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H.B.P伝説・完

その言葉は確かに私の呪であった筈だ。

手綱を握らせる代償が無理強いであったにも関わらず、恥辱の果てで愚かな若者は私という脅威と通じ合う事を受け入れた。それどころか、馬である時も人である時も愛している事に大差ないと溢すのだ。己こそ怪異の極みと思い慣れてしまっていたせいで狂人の類いを前にして唖然とする。
意思の疎通が叶うと知った途端、次第に熱く競技について意見を求め、生意気な策略を持ち掛けもする。理解し難いと思いながら二人きり、あるいは一人と一頭で重賞レースを踏破した。
そうしてある日、他愛のない怪我が元で私の先行きが危ぶまれると彼は子供のように縋って泣いた。何度も自分のせいだと詫びて、命すら差し出すからどうにか生きてくれと懇願するのだ。

凶馬に姿を変えられ幾星霜────
ようやく自分に課せられた罰の意味を悟った気がした。


傷は癒える。否、癒してみせる。
お前を乗せて再び走ろう。
望むなら地の果てまでも駆けてやる。
無謀な采配も鞭も甘んじて受け入れる代わりに
私以外の背に乗るな。
他の誰も選ばないと約束するなら

私は永遠に お前のモノだ。



月巠 針スタリオン:完
BGM『Come,Sable Night』


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