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電波戦隊スイハンジャー#221 アーサーとマーリン

第11章 プラトンの嘆き、英雄と賢者1

アーサーとマーリン


「昔っから天使というのは人間の生まれる前から死後までを管理する有難い存在と捉えられがちだけどね。

旧約聖書を読み込んでみると要するに7つのラッパが鳴ったら人間社会を都市ごと滅ぼして淘汰する存在だろ?」

と紅葉のような紅い髪に茶色の瞳をした年の頃17、8の少年は重厚な樫の木のテーブル越しにこの家の主人である銀髪銀眼の青年に淡々と語った。

いきなり家にやって来て自説を捲し立てる目の前の少年に青年は気を悪くするどころか、

研究対象の方から味方かどうか分からない自分の所に来て氏素性を名乗り、

さらには自分が秘密結社「プラトンの嘆き」の幹部で英国下院議員マルベリー卿ことジョージ・ナイジェル・グローヴァー男爵の一人息子であり、

「プラトンの嘆きとはあの血まみれの成り上がり、蔡玄淵が作ったカルト教団ではなく元々は1300年代に僕の母方の先祖、ロバート・ヴィロン卿が設立したエルフ族の血を引く者たちによるギルドなのだ」

と自らぶちまけるこの少年に青年は自ら淹れたお茶のカップを勧めると「ありがとう」と言って受け取り、「うん、濃いけど渋くないし深みがある。大陸産の茶葉ではないような…さては日本産?」

と一口飲んだだけておおよその産地を言い当てたこの少年にこの子は本当の茶道楽だな。と警戒を緩め、

「正解だ。霧島産のほうじ茶。兄貴が定期的に送って来るんだよ。っていうか君、

現役イートン校生のアッパークラス(上流者階級)の御曹子がアイルランドの片田舎の農家にまで何しに来たの?」

お茶請けに出されたメープルクッキーをほうじ茶で流し込んだ少年は赤毛の前髪をかき上げてから、

「だって、エルフの血存続のためにヴィロン卿にギルド設立の智慧を授けたのは貴方なんでしょう?

マーリン」

賢者マーリン

という自分のコードネームを既に知っているこの少年に、

「君はエルフの力が発現していて私の脳から情報を読み取っているね?」

と問うと目の前でオレンジ色の閃光が瞬き「その通り」と白と橙色のストライプ色の長髪を空中にたなびかせ、紅い複眼を輝かせた少年、アーサー・ナイジェル・グローヴァーこと次代マルベリー卿は、

「賢者マーリンこと高天原族の王ニニギの弟、ニギハヤヒよ、僕は玄淵によって汚されてしまったプラトンの嘆きを壊滅させ、血統第一の古き因習を終わらせたい。協力してくれる?」

アジアでは観音族と呼ばれるエルフ族
(ちなみにトールキン原作「指話物語」に登場する一族からニギハヤヒが命名)
はこの地球で生きる為に人間に擬態し、自分の正体も知らずに生涯を終える者が殆どだが数代に一度、ごく稀に擬態から本来の姿に戻る者たちが存在し、

発現した者の平均寿命は43才。

仕方ねえなあ…

1500年前に日本を飛び出した高天原王弟にして宇宙人類学者ニギハヤヒは長い年月の中で賢者マーリンとしてヨーロッパの歴史に介入してきた。

この島に来た私を顧問として重用してくれた彼の先祖、ヴィロン卿の恩に報いる時が来たか。と当時は精霊族と呼んでいた一族の末裔であるこの少年に向かって手を差し出し、

「アーサーとナイジェル。イングランドとアイルランド両方の英雄の名を持つ君に手を貸そう」

「有難い」

と二十一世紀のアーサーとマーリンの握手によって既に日本で暴れ回っている戦隊たちを巻き込んだ人間存在と種の存続の意味を問う闘いが始まるのだった。

後記
ファンタジーのエルフは長命だが作中の彼らは短命。











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