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岩手移住エッセイ

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岩手県で自然に寄り添った暮らしを目指す夫婦の日常エッセイ。
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【引っ越しエッセイ】長い旅の終わりの一日

まだ雪は残っているだろうか。 相当に年季の入ったビジネスホテルの一室で、朝起きた瞬間ふと残雪のことが気になった。バスルームから流れてくるカビの臭いで、だんだん夢の世界から現実に引き戻される。どうやら換気扇が壊れているようで、湿気のたまった部屋の窓は水滴でびっしょりしている。 「もうすこし寝ておこうかな?」 隣で目覚めた妻が尋ねてきた。ビジネスホテルのパジャマ姿がどうにも間抜けな感じで愛らしいけど、朝からそれを伝える気分にはならない。 「いや、もう起きようかな。朝食に間

僕らは雪が降る町の住民になりたかった。これは東北のとある町に移住する夫婦の話。

今年は暖冬だと言われた東北にも、最後に帳尻を合わせるかのように雪が降った。薪ストーブの温もりを背中に受けながら、妻が作ってくれた葛湯を飲んでいる。ゴオゴオ、パチパチ、バタン。ストーブの奏でる冬の音を聴く。もうすぐ薪木を焚べないといけないだろうかと火の心配をしていると、雪国に暮らす人の仲間入りをしたみたいで嬉しくなる。でも雪が降って嬉しがる自分は、まだまだこの土地の人ではないかもしれないとも思う。 九州から北海道まで、一年をかけて旅すること。それは気の赴くまま、自由に旅するこ