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アイデアクリップってどうしてますか?

職業柄パソコンを長時間さわる彼らは、共通の感覚を持っています。それは「仕事が面白いわけではない。仕事を工夫しているときが面白いのである」というもの。そんな彼らが夜な夜な Discord のサーバーに集まって、パソコンやスマホのツールについてたらたらと話をしています。

登場人物

  • イズミ 職業ディレクター。好きなボールペンはゼブラのサラサ。

  • ゲン 職業デザイナー、ボドゲクリエイター。三度の飯よりメモが好き。

  • ピエール 職業コピーライター。めんどくさがり屋。

アイデアクリップが定まらない

イズミ : 今回のテーマは「アイデアクリップをどうしようか問題」です。これ難しい問題なのですが、みなさまどうでしょう。

ゲン : 自分もデジタルで記録したアイデアがそのまま使えたことはないですね。あくまで記録するのは種で、そこからどう広げるかはその時々によります。 ちなみに、そもそもアイデアクリップってどんなところまでとして普段考えてますか?

イズミ : アイデアクリップの定義はいろいろクロスオーバーしてしまうところがあると思うのですが、「あとで読む的なツール」と「アイデアのネタ帳」という範囲は含みつつ、主には

  • Pinterest や Behance や古くは Tumblr などのクリップ系 SNS

  • Eagle や Pixave などのリファレンス収集ツール

あたりかなと。

要するに、「どこかで発見した使えそうなもの」をどういうふうに収集して活用しているかという。この辺りについて話しができればと思っています。

ゲン : 基本的に自分は

  • 自分が思いついたこと

  • 他人がつくったもの

をごちゃごちゃにしないようにしてます。

自分発のアイデアは Obsidian で記録、他人発のものは Raindrop.io、mymind に振り分けています。Web サイトリファレンスは Raindrop.io に。記事やツイート、その他は全部 mymind という感じです。

良いグラフィックなどをローカル(Ember → Pixave → Eagle)で管理していたこともあったのですが、Pinterest などの方が生きたリファレンスが揃っているので結局ローカルはやめて必要な時に Pinterest を覗くのが習慣になってます。

アイデアと鮮度

イズミ : アイデアの鮮度は大切な観点ですね。特に他人発のアイデアは純粋に時間が経つと鮮度が落ちる。なぜなら公開されているアイデアというのは、誰かがどこかで引用するたびに世の中的には陳腐化していくから、時間が経過すればするほど普通になっていく。そういう意味でローカル管理はぼくも何度も諦めています。後でみて何のインスピレーションにもならない死蔵フォルダがそこらじゅうに散らばっています。

一方、自分発のアイデアは熟成させて価値が上がることが割とある。この理由はおそらく、「早すぎたアイデア」や「何かピースが欠けているアイデア」が時間と共に埋まっていく可能性があるのと、「時間が経っても他の誰かがやらなかった」ということがオリジナリティの担保になっていく。そういう意味でこっちはローカル管理、中長期管理をしたいという思いが強い。なので、僕も自分発のアイデアは今は Obsidian に書き溜めていくようにしています。

ゲン : なるほど。言語化するとまさにそういうことかもしれないです。「アイデアを寝かせる」とよく言いますがそれをやっている感じですよね。忘れないために記録して一時的に忘れる、というのを Obsidian で行っているのかも。

イズミ : 寝かせるべきアイデアは一度忘れたい、というのもありますね。自分発のアイデアはよく見えるバイアスがはたらくので、一回忘れて客観的に評価したい。そのためにも自分発のアイデアはタイムカプセルのような、見ない期間を設けられると良いのかもしれない。

ゲン : そうですね。そこで Zettelkasten の「自分の言葉で、後から読んでも理解できる文章で書く」というのも重要になってきますよね。大学時代に残したメモが「何言ってんだこいつ」みたいなのが多くて解読不可能になってる。

イズミ : わかる。昔のアイデアメモって、酔っ払って書いたんじゃないか?と腹立つこともありますよね。コードを書くのにも似ているのだけど、誰が読んでも、将来の自分が読んでも、理解できるようにするという点と、リファクタリングを定期的に行なって整理をし続ける努力で、永続的な資料にしないとダメですよね。

ゲン : 逆に意味がわからなすぎてそこから別のアイデアに繋がるという意図しない副次効果も生まれるのですが、博打すぎるので普通にわかりやすく書くべきですね。

イズミ : ああ、たしかに抽象的に書くことで、思いがけずに時代を越えられる可能性はあるか。それはそれでいいかもですね。あえて文字数を極限まで削って詩にして残しておくとかも面白いかも。

ちなみに、アイデアの粒度はどのように定義していますか?ぼくはここがすごく曖昧で、小論文みたいな妄想テキストから、サービスの名前やビジュアルアイデアなど、大小なものがごちゃごちゃになっています。粒度を揃えるためだけに、ブログを始めようかと思ったこともありましたが、持続しなさそうなのでやってませんが。

ゲン : 自分は思いつくアイデアにそこまで粒度差がないのであまり考えたことはないですが、それでも同列に扱うとは思います。発酵食品と微生物の関係のように、アイデアは整理されずごちゃごちゃしてる環境の方が良い味を出してくれる気がしていて、そこに Zettelkasten の横のつながりで結びつけてあげることでメモも死にづらくなるのでは、と。

やや違うかもしれないですが、自分は Obsidian に日記をつけている点では粒度が違うとも言えるかも。アイデアや気づきじゃなくて、日常にあった事実や気持ちなどを入れてしまってます。Zettelkasten 的には良くないかもしれないですが、自分の思想的に上記の通り「発酵できれば良い」ので未来の自分が日記を読んだことでアイデアが生まれるのであれば書く内容はなんでも良いのでは、という結論に至りました。

そもそも、整理したい欲はどういうところから来るものですか?

イズミ : 確かにぼくはなぜアイデアクリップを整理したいと思ってるのだろうか。一個思い当たるのは、以前のデジタルノートの回でも話した「メモの散歩性」を考えたときに、粒度が揃っていないと、見返しが 1 分で終わるアイデアと、見返しが 10 分かかるアイデアが混在してしまい、10 分のほうは足が遠のきがちというのはありそうです。

しかし公園や美術館とかもそうだけど規格が統一されていたら、退屈で散歩をしなくなるという懸念もある。それにツールはあえて分散させておいた方が発酵が進むということもありそう。ということは、そもそも揃えない方が良いのかもしれないな。

ゲンちゃんのツールの使い分けを少し踏み込んで聞きたいです。

AI が打開策になるかも

ゲン : Raindrop.io は古くは Stache などの App の系譜にあるブックマークツールですね。業務で Web デザインをすることが多々あるので、Web サイトに関しては日々アーカイブするようにしています。この辺りも自動化してるのですが長くなるので、それはまた別の機会に。

ブックマークした段階でのページの内容全てをアーカイブしてくれるので、たとえば採用サイトを作りたいときは Raindrop 内で「採用」「recruit」などで検索すると一気にリファレンスが集められます。特徴的なのは、

  • Web ベースで作られていること

  • Web 以外のアーカイブにも手を広げ始めていること

  • 永続的なコピーを作成してくれること

です。

3 つ目はすぐに見られなくなるというのが Web の宿命なので重要視してるのですが、正直あまり当てにならないのが玉に瑕です。

mymind はダ・ヴィンチ・恐山さんのツイートで知ったサービスなのですが「整理・管理を全て AI に任せる」という思想のブックマークツールです。人はどうしても整理したくなってしまい、それが崩壊して続かなくなるものだと自分は思っていて、その解答かもと思い去年使い始めてもう 1 年以上続いてます。

やることは簡単で、面白いと思った記事やツイートがあったら Extension や共有シートから mymind にポチッと追加するだけです。あとは自動的に内容からタグ付けされるので、あとから見返したいときはうろ覚えの内容を検索すれば取り出せる、という運用をしています。ただ、日本語だからという要因だと思うのですが、タグ付けの精度はそこまで高くないので信用はしすぎない程度にしています。あとから mymind から情報を適切に取り出せたときはめっちゃ快感覚えます。よく入れておいてくれた自分、と。

イズミ : なるほど。ウェブ魚拓を自分で取るような目的でサイト自体のデザインを集めておきたいときは Raindrop.io で、コンテンツの方をとにかく気楽に大量にクリップしたいものが mymind という使い分けということですね。

ゲン : おっしゃるとおりです。自分のアイデアは今は Obsidian に集約しています。

イズミ : そのくらいの分散具合が実はちょうど退屈じゃないかもですね。ぼくは魚拓的なクリップは不要なので mymind 使ってみようかしら。

過去 URL によるクリップは、旧 ReadItLater 時代から使っている Pocket で、アーカイブにするときに緩くタグをつけるという管理をしていたのですが、新しく入ってくるインプットの量と、アーカイブを参照する頻度が釣り合わずに、見返さなくなり、カビが生えてしまっている状態です。必要になったときに Google で検索した方が早くないか?という気持ちが邪魔をしている。

アイデアクリップにおける問題を分解すると、

  • インプットをどうさばくか <入口問題>

  • 参照の頻度をどう上げるか <出口問題>

  • アーカイブの品質をどう保つか <防腐問題>

ということになるかもしれない。そのときに、mymind のような AI による自動分類というのは確かに一つの答えかもしれないですね。

選択肢のなさが羨ましい

イズミ : 一方、コピペやエクステンションで気軽にクリップできない情報であるところの、書籍、ゲーム、映画、音楽などで「このアイデア、クリップしたい!」って思ったときはどうしてますか?ぼくはいま、この手のアイデアも Obsidian にまとめていこうと模索していますが、いかんせんスマホからの入力が億劫で、後回しにして忘れてしまうことも多くて。

ゲン : 書籍、ゲーム、映画、音楽のアイデアではない感想やクリップはそれぞれのプラットフォームに分散させてます。Steam のレビュー、Filmarks、Apple Music のプレイリストなど。本は iPad で読むことが多いので今のところ Apple メモにまとめるのが定着してます。

何かを見て自分のアイデアが出てきた場合は引用元を簡単に併記した上でテキスト化して Obsidian に入れます。例えば、「●●という展示を見た時に思いついた」のようにメモしてますね。

イズミ : やはり分散しますよね。便利すぎるゆえの迷いがある。PC もない時代だったら情報カードや手帳にまとめるしかなかっただろうから、シンプルで迷いもなかったんだろうな。その不便さに羨ましさすら感じる今日この頃。

ゲン : たまにホテルにこもって作業したくなることがあるんですが、それもローテクとか不便への郷愁なのかもしれない。 便利が故に思考スピードが速くなったように見えて、実はじっくり考える時間が取れないことで全部が刹那的になっている気がするんですよね。ずっと気が散ってる状態。

イズミ : ホテルに缶詰になりたい欲求わかる。よく、部屋だと遊んじゃうって、ていう人がいますが、もはや遊んだり SNS をやらなかったとしても、やりたい作業に集中できないんですよね。いろんなツール、いろんなやり方が気を散らしてくるから。だからミニマムなアプリしかインストールしてないマシンを持って、ホテルにこもって作業したいという欲求が湧いてくる。

ゲン : 近くに作業のできるちょうどいいコーヒー屋があるんですが、そこだと面白いようにアイデア出しが捗るんですよね。それのロングスパン版が欲しい。もしかしたらホテルは人の目がない分緊張感がなくなって集中できない説はある。

イズミ : アイデアを出すための空間というのは確かにホテルではないかもですね。ぼくはたまにカラオケに篭るときがあります。机が広くて紙を広げて作業しやすいのと椅子も程よく居心地わるいのでちょうどいい。

さて今回は、「アイデアクリップをどうしようか問題」というテーマで話してきましたが、これまでにも増して答えを出しにくいテーマでしたね。引き続きブラッシュアップしていきたいと思いますので、なにか方法が改善されたらまた話しましょう。

では、また次回。

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