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下田最前線㉑魚つき林をつくるのだ!

 さる3月5日、南伊豆町内の伊豆ユネスコクラブの山の中で、2,000本の桜とクヌギの植樹を行った。
 主催したのは、NPO法人伊豆未来塾である。その理事長が、写真の石川憲一さんである。
 石川さんは三十五年以上前に南伊豆に移住し、有機農業を始めた。最初から農業者だったのではなく、自分の子供たちに安全で安心な野菜を食べさせたいと始めたことが、業になったのである。十数年前には有限会社マザーアースクラブを設立し、栽培から販売まで自ら手掛ける。
 そんな石川さんが、2002年に設立したのがNPO法人伊豆未来塾で、環境保全だけなく、移住者の受け入れも行っている。
 今回の植樹は、「漁師の森プロジェクト」と名付けられ、地元漁協や町役場、静岡銀行、イオングループも協力している。
 伊豆の山は荒廃している。人工林の杉林になったところでは、下草が生えず、生えても鹿に食い荒らされて、保水力がなくなり、泥水が海へ流れ込んでいる。さらに悪いことに、風力や太陽光の設置で、これまた泥水を海に流し込む。
 伊豆半島では、4年続く黒潮の大蛇行の影響で、プランクトンの多い海流が岸辺に届かなくなり、また山の荒廃や温暖化も影響するなど、複合的な原因から海が磯焼けして海藻が減り、サザエやアワビをはじめとする魚介類の水揚げが激減している。
 そんな現状に、一矢報いたいというのが、今回の取り組みである。「魚つき林」を再生させようというのだ。真鶴や気仙沼など成功事例は数多い。
 ただ、整備が必要な山は広大である。
「今回は1ヘクタールを植林します。広大な山の広さから比べれば、ほんの水滴にすぎないかもしれない。でも続けていければと思います」
 石川さんは、開会のあいさつでこんなことを語った。
 1年で1ヘクタール、10年で10ヘクタールが目標だ。
 資金調達も容易でない事業だが、それでも価値観を等しくする70名以上の人々が、子供から年配者まで集まっていた。みんな散らばり苗木を植えていく。おしゃべりするゆとりもないほど、意外と体力を使うものである。
 作業は1時間ほど。終わってみんなでブダイの漁師汁を食べた。今年はブダイが異常繁殖しているそうで、ただし餌となる海藻が減っているから、どれも痩せているという。
 みんなの森は、みんなで守る。みんなの海は、みんなで守る。
 石川さんは、何も言わないが、みんなの気持ちが通じた時間であった。

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