちゅりーに次ぐ賢いゆっくりだ。数を数えるのは苦手だったが、ゆっくりの顔(もしくはお飾り)を覚えるのが非常に得意で、基本的に頭が悪いゆっくりに物を教えるのも得意だ。また腕っぷしが強く、大きな虫やネズミがいたら追払い、子ゆっくりに跳ねっ返りがいたら容赦なく愛の鞭を加える。そんな賢く力強いありすを子ゆっくりたちは畏敬し、憧れを抱いた。

 そんなありすにも一つ欠点がある。非常に面食いで性欲が強いことだ。保育園の中で美ゆを見つければ優遇し、ある程度育ったらすぐ自分の妻としてしまうのだ。ゆっくりには珍しい一夫多妻制だ。ありすは自分の妻を自分だけの私兵・労働者・制欲の捌け口として使っていた。

 このことはおさも知っていたが、ありすは教育者・管理者として非常に有能なので黙認している。おさの他の側近の中にはこのことを快く思わないゆっくりもいたが、特に何も是正はおこわれなかった。他の側近も私兵や固有の労働力を持っているからだ。それにしても保育士ありすの持つ妻は多く、先祖にれいぱーがいたとか、そういう噂が絶えない。

 傷まりさを手助けしたあの若いれいむは保育士ありすの一番新しい妻で、他の妻に比べてとてもよく可愛がられている。保育士ありすとれいむの間にはれいむとありすの2匹の子供がいる。

 動物の調査を任された傷まりさだが、その仕事内容はいたってシンプルである。まず傷まりさの家から山に向かってまっすぐ進みながら、地面をならし道を作っていく。そしてある程度行った地点で前線基地を作っていく。その間に見つけた動物をおさに報告し、可能であればその場所から追い払うのだ。

 傷まりさは巣から100メートルほど歩いた地点で基地を作り始めた。木の根の間に穴を掘り、ゆっくりが数匹隠れられる程度の穴を掘る。そしてそこに「けっかい」を設置する。けっかいといっても数本の木の枝で入口を封鎖しただけだが、ゆっくりにとってこれは大きな目印だ。

 草陰から葉の擦れる音がした。傷まりさと同じくらいの大きさの動物だろう。段々と近づいてくる何かに傷まりさは身構えた。

「やっぱりまりさだぁ!」
「!?」

 あの若いれいむだ。傷まりさは心底驚いた。

「なっなんでここにいるのおお!?」
「やっぱりあのときのまりさ!やまのなかにはいっていくからついてきちゃったよ!」

 あっけに取られる傷まりさをよそに、れいむは体を震わせ頭のリボンについた葉っぱを払っている。

 この若いれいむは傷まりさのことをよく覚えていた。風貌が奇妙で皆から嫌厭され、1匹だけ離れた場所に住んでいることは、事情を知らないれいむの好奇心をくすぐった。なのでついてきたらしい。

「こっ、ここにいたらあぶないんだよ。もどったほうがいいよ」
「ゆぅ?ゆっ!かえりみちわすれちゃったよ!れいむってばうっかりー!」

 れいむは愛嬌だけで頭は悪いようだ。両親ともに金バッチでゲス化とはほど遠い血縁なので、飼いゆっくりとしては非常に優秀だっただろう。ありすに見初められたのは非常に幸運だった。

「ゆう…しかたないね。まりさについてきてね」

 迷子のゆっくりと一緒では調査の任務なんてできるはずがない。ましてやれいむはあの保育士ありすの妻だ。おそらくすっきりーと美容法以外のものを知るまい。早めに帰さないと危険だ。

「ありがとだよぉ〜!まりさはやさしいねっ!」

 傷まりさの胸がときめいた。もとより好感を抱いていたのは事実だが、愛嬌尽くしのれいむの声と喋り方には独特の魅力があった。キャバ嬢に恋する非モテ男のような感情が傷まりさの中にあった。

 急いで公園の方に向かおうとすると、また葉の擦れる音が聞こえた。

「ほっほかにだれかいるの?」
「れいむひとりできたよ?」

 段々と音が近づいてくる。足音からしてゆっくりではない。その素早い足音のリズムから傷まりさは動物だと悟った。

「あぶないよぉ!」
「ゆゆぅっ!?!?」

 傷まりさはれいむを無理やり穴の中に押し込んだ。段々と足音が近づいてくる。おさげで木の枝を掴み、地面に打ち鳴らして威嚇した。音が消えた。居なくなったのだと一安心した傷まりさに、灰色の毛の動物が襲いかかった。アライグマだ。

 アライグマは傷まりさの顎(胸?)に噛み付いた。牙はあんこに到達したらしく少量のあんこがもれた。弱っているらしく、所々毛が剥げている。傷まりさは体を転がしアライグマの上乗りになった。

「ゆがあああああああああああ!!!!!!」

 傷まりさはアライグマの首に噛み付いた。アライグマは爪を立てて応戦したが、元から弱っていたのもあって傷まりさを退かせるには至らなかった。

 ゆっくりの顎は体の大部分を占めるだけあってそれなりに強力だ。栄養失調の野良ゆは歯が脆く、その力を100%生かすことは難しいが、公園のゆっくりは栄養も充分で歯も硬いのだ。

 傷まりさの顎の力は、アライグマを出血させるまでには至らなかったが窒息させるには充分だった。アライグマは呼吸ができず動かなくなった。アライグマが動かなくなると、穴から覗いていたれいむがひょっこり出てきた。

「どうぶつさん…しんだの?」
「たぶん…しんひゃよ…」

 れいむは恐る恐る動かなくなったアライグマに近づいた。横に立つ傷まりさは歯茎から餡子を出している。顎もフルパワーを出したのて震えていて、体中の至る所から餡子が滲んでいる。傷まりさは前のめりに倒れた。

 「ゆひいいいい!!!まりさああああああ!!!」

 れいむは卒倒した傷まりさを見て驚愕した。体から餡子を漏らしているのは、ゆっくりから見れば内臓がはみ出ているのと同じだ。れいむは急いで傷まりさを穴の中に引きずっていった。

 穴の入り口から差し込む光で傷まりさは目を覚ました。下腹部には、止餡用の大きめの葉っぱが巻かれている。傷まりさの横にはれいむがいた。傷まりさが体を動かしたのに気づいてれいむは目を覚ました。

「ゆゆっ!目を覚ましたんだね!よかったよぉ〜!れいむとってもしんぱいしたんだよっ!」

 傷を治療したのはれいむらしい。れいむは自らの見事な救命にえっへんと胸をはっている。実際葉っぱの巻き方は雑だったが、一応傷からの餡子は止まっている。

「まりさもめがさめたし、はやくむれにかえろうよ!れいむおなかすいちゃった!」

 傷まりさはれいむに支えられながら共に下山した。

 群れでは傷まりさのことよりも、れいむが失踪したことが騒がれていた。保育士のありすはひどく狼狽していた。

「ありす、ひとまずおちつきなさい。きっとれいむはだいじょうぶよ」
「はああああああああああああああ!?!?!?おさはぁ!れいむがたゆんだからあんしんしてるだけでしょおおおお!?!?れいむはありすのかわいいおくさんなのよおお!?!?」
「あなたがおちつかないとみんなゆっくりできないわ…」
「ありすのおくさんがいなくなってゆっくりできるやつがいるわけないでしょおお!?」

 そこに傷まりさとれいむの生存を知らせる報告があった。ぱちゅりーとありすはお供を連れて急いでそちらへ向かった。

「れいむううううう!!!しんぱいしたよおおおお!!!」
「ゆう〜!しんぱいかけてごめんなさい!」

 大粒の涙をこぼしながら喜んだのも束の間、今度は傷まりさの方に向かい怒号を飛ばした。

「おばえかあああああああ!!!!ありすのかわいいれいむをうばおうとしたのはあああ!!!」

 ありすの巨体が傷まりさにぶつかった。傷まりさは吹っ飛ばされ、ありすのお供が傷まりさに飛びかかろうとした。すかさずれいむが怒り狂ったありすを制止した。

「ちがうよお!まりさはれいむのことをどうぶつさんからまもってくれたんだよお!」

 れいむの口から動物という言葉が出たことにおさもありすも驚いた。あの傷まりさが動物を追い払ったのか?おさとありすには信じがたかった。

「ねぇれいむ、どうぶつさんってどんなどうぶつさんだったの?まりさがおいはらったの?」
「はいいろでつめがあってとってもこわかったよ!まりさがどうぶつさんをたおしたんだよ!」

 倒したという言葉にさらに一同は驚いた。あの脆弱なゆっくりが1匹で哺乳動物を殺したのだ、これは相当の大事件だ。みなが傷まりさを称賛した。

「まりさ。ありすはあなたをかんちがいしてたわ。とかいはじゃなくてごめんなさい」
「すごいよー、まりさはとってもつよいんだねーちぇんはわかってたよー」
「みょーん!まりさのことみなおしたみょん!」

 3日と経たずにこのことは群れの全ゆっくりに伝わった。今まで傷まりさを疎んじいじめていた皆がその武功を褒め称えた。おさぱちゅりーは傷まりさを「どうぶつちょうさかん」から「どうぶつたいさくぶたいちょう」に昇格させた。役職の名前は適当だった。おさぱちゅりーは対動物の防衛で、ある程度の権力を持ち自分が自由に動かせる部下を欲しがっていた。それほどに群れの中での派閥争いは酷かったのだ。

 傷まりさには5匹の部下が与えられた。おさぱちゅりーからではなくなんとあの保育士ありすからだ。体当たりした詫びということだが、本心は違っていた。おさの地位を狙う保育士ありすは、人気がうなぎ登りの傷まりさを自分の影響下に加えたがっているのだ。5匹の部下も表向きは傷まりさに従うつもりだが、保育士ありすの部下であるという気持ちは残っていた。

 ☆

 傷まりさは自分が動物より弱いことを知っていた。あの動物が弱っていなければ今頃自分とれいむは食い殺されていただろう。まぐれ勝ちで褒め称えられたことに嬉しさを感じつつ恐ろしさも感じていた。動物から群れを守るために何をしなければならないのか、とりあえずおさぱちゅりーに意見をもらいに行くことにした。そしてこれはおさぱちゅりーの目論見通りだった。

続く



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