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電波戦隊スイハンジャー#185 双子の鳥

第9章 魔性、イエロー琢磨のツインソウル

双子の鳥

その頃、根津の下町バー「グラン・クリュ」の2階休憩室で待機していた若者の右手首に黄色い麻のミサンガが浮かび上がった。

兄ちゃん…!

彼は都城及磨、琢磨の双子の弟である。
昨夜、彼が名前を呼ばれて目覚めると天井に忍びが張り付いていた。
自衛隊宿舎の彼の部屋に忍び込んだ小角である。

(いいか、及磨。一回しか言わないから明日の休日は俺の言う通りに動け)

小角の指示を頭に刻み込んだ及磨は宿舎を出ると指定の時刻通りに根津の古民家安宿「したまち@バッカーズ」に行ってカウンターで新聞を読んでいたマスター、勝沼悟に暗号である「どぶROCKのケール青汁割り高麗人参カクテル下さい」と告げると悟はうなずき、「2階のいなほの間に待機して下さい」
とだけ言ってまた新聞に目を戻した。

ちゃぶ台に小豆色の座布団だけ、という簡素な6畳間の和室。

そこに待機し、右手にミサンガが出てきたら…決して来て欲しくはないが作戦で決められたその時まで及磨は待った。


一方、海南島の豊穣農園の事務室では自分で自分の心臓を刺した琢磨と右腕を切断された上に全身に鋸状の傷を負った正嗣が福明の足元に倒れていた。

見るがいい!
所詮選別された強者だけが世界の覇権を握り、負け犬が足元に転がる。そして…プラトンの嘆きを世界宗教にして我ら観音族が地球の生物の頂点に立つのだ!

思えば
「お前はIQが高いから養子にした」と僕を施設から引き取り、有価証券に投資するみたいに英才教育を強要した養父母。

香港の中国返還直前に孤児になった僕を見つけ出して養子にしてくれた大叔父の玄淵も僕に観音族としての戦闘能力が弱いと知るや

「君は財力だけ蓄えてくれればいい」と養子ではなくビジネスパーソンとして扱うようになり、

玄淵の娘の紫芳は「絶対滅が使えない出来損ない」とあからさまに馬鹿にし続けた。

そう、僕は経済の世界では勝者と言われても…観音族という血縁を持った家族の中ではいつも「人も殺すことが出来ない弱虫」と言われて育った。

でも…結社の信者を集めてお前らに貴族よりも贅沢な暮らしをさせてやっているのは誰だ?
「この」僕が金を稼いでいるからじゃないか!

小国から来た子供じみた戦士とやらを今二人も屠ってやった…やったよ!玄淵叔父さん!

はは…はははははは!と笑い続ける福明の脳内に

いつまでも五月蝿い小者め。

と静かだが地下深くの煮えたぎる溶岩を思わせる程の怒りを含んだ声が飛び込んだ。

ふと眼前を見るとヒーロー戦隊の金色のスーツに身を包んだ背の高い人物が琢磨と正嗣を両脇に抱えていた。

「蔡福明よ、あまり人間を舐めるな。勝ったと思った瞬間から倒される側になるのが人の世の理だ」

「いつからそこにいたっ!?」

「さてな、我はいつも早すぎる男ゆえな」と金色の戦士はゴーグルの下で福明を嘲笑って

「決めた。お前には死よりも悲惨な運命を与える」

と振り返り様宣言した。

「待てっ!何故僕と戦わない?」と福明が問うと金色の戦士は、

「我が怒りのままに荒ぶると国土ごと塵にするでな」
と平坦な口調で言い、傷付いた戦士たちを担いで消えた。

国土ごと塵って…何だ?
今の男は本当に人間なのか?と稲穂の刺繍をまとった金色の戦士が消えた空間の割れ目に向かって「待て!」と叫んだ瞬間…

割れ目から幾筋もの火焔が福明が作った髪の毛の結界じゅうに広がり、灼熱で体毛と皮膚が焦げる。

何故だ…!
さっき倒した筈の黄色の戦士が復活してサバイバルナイフで突進して来る。

琢磨が心停止すると一卵性双生児で同じ遺伝子を持つ及磨が変身能力を持つようになる。

後はちゃぶ台の上のブツを持って速攻目の前の化け物に斬り込め!

と小角に指示された通りにヒノヒカリイエローに変身した都城及磨はスーツの全身に怒りの火焔を纏い、火傷を負って後退りする福明に追い縋って

「兄ちゃんの仇!」

と叫びながら彼の喉元に…

軽く、切り傷を入れただけだった。

福明は自分が何をされたのかも解らずどうやら全身に深い火傷を負ったらしい…と床に倒れ込んだ。観音族形態を維持する体力も無い。

火焔を纏った黄色い戦士も空間の割れ目も消え、火事の警報のベルがじりりりり…とけただしく鳴る音と、天井のスプリンクラーから放出される水と、異変に気付いたスタッフが呼んだ救急車のサイレンが近づく中、福明は意識を失った。

野上聡介の自宅個室のスライド本棚を開けた金色の戦士は患者二名を運び込み、緊急治療室で待ち構えていた曾孫の聡介に、

「ありがとうニニギさん」
と言われて天孫ニニギは子孫にありがとうと直接言われるのは初めてであるな。
と照れながら変身解除した。

銀色の髪を現代風に短髪にした高野原族の王ニニギは本気を出すと速すぎて空間さえも越えてしまう。という特殊能力の持ち主だった。

「さあ、琢磨を疾く人工心肺に繋ぐのだ!」
「まかせろ!」

と聡介は本当に五分以内で琢磨を人工心肺に繋いだので琢磨の忍者仲間で整形外科医、百目桃香ひゃくめももこ

「まるで神業だ…何処で鍛練した?」と目を丸くした。

「こ・こ」

と聡介はマスクの下でにやりと笑い、

「桃香さんは正嗣の手足の接合お願いします」と指示すると桃香も心得たもので「了解」と琢磨の手術台の隣に寝かされた正嗣の切断された右腕と左足の接合に取りかかった。
その様子をグラン・クリュのカウンターの中のモニターで見ていた及磨は、
「兄ちゃん…」と何処も傷を負っていないの17の頃、兄に急所を外されて刺された胸の古傷が疼いて胸を押さえた。

「文字通り神の手を持つ天才外科医たちが治療するから絶対大丈夫です。あなたは宿舎の門限があるのでしょう?」

こくん…とうなずく及磨は自衛隊内では、

寒冷地訓練で凍った食糧をぶぉりぶぉり食っていた伝説を持つ…

最凶のレンジャー。

という二つ名の陸自の特殊訓練を受けた人間兵器である。

モニター内の兄が心臓の手術を受けるのを縋るように見ながら店から出ていく彼は…

双子の過去の因縁を知らないのに、まるで高二の少年みたいだ。と悟は思った。

後記
桃香
「金色の戦士よ、お前の通り名は?」
ニニギ
「無いけど、高天原族の王だからゴールドエ…」
桃香
「いや、それ以上はいい」







































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