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これは令和の短歌革命 - 榊原紘 『推し短歌入門』(左右社)

ふだんの記事では、複数の本を〈読書マップ〉という形でまとめて紹介してきましたが、今回は単推ししたい本があります。

それが榊原紘「推し短歌入門」(左右社)です。

冒頭は左右社さんの公式 note で無料公開されています。

この本で言うところの「推し短歌」とは、アニメや漫画のキャラクター、あるいは俳優など現実の人物への、あふれる愛情=推しを原動力にした、あたらしい短歌のかたち。
世に短歌入門書は星の数ほどあれど、このような形でターゲットを絞ったものはおそらく類例がなく、まさに令和の短歌革命といえるでしょう。

また、推し短歌という切り口を採用しつつ、短歌の基本的なルール(五七五七七の数えかた、表記方法など)を含めてしっかり解説されているので、なんだか最近短歌が気になっている、という方にも広くおすすめできます。

わたしも令和になってから短歌をはじめて、いくつかの歌会に参加したりもして、自作としての短歌の詠み方、他作としての短歌の読み方を学んできました。
その経験と照らし合わせても、本書を読むと、推し=対象との距離感をこう取ればよかったのか、と勉強になることが多いです。
特定のキャラクターを連想するような詠い方はしてこなかったものの、短歌以外の趣味、偏愛するものを詠みこもうとしたことはあります。
その場合、エッセイのように好きなものの情報を伝えよう、説明しようとしてしまうと、短歌としては失敗することが多いです。「散文的」とよく言われる状態です。
そこで推し短歌原則の一、〈原作を知らない人が読んでも短歌としてよいものを作る〉です。
短歌というフレームにのせる以上、情報ではなく、短歌としての良さを追求するのは、とても大切なこと。
対象との距離、視点を固定せず自由に切り替えることで、視野狭窄的ではない愛がはぐくまれるのです。

すでに自分の趣味を持っている方にこそ、読んでほしい本だと思います。
今あるフィールドに、短歌という小さな隠しとびらを開けておくことで、新たな視界が広がるかもしれません。
そして、短歌という共通言語を介して、また違う趣味の方ともつながることができます。

いずれ、実践編としての「推し短歌会」も「推し短歌入門」読書会とあわせて、やってみたいですね。


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