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第8回 『なにせにせものハムレット伝』

3幕1場

今回登場する人物
ハムレット・・・・・・・・・ クマデン王国の王子
クローディアス・・・・・・・・クマデン王国国王、ハムレットの叔父
ガートルード・・・・・・・・・クマデン王国王妃、ハムレットの母
ポローニアス・・・・・・・・・宰相、クローディアスの相談役
ホレーシオ・・・・・・・・・・ ハムレットの親友
役者1・・・・・・・・・・・・旅回りの劇団の団長
森の妖精・・・・・・・・・・・語り手

森の妖精(語り手): 宮殿の大広間に仮設の舞台が設置され、着飾った貴族たちが続々と集まってきています。ハムレットさまが楽しみにしていたお芝居が始まるようです。それにしても、皆、かなりおめかししてます。お城での生活って、案外ヒマなのかもしれません。けれど、そんなお気楽な気分を吹きとばしてしまいそうな、大変な事が起こりそうな予感が…。あとは読んでのお楽しみ。

ハムレット: お客もかなり集まってきたな。そろそろ開幕の時間だ。準備はできたかな。

役者1: 万全です。いつでも幕を開けることができます。

ハムレット: わかった。私が相図あいずをしたら、始めてくれ。

役者1: 了解しました。(退場)

ハムレット: さて、我が友、ホレーシオよ。打ち合わせどおり、君はこの席に座って、クローディアスの様子を観察していてくれ。劇の最中に、少しでもおかしな様子があったら、後で詳しく教えてほしい。

ホレーシオ: お任せください。一瞬の表情の変化も逃さぬよう、まばたきする暇も惜しんで、凝視ぎょうししつづけます。

ハムレット: 頼んだぞ。芝居が終わったら、すぐ会おう。(広間全体に響き渡る大きな声で)さて皆さん、そろそろ開幕の時間となりました。どうぞ着席してください。

ポローニアス: (間髪を入れず、大きな声で) えー、それでは、お芝居に先だって、この私ポローニアスが一言ごあいさつせねばなりますまい。うむ(咳払い)。

ハムレット: (傍白)なんだと、あいさつなど頼んでないぞ。またスタンドプレーか。相変わらず目立つことが好きなやつだな。

ポローニアス: さて皆さん、驚くことなかれ。何を隠そうこの私、学生の時分に演劇をかじったことがございます。いやいや、決して食べたわけではございませんよ。 熱心に練習にはげみ、将来を嘱望しょくもうされた有望新人であったのであります。「ショクモウ」と申しましても、髪の毛を増やそうとしたわけではありませんよ。ちなみに、これは地毛でありますが、それ程までにこの私が有望な役者であったという意味なのでございます。実際に舞台に立ったこともあります。議事堂の前で殺されるジュリアス・シーザーの役でございましたが、立派な死にっぷりであると絶賛されたものです。実際のところ、舞台のうえで死ぬのはそれほど悪いことではございません。大いに目立つことができますし、公演のたびに何度でも生き返ることができるのですから、こんなに面白いことはございません。じっくりと時間をかけて、死にそうで、なかなか死なないのがコツでございます。いやいや、30分以上かけたこともございます。熱演のかいあって、前代未聞の大喝采を浴びたのですが、なぜか翌日、劇団をクビになってしまいました。いやー、人のやっかみとはこわいものですな。

ハムレット: (傍白)前代未聞の大喝采だと、ヤジに決まってるだろ。クビになって当然だ。おまえは幸せなやつだな。

ポローニアス: 今日のお芝居にも、見事な絶命シーンを期待しておる次第でございます。なにやら物騒な話となってしまいましたが、今宵は和やかな雰囲気のなか、クマデン王国の若きプリンス、ハムレット様プロデュースの素晴らしい演劇とともに、夜のひとときを過ごしましょう。それでは、ハムレット様にマイクをお譲りいたします。

ハムレット: さて、ようやく、長~いお話がやっと終わりました。ネタがすべっても心が折れないところが役者向きですね。才能は十分にあると感じました。役者が天職かもしれません。転職をお勧めします。まあ、どうでもいい話はさておき、気をとり直して、ノリノリでいきましょう。皆さん、居眠りしていませんか。そこの飲み過ぎのあなた、起きてますか。そちらの食べ過ぎのあなた、眠くありませんか。そして、一番上段の特等席にお座りの、何かのしすぎのお2人、お元気にしてますか。今宵は、皆さまのために素晴らしい傑作をご用意いたしました。芝居の題名は、『美しき熟年女性 宿命の背徳 ー 庭師は見た』です。 さて、それでは、皆さん、イッツ、ショー、タイム!の前に、ちょっと、タイム! 始まる前に、この私ハムレットが物語の解説をさせていただきます。舞台は、文化の都ウィーン。そこで実際に起こったある殺人事件を題材にしています。 

クローディアス: ハムレットよ、なかなか刺激的な題名だが、ここで上演して差し障りのない内容なのか。筋書は把握はあくしてあるんだろうな。

ハムレット: もちろんですとも。心にやましいものさえなければ、なんの差し障りもありません。実話にもとづいた物語で、人の心を深くえぐり取る、リアルドキュメンタリーとでも呼べそうな傑作でございます。それでは、開演!スタート!

(古風な音楽)

劇中の王: 我が人生の旅路も終わりにちかづいた。
私に残された時間はもはや長くはない。
もし、私の命がつきたなら、どうか、おまえは再婚し、残りの人生を幸せに暮らしてほしい。
人生とは、大海原を泳ぐ遠泳のようなもの、力尽きたものから消えてゆくのだ。
劇中の王妃: 陛下、何ということを…
結婚とは海原をゆく一隻の船、命つきるとも、ともに航海をつづけ、決して後悔しないもの。
たとえ陛下が亡くなられても、私は再婚などせず、陛下とともに旅を続けることを誓います。

劇中の王: それもよかろう。後悔なきよう生きるがよい。
私は眠くなってきた。一眠りするから、しばらく一人にしてくれないか。

(劇中の悪役登場)

劇中の悪役:
♪(ラップ調で歌う) しめ、しめ、めし、めし、めしの後
たらふく食って、お庭でお昼寝、優雅なご身分、不公平
しかも、王妃はべっぴん、いけてる女
ほしいぜ、ほしいぜ、もらっちゃえ~
今がチャンスだ、今がチャンスだ、迷わず、とまらず、即、実行
辺りを見回し、周囲を確認、指さし確認、ちょー、おっけー!誰もいないぜ、猫もいないぜ、ネズミもいない、やっちまおぅ!
ここにあるのは、効き目抜群、毒のやく、とっても危険な働き者
こいつを耳に流し込み、ぱっとこの場を立ち去ろう、
良い夢見ろよ、あの世でね、おれは、この世で良い夢を!
バイ、バイ、バイ、の、グッドバイ(退場)

(劇中の王妃登場)

劇中の王妃:殿下、そろそろお目覚めの時間です。殿下、殿下!
おや、体が冷えてしまいましたね。熱い紅茶でもお入れしましょう。いいえ、この冷たさは、尋常じんじょうではない。もしかしたら、ああ、何ということでしょう。大切な夫が亡くなしまった!さきほどまでは、あんなに元気であられたのに。ああ、私の愛しい人が死んでしまった。
ずっとお慕いつづけてきた立派な夫。
かくなる上は、私は誓いをまもり、残り少ない人生を、あなたへの愛に捧げます。

(劇中の悪役登場)

劇中の悪役:(ラップ調で歌う)♪おい、おい、そこのベィビー 
ヘビーな気持ちにゃ、さっさとバイバイ
おれと一緒に、へい、へい、しないか
生きる歓び、愛しのベィビー! 
元気をだせよ、おれに任せて、楽しくやろう
従うだけの人生たぁ、違う楽しみ教えるぜ
何年たっても、何年たっても、いちゃいちゃ、ラブ、ラブ、チョーハッピー!
いくつになっても、いくつになっても
ラブ、ラブ、ラブ、それが本当の人生さ
カモン、カモン、俺の胸に、カモン、カモン 

劇中の王妃:♪(ラップ調で歌う)あん、あん、あん、ああん、あん
心の隙間に、心の隙間に
希望の光がさしこんで、だんだん明るくなってゆく
過去は捨て去り、この世を楽しむ
それが世のつね、人の常
私はあなたと暮らします。今日から、今から、すぐにでも。

クローディアス: (動揺して思わず立ち上がり、傍白) どういうことだ。なぜあいつが知っている。一体誰が現場を見たというのだ。他に誰が知っているのだ。いやいや、まずは落ち着かねば。もしかしたら、私の誤解かもしれない。思わず立ち上がってしまったが、何とかごまかしてしまわねば。(広間に響き渡る大きな声で)もうよい。芝居は終わりだ。

ガートルード: あなた、どうかしました。どこか具合でもお悪いのですか。

クローディアス: 全くをもって不謹慎な芝居だ。即刻中止せよ。

ガートルード: 私の再婚をあてこするような話を上演するなんて、あの子も悪ふざけも度が過ぎます。もはや私の手には負えません。

クローディアス: そのとおりだ。なんとかせねばなるまい。

ポローニアス: クローディアスさま 、いかがなさいました。

クローディアス: いや大丈夫だ、心配ない。だが、この劇はあまりに破廉恥で、我が宮廷の風紀を乱す退廃芸術だ。即刻中止し、全員を部屋にもどらせよ。(クローディアス、ガートルードとともに退場)

ポローニアス: 承知しました。(傍白)これから面白くなりそうなところだったのに。全くもって残念至極ざんねんしごくだが、仕方あるまい。(大きな声で)明かりをつけろ!国王陛下の命令です。芝居は中止、各自すみやかに退席すること。繰り返します、芝居は中止。全員、即刻、退席するように。

貴族1:(叫び声)明かりをつけろ!全員、退席。

貴族2:(叫び声)全員、直ちに私室にもどってください。

ハムレット: ああ、ホレーシオ、そこにいたのか。さっきから探していたんだ。どうだった、あいつはとんでもなく動揺していただろ。

ホレーシオ: 火を見るより明らかです。寸分すんぶんの疑いもありません。それよりハムレット様、あちらからポローニアス様がやって来ます。

ポローニアス: ハムレット様 、ここにおられたのですか。ようやく見つけました。国王陛下は大変ご立腹のご様子です。それから、お母上がお部屋でお待ちです。すぐに行ってください。

ハムレット: なぜ、国王がお怒りなのか、おれには全く分からない。お前にはあいつ立腹させた、ホシの目星はつているのか。

ポローニアス: それはもう、言うまでもございません。もちろん、大体のの目星はついております。

ハムレット: そうか、それはよかった。だったら、今夜のおかずは梅干がいい。肉ばかり食べていると、早死にするからな。粗食にて、節制したまえ。

ポローニアス: おっしゃるとおり、今晩は粗食にさせていただきます。まだまだ死にたくはありませんので。

ハムレット: それはそうと、あそこに浮かんでいる雲、ほらあの雲だ、まるでくじらのような形をしているではないか。

ポローニアス: おっしゃるとおり。まさにくじらです。

ハムレット: なるほど、そうか。おまえにはあれが鯨のかたちをした雲に見えるのか。おれには天井しか見えないがな。医者に行った方がいいぞ。おれは母上に会いに行く。

(ポローニアス退場。 ハムレット、ガートルードの私室に向かって歩きはじめる。途中で、祈っているクローディアスを見つける。)

ハムレット: ああ、待て、あそこで祈っているのは、クローディアスではないか。今こそチャンスだ!真実が明らかになった今、もはや迷う必要などない。死んでもらおう。この短剣で奴の胸を一突き、そう、たった一突き、それで全てが終わる。この苦しみも終わるのだ。さあ、いくぞ!いや待て、今、あいつは祈っている。もしかしたら懺悔ざんげをしているのかもしれないではないか。罪の告白をしている最中に殺してしまったら、死後、あいつの魂が救済されてしまうかもしれない。あの世でどんな裁きが下るかなんて、誰にも分からないからな。地獄落ちが、絶対に確実な瞬間に殺すべきなのだ。酔ってわいせつな言葉を吐いている時、快楽におぼれている時、そんな時こそが復讐にふさわしい。だから今は、おとなしく立ち去ろう。(退場)

クローディアス: ああ、神よ。我が罪深き魂を救いたまえ、と祈りたいところだが、ハードルが高すぎる。死んだ後に待ち受ける罰は怖いが、懺悔ざんげなどとてもできない。兄殺しという罪深い行為によって得られた生活のなんと楽しいことか。毎日が充実して、歓びに満ちあふれている。ああ、愛しのガートルード、おまえには悪いが、ハムレットには死んでもらう。許してくれ、我々2人の幸せのためなのだ。あいつがどのようにして、おれの罪に感づいたのは分からない。だが間違いなく知っている。だから殺すしかないのだ。しかも、この手をよごすことなく、確実に始末しなくてはいけない。どうすれば、いいだろう。ああそうだ、外国で始末してしまおう。タヒネ王国なら、うってつけだ。あの国の国王とは浅からぬ縁がある。王子を1人殺す程度のことは、友情の証として、快く引き受けてくれるはずだ。(暗転)

森の妖精: あちゃー、ハムレットさまったら絶好のチャンスを逃してしまいました。それどころか、大大大ピンチ到来です。この後どうなっちゃうんでしょうか。絶対アップするから、気長にまっててね。

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