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電波戦隊スイハンジャー#189 ほくそ笑む大天使

第9章 魔性、イエロー琢磨のツインソウル

ほくそ笑む大天使ミカエル

福明との決戦が終わったその日の夕方、七城正嗣と都城琢磨は無事税関を十って海口空港発成田空港着で帰国し、そのまま西日暮里にあるスポーツ用品店に向かった。

「新しいスポーツシューズに買い替えたいんですけどね、出来れば安く」

そう琢磨が言うとセーターの上に青いエプロン姿の眼鏡をかけた青年は笑顔で「希望のメーカーはございますか?」尋ねた。

「オニハラキャット」と正嗣が言うと青年はすぐさま一階店舗奥のエレベーターに二人を案内し、4階で止まると優れ目の前にある店主宅のドアが開く。

リビングでコーヒーを飲んでいた店主、荻生耕三は2人に向かって「もう外してもいいぞ」とうなずいてみせると琢磨と正嗣は顎下から皮を剥がし、中からまったく別人の中年男の顔が現れた。

「私は四つ葉物産の古場こば」とかつらを取った半白髪の方が名乗り、
「僕はハラダ自動車の市川いちかわ」と前髪を櫛で撫で付けた方が名乗った。

秘密結社「オニ」の海外諜報部門、つばめの中国現地諜報員、古場と市川は久しぶりの帰国にほっ、と表情を緩めた…

「これでパスポートの上では『戸隠』と同行者七城正嗣無事帰国、ってところだな。君らも二年の任期ご苦労だった」

「このマスクの通気性は見事なもんでしたよ」

と差し出されたおしぼりで顔を拭い、古場が正嗣の顔を型どったマスクと、さらに正嗣と琢磨本人のパスポートを耕三に渡した。

表向きは日本企業の駐在員である古場と市川は海南島のレストランで正嗣たちの隣のテーブルで正嗣たちと接触し、テーブルの下でマスクと手荷物を受け取っていたのだ。

そうだろ?と耕三はにやりとし、

「国内某企業が開発した3Dプリンターと最新ラテックスで作った防犯カメラでもきづかれないマスクだ。特に君たちのような隠れスパイの任地からの出国には打ってつけの発明って訳だ、で、どうだった?任地での活動は」

琢磨のマスクを耕三に渡した市川は、
「我々は急成長しているシンドバッドと急速に増えている海南島への出稼ぎ失踪者、それと当局幹部の明鵬めいほう、こいつは蔡福明の恋人、明倫の父親なんですが…詳しくはこのデータを見てもらえば、と」

と言ってテーブルの上にUSBを置いた。

ご苦労さん!と言って耕三は笑顔でそれを受け取り、現金入りのスーツケースを渡した。

「今後三年は国内で普通に暮らしていいから」

古場と市川はこんなことは言いたくないんですがね、と前置きしてから、

「任地の幹部たちの実態は本当に赤黒い『闇』でしたよ」

と言ってからそれぞれ時間差で店の裏口から出ていった。

ネット長者、蔡福明死去。自殺か?

というネット記事の見出しを悟はホテルのラウンジで確認してからスマートフォンをスーツのポケットにしまうと顔を上げて革のソファから立ち上がると、約束の時間に各々フォーマルな服装に身を包んだ戦隊メンバーと蓮太郎の母で女優の四宮蓮花、小角、ルシフェルと合流した。

蓮花は開口一番

「このホテルでリュウチェンの満漢全席ゆうたら七階の『鳳凰の間』やな」

とハオラン君救出のお礼にリュウ・ワンフェイ元宇宙飛行士が用意しているサプライズパーティーの内容までずばり当てた。

さ、さすがは女優、都内の高級ホテルの特徴は全部押さえている。

と一同がエレベーターで七階に昇り鳳凰の間の扉を開くと…

「サートールゥーっ!!」

と悟の兄、基が海外ドラマに出てきそうな父親みたいに大袈裟に両手を広げ、ぎゅっと弟を抱擁した。

(おかげで勝沼フーズとリュウチェングループとの業務提携が締結した。よくやった)
と耳元でビッグビジネス成功の報告をした。

(人権蹂躙を正すという当然の行為をしたまでです。恥ずかしいから離してくださいっ!)

(ふっふっふ、その困った顔が可愛いから兄さんはわざとやってるんだよ…)

悟は強引に兄から体を離して髪を整えるとこのパーティーの主催者であるワンフェイ氏と固めの握手を交わす。

「甥は無事にアメリカの自宅に帰りました。ありがとう」

「ハオラン君が日常を取り戻す事を願っています」

「貴方は若いながら大した人物だ。あなたみたいな人が世界をより良い方向に導ければ、と期待しています」

そ、そんな!と本気で照れる悟を尻目にワンフェイ氏は集まった全員に、

「さあ今夜のパーティーは全部レストランリュウチェンのおごりです。楽しくやって下さい!!」
と宣言すると早速ドアが開き、ボーイたちが湯気が立つせいろを運んでくる。

「きゃあー、満漢全席~」
「豚の角煮っ!」

ときららとルシフェルが手を取り合ってはしゃぎ、皆、好きな飲み物のグラスを手に取り「乾杯!」と部屋のあちこちで、かちん!とグラスが鳴った。

その三時間後、
「はあ~、中華食べ過ぎで胃もたれですぅ」と蓮花から借りたカクテルドレス姿でベッドにへたり込むきららに、
「デザートの杏仁豆腐まで美味しくいただいたもんなぁ」
と、やはり食べ過ぎた蓮花も和服の帯を少し緩めた。

「きららちゃんこれ飲み」と蓮花がくれた黒い小さな丸薬は陀羅尼助丸。
「あっこれ…オッチーさんが時々飲んでるやつだ」
陀羅尼助。それは伝承では役行者が開発したと言われる奈良ではポピュラーな和漢方胃腸薬である。

「胃もたれしたら陀羅尼助、風邪気味ならば陀羅尼助、酒のむ前に陀羅尼助」とどっかのキャッチコピーみたいにオッチーは陀羅尼助推しをしていた。

ピッチャーの冷水をコップに注ぎ、2人が陀羅尼助を飲んでおっ、胃がすっきりしてきた。と自覚した時コールが鳴り、「小岩井きらら様、ミカエル・グートマン様より3012号室へいらしてくださるように、とのことです」というフロントからの伝言に、グートマンとは世を忍ぶミカエルの偽姓なのでミカちゃんには間違いない。

「とにかく行ってきます」
「さよか」
ときららを見送った蓮花はさっさと和服からバスローブに着替えた。

3012号室はきららたちと同じセミスイート。入るなり応接室はビクトリア朝の家具調度。応接室のソファセットには退院したばかりの琢磨と正嗣、隆文と聡介が向かい合わせに座っており、

悟は壁にもたれて真っ白のタキシード姿の永遠の16才少年、大天使ミカエルと彼の双子の兄、ルシフェルは黒のタキシード姿で並んで立っている。

「さて…」と全員揃ったのを確認してから呟くミカエルの金色の瞳は冷たく硬質な光を放っていた。
弟は定期的にラジエルから人間性を抜かれて帰ってくる。とるーちゃんから聞いていたので余計そう見えるのだろう。

「とりあえず事件解決とミッション第一段階達成してくれた君たちにお礼を言いたい。今から僕が告げることに君たちはショックを受けるかもしれない」

その前に…とミカエルはいきなり兄の胸の中央に手を突っ込み、地球を発つ前に預けておいた「人間性」の光の珠を取り出すとそのまま自分の胸に入れた。

「よし、兄上への済まなさ、ウリエルへの嫉妬、ジョフィエルをウザいと思う気持ち、ガブリエルへの信頼、ラファエルをこの治らない天然め!と思う感情がめらめら沸き上がってきたぞ」
と呟くミカエルの目つきが穏やかになってくる。
「ミカ、お前…部下をそんな風に思ってたの?」

という兄のツッコミなど気にせずミカエルは「さて、心の準備はいいかい?」

とほくそ笑んだ。

後記
困ったお兄ちゃん、勝沼基。
ミカエルの偽名はミヒャエリース•グートマン小体という医学用語から。中間管理職のえげつない本音。
















































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