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第17回「助成金事業を探せ!~NPO法人の至上命題」

 僕が理事を務めるNPO法人は、空き家バンク事業で下田市と業務委託契約を結び、収益の柱にしている。

 空き家バンク事業に関しては、理事長の井田さんが二級建築士で静岡県の耐震診断士、中心スタッフのK子さんが宅建取引士の資格を持っているので、その道のプロが控えていることになり、心強いものがある。成果も徐々に出ている。

 ところがその他の収益事業となると、伊豆南部の土産物の店頭販売、ネット販売、ふるさと納税への参入とあるのだが、悲しいくらいに売れない。

 当然、収支は芳しくなく、理事長からの個人的な補填金がなければ先行きが見通せない状況である。

「まずいじゃないっすか。せっかく始めた空き家バンク事業を、続けてもらわなければ困ります。なんとかならないんですか」

 市役所の担当A君は、僕たちにはっぱをかけた。

 そうは言っても、物販に関しては素人の集まりで、妙案もない。そもそも地方の町で、ネット販売が当たり前になったこのご時世に、物販は、プロでさえ苦境に立たされているのが現状である。

「そんなことより、地方移住の予算は取れないのかい?」

「かなり難しいですよ。なにせビンボーですからね」

「地方移住と空き家バンクはセットのようなものだ。もうちょっと予算をつけてもらわないと、地方移住促進活動ができないし、財政的にかなり厳しい」

 理事長は、そう言って難しい顔をした。

 打合せでこんな事を話したせいか、A君が、翌週仕入れてきたのは、助成金事業の応募であった。

 しかもとてつもなくどデカいプロジェクトだ。

 これは日本に眠る埋蔵金の「休眠預金」を有効に使おうと考え出された制度で、十年間動きのなかった預金を国が集め、NPOなどの社会活動に活用する。

 その額はなんと700億円にものぼると試算されており、初年度の2020年度で29.8億円が投入されるのである。

 休眠預金の活用は、世界でも類を見ない。ある意味世界から大注目されているらしい。

 なぜなら、こうしたお金の使い方を、社会的インパクト投資という考え方で捉えることができるからである。

 近代以降、発達した世界金融は、基本的に利子を取ることで商売が成立してきた。一部、イスラム系の銀行では利子を取らないが、そのほうが変だとさえ信じ込まされてきた。

 しかし、今やゼロ金利時代になって、利子では金融が成り立たなくなっている。だったら、お金を一対一(金融機関対顧客)の利子的運用だけでなく、もっと大きなスパンで、環境を改善したり、新しい事業スキームを作ったりなど、社会にインパクトを生み出すところに使えないかというものだ。

 言い出しっぺは、ロックフェラー財団など(2011年)で、2013年にイギリスのキャメロン首相がG8で提唱し、話題になった。

 簡単に言えば、インパクト投資によって、社会的課題を克服し、かつ儲けましょうということである。

 ネット社会もIOTもAIも、キャッシュレスも、世界中のより多くの人たちが豊かになるようにという発想からうまれたテクノロジーである。

 テクノロジーは弱者を救う。

 お金の使い方を変えれば、もっとよりよい社会になるはずだ。

 その一環として、社会的インパクト投資があり、日本では休眠預金を有効に活用することで、社会的課題を克服する。

 親方となっているのが、日本民間公益活動連携機構だ。中間支援団体のNPOを通して、うちのような草の根NPOに資金を分配するのである。

 その説明を受けるべく、A君と静岡市にでかけた。

 空き家バンクが動けば、ゼロだった不動産に価値が付き、手直しのために職人が動き、建設屋が動き、引っ越し屋が動き、保険屋が動き、地方移住が促進され、次世代の人材が生まれ、空き家が減って、町に活気が戻る。

「こんな社会的インパクトの高い事業はないぜ。休眠預金を使わせていただこう」

 勇んで話を聞いてみたのだが、募集は、中部圏で3チームだけである。一応、「過疎地域におけるコミュニティの維持と環境保全」の点からは、条件をクリアしていたが、チームを作るのも難しく、申請書類もあまりに多く、応募期間が二ヶ月間しかない。会場に来ていた旧知の行政書士のアドバイスで、今回は断念することになった。

 しかし僕は、説明に行ったことで、俄然燃えていた。

 財務基盤が弱いのならば、社会的インパクト投資を受ければいいのではないか。

 それからは連日、ネットと首っきりで、助成金事業がないか探しまくった。

 すると、なんと、あったのである。応募する時間的余裕もまだあった。

 地域活性化センターの「移住・定住・交流推進支援事業」である。100%の助成で、200万円まで出る。これには市の同意、推薦が必要で、事業案は僕が作るとして、応募するのは市だ。

 A君に相談すると、「やってみましょう」とのことである。

 そして各種イベント等のプロジェクトを考えて応募すると、昨日、市に返答が来た。

 審査の結果は「採択」である。

 つまり合格! サクラサク!

 NPOを始めて7ヶ月、初めて助成金事業をゲットしたのであった。


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