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読書マップダイブ・将棋のタイムスケール

読んだ本どうしの関係性を地図のように整理する〈読書マップ〉。

月1ペースの読書マップの公開に加え、マップに登場した各ジャンルについての話題を深掘りする試みもはじめてみようと思います。

あるジャンルの本を何冊も読むということは、そのジャンル自体に惹かれるものがあるということ。
マップの奥深くにひそむ、その魅力はなんなのか。
中沢新一さんの「アースダイバー」(講談社)にならい、読書マップダイバーとなって探検してみましょう。
(アースダイバーについては次回の読書マップで紹介予定)

今回取り上げるのは〈将棋〉

読書マップに書いたとおり、令和3年の現在で実力・人気ともトップクラスなのは藤井聡太三冠でしょう。

それでも昭和生まれとしては、それまでの将棋のイメージを一新して登場した羽生善治さんをはじめとする世代の強さが強く印象に残ります。
子供のころ家でとっていた新聞の将棋欄を切り抜いて、ルールもあやふやなままに棋士の人となりを想像するという、今から思えば〈観る将〉のはしりのようなことをやっていました。

〈観る将〉とは、自分で将棋を指すよりも、主に棋士による対局の観戦を楽しむファンのこと。

棋士である高野秀行さん(ノンフィクション作家の高野さんとは同姓同名の別人)・岡部敬史さん・さくらはなさんの「将棋『観る将になれるかな』会議」(扶桑社新書)などを参照。
渡辺明名人の奥様・伊那めぐみさんによる漫画「将棋の渡辺くん」(講談社)も必見です。渡辺さんをはじめ個性あふれる棋士の姿が楽しい。

将棋とインターネット配信は相性が良いようで、かつてはニコニコ動画、現在はAbemaTVで連日のように将棋の対局が中継されています。

藤井さんの三つ目のタイトル「叡王」も、もともとニコニコ動画のドワンゴが主催していた、最も歴史の新しいタイトルです(今年度より不二家と日本将棋連盟の共催)。
叡王戦以外のタイトルはすべて新聞社が主催・共催していて、かつては新聞に人気のある棋譜を掲載することで売上を伸ばしていた、という歴史もあるそうです。
ちなみに、何故か実家では地方紙と読売新聞の二つをとっていたので、王位戦の郷田真隆さん(藤井さんよりも早い四段でのタイトル獲得!)と竜王戦の羽生善治さん・谷川浩司さんが、いち早く名前を憶えた棋士の方でした。

タイトル戦は一日や二日かけてひとつの対局を行うため、非常に持ち時間(棋士がそれぞれ手を指すのに考えられる時間)が長いです。

平日だと、朝に対局が始まり、お昼の食事休憩ではあまり局面が進んでおらず、中盤でも一手指すのに一時間ぐらいかかったりしていて、仕事が終わってから中継を見てもまだ対局中、なんてこともあったりします。

けれど将棋を現実世界の縮図と考えれば、一手一手にはさまざまな変化の可能性があり、すべてを網羅しようとすれば、いくら時間があっても足りません。
一時間に一手進む将棋は、じっくり静かな日常のようで、実はめまぐるしい闘いの連続です。
さらに秒読みに追われる終盤戦は、たとえ自分が優勢であっても一瞬たりとも気が抜けません。
河口俊彦さんによる昭和〜平成の将棋界を描いた「一局の将棋 一回の人生」 (新潮文庫)という本がありますが、まさに対局には人生が凝縮されているかのようです。

いっぽうでAbemaTVでは、極端に持ち時間の短いフィッシャールールというものを採用した「Abemaトーナメント」も開催されています。
まさに羽生さんや郷田さん、谷川さんといったレジェンド世代の棋士から若手までが一堂に会し、公式戦では見られない三人一組の団体戦で戦います。
残り5秒の間に相手の玉を詰ましに行ったり、逆に相手のミスを誘って逆転勝利をおさめたり。
たとえ読み切っていなくても培った大局観で指しきるベテランから、早指しであっても関係なく勝ち続ける若手実力派まで。

短い時間の中にも将棋と棋士の魅力があふれています。

持ち時間を変え、観戦のスタイルを変え、楽しみ方がひろがるところにも将棋の奥深さも感じます。

先週でAbemaトーナメントの決勝戦が終わってしまい、少しロス気味な感傷で書いた記事でした。
(藤井聡太三冠はここでもやっぱり強かったけれど、木村一基九段の強さと理想の上司ぶりに感動)


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