電波戦隊スイハンジャー#101

第六章・豊葦原瑞穂国、ヒーローだって慰安旅行

フレグランス3

(注、いきなりR12なシーンから始まります)

青黒い渦が、自分の上で揺れている。


乳白色のたわわな乳房の間で汗の滝に濡れている。

日曜の夜、グラン・クリュ店員の越智巽こと役小角は上司勝沼悟からの着信を2度スルーした。


だって


「タ、タ、タツミちゃ~ん!!!」


と都内のラブホテルで妻ウズメに騎乗されて密事(みそかごと)にお励みになっている最中だったんだもん。


ふん!ふん!ふん!と小角も調子に乗って思いっきりベッドを揺らす。


そりゃもう、冒頭からナニして何が悪い?と開き直る勢いで。


小角の正体は猿田彦大神、妻のウズメともども性の神様なのである。


こんな奴らが道祖神のモデルなのだから(諸説あり)、おそらく濁りなき信仰心で拝んでくれているであろう田舎のおじいちゃんおばあちゃんたちに謝って欲しいものである。


 一戦終わって交替でシャワーを済ませた後で、乳白色の肌のグラマラスな全裸でベッドに腰掛けていたウズメが夫のガラケーの着信履歴に気づいた。


「タツミちゃん、勝沼のぼんちからやで。一応上司からやから折り返したら?」


「集中し過ぎて気づかなかったぜ」


と軽く妻に接吻してから小角は下半身にタオルだけ巻いた格好でベッドにあぐらをかいて悟に電話をかけた。


時計は夜11時半、まだ起きてるよな…


「もしもし!?」


声の調子から悟が苛々して待っていたのが伝わる。


「俺は明日休みだけどな?」と言う小角の口調には社畜根性のかけらは微塵も無い。


まったくもう、上下関係実質「逆」やん。


とウズメは500mlのペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら夫と悟の会話を横目で見た。


「お、お休みのところすいません。実はですね…」


あーそーゆー事か、と小角はめんどくさそうにガラケーをウズメに手渡した。


「え、うち?何の用なん、ぼんち」


ウズメは今日の夕方起こった野上聡介のトラブル発生から、戦隊メンバーでミーティングした経緯までを悟から聞き


「ふーん、小賢しいお坊ちゃまがすぐ考え付いてー?

だったらー、直接一番近くに居るー、純血の高天原族であるうちから情報引き出せばええやんってー、

うちらがえっちしてる最中に電話かけてきたって訳やね」



「ダメですかね…?ってか、な・何をしてたってー!?」


ふふん、と長い銀髪をかき上げて艶っぽい微笑をウズメは浮かべた。


「確かにうちは天照あまてらすさま、月読つくよみさま、素戔嗚すさのおさま3兄弟の養育係やったし高天原族の歴史の生き証人やけど…」


「えー、そうだったんですかあ!?」


「あ、ここオフレコでな。なあサトルちゃん、何でもかんでも先輩に聞いて楽しようとするんが人間の愚かしいとこやで。仲間ひとりの心を開く術なんて、自分で考えんかい、この童貞!」


そ、そんなぁー!という悟の縋るような声を無視してウズメは一方的に電話を切った。


年上の女に上から童貞呼ばわりされるとは、哀れ…


小角はちょっと悟に同情しながら妻からガラケーを返してもらった。


「聡介ちゃんに全てを伝えるんは、うちの役目やない。阿蘇におられるあの御方…うちら高天原族が出会った『本当の神』や」


小角が妻の乳房の間、ちょうど渦型の痣の中心に頬を埋めて思いっきり息を吸い込んで彼女の体の香りを嗅いだ。


「タツミちゃん、終わったらいつもそうするんやね」


よしよし、とウズメが夫の頭を抱いた。彼女の体からはほんのりと睡蓮の香りがするのだ。


「お前のこの香りは生まれつきなんだよな…出会った時もそうだった」



故郷、葛城山のふもとの川べりで水浴びしている銀髪の美しい女を見初めた。俺は十八だった。これが、仏教の伝説に聞く天女か?


女の髪と目の色も、胸の谷間に浮かぶ痣も気にならなかった。


この女が、欲しい!まだ若い小角は木の枝の掛けてある女の衣を奪った。


すぐに気づいた女は衣を返してほしい、と哀願した。


なら俺の女になれ!若い小角も彼なりに必死だった。気が付いたら彼は半ば強引に女を抱いていた。



すべて、吉野の山の奥で起きた出来事である。



「まさか驚いたよ…お前の正体がアメノウズメで、あの時、お前も初めてだったなんてな」


…これからわたくしをどうなさるおつもり?


泉の水よりも冷たい口調で女は尋ねた。


まことに済まなかった…よし、娶る!


アメノウズメノミコトには、相手の嘘を見破る眼力があった。山の若者小角の目には全く偽りが無かった。



ウズメは初めて信じられる人間に出会った、しばらくこの男と共にいようと思った。


この自分が天照様以外の者と一緒に居たいと思うとはね…


ウズメの香りに包まれたまま、小角は短いまどろみに入った。



「すべては阿蘇にあり、か…」


と自分が所有する赤坂のマンションの最上階の部屋で夜景を見下ろしていた悟は、「この童貞!」と言われて折れそーになった気持ちを引きずったままベッドに入りましたとさ。


憤懣やる方無いよ!童貞の…何が悪い!?






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