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電波戦隊スイハンジャー#208 大災禍

第10章 高天原、We are legal alien!

大災禍

もう自分はどれ位そうしていただろう。

意識下の水底に沈み込んで自分が知覚する宇宙のあらゆる方面を探って何度も諦めかけたアメノコヤネが求めていたお方の意識と繋がったのは実に700年ぶりの事だった。

(…コヤネ、コヤネ聞こえる?)


(そのお声はユミヒコ殿下?ご無事であらせられたのですかっ!?)

(今は再会を懐かしんでいる暇はない)

厳然とユミヒコは言い放った。

(事は急を要す、今から300年以内にお前たちのいる星系は超新星爆発で消滅する。直ちに緊急脱出措置を敢行せよ)

(それは今すぐ、ですか?)

(疾く行動に移さねば爆発に巻き込まれて高天原族は滅びるぞ。思惟の演算に間違いはない)

(承りました)

コヤネは淀みなく返事し、ユミヒコとコヤネはほぼ同時に思念の糸を切った。

長年元老長を務めてきたアメノコヤネの緊急時の行動は早い。

瞑想から覚めた彼はその足で女王の玉座に赴き、両手の上に先ほどの水占で己が精神を移した半円状の玉石である「御鏡」を差し出し鏡面に映った自分の意識とユミヒコ王子との対話を見せた。

「これは王立天文台との意見と一致する。あい分かった、元老長よ杖を差し出せ」

は、と御鏡を懐に収めたコヤネ長さ30センチしかない元老長の白い杖の取っ手を女王に向けて恭しく差し出し、天照が玉璽である指輪を取っ手の中央にあるくぼみに嵌め込んだ瞬間、杖の先が伸びて3倍の長さになった。

本来の形になった王勅の白杖を振り上げたコヤネは玉座1メートル前にある蔦が絡まってできた花瓶のような形をした杯に深々と突き刺した。

がらーん、ごーん、ごーん…
コロニー中に重々しい鐘の音が響き渡る。
召集のためにマイクを持った天照はそこでやっと自ら首輪を外して渦巻き状の痣とともに封印してきた能力、「支配の言霊」を発動させた。

「これは王勅による緊急事態である。喉に痣を持つ言霊使いは成人したもの全て1人につき3個のモチを持参してコロニーの神殿に集まり、残りの居住民はユニットの自室内に待機すること、これより言霊の儀を決行する。以上」

高天原族の言霊使いは声を使って命令しただけで相手を意のままに操ることができる能力を持つ。

それがこの一族が30星系からなる高天原銀河に住まう異なる民族、種族を無駄な紛争なく制御し、この銀河の生き物の頂点に君臨してきた理由でもある。

が、それは強い感情がなくとも「死ね」と命令してしまうと相手は喜んで自害してしまうので諸刃の剣の危険な能力でもある。

なので誕生時に喉に痣が確認された高天原族は赤ん坊のころより痣を隠して力を封印され、物事がわかる700才になると言霊使いの師から

調和の祝詞のりと、統合の祝詞、快癒の祝詞、

など人を癒したり緊急時の団体行動を効率的に行うために作り出された呪文とその使い方を指導され成人までに正しい能力の使い方を習得するのだ。

女王が招集をかけて一時間以内に成人した35人の言霊使い全てが集まり、コロニーの各居住区を分ける隔壁が閉められ地上軍、宇宙軍全ての戦艦が将軍タケミカヅチとタヂカラオの指揮のもと脱出体制に入った。

「今より、支配の祝詞を詠唱して力が届く限りの他星系の民を脱出させたのち我々もスサ星衛星軌道を離れる。覚悟はよいか?」

「はい!」

と老若男女全ての言霊使いが頷き、実は女王の言霊使いの師匠である元老長の指示のもと、これ一つ食せば三日三晩の栄養と水分を体内に保持できる携帯食料であるモチを摂取すると、

「これから全星系間放送回線を開き演説を行う。その間そなたたちは支配の祝詞を詠唱せよ」

映写装置と拡声装置の前に立って演説の準備をする天照の背後に整列した言霊使いは

「言霊、解放」

という元老長の合図とともに首輪を外して渦巻き状の喉の痣と両眼を銀色に輝かせてあー、あーあー…と喉を緩めて発声し声を合わせて詠唱を始めた。

「前高天原銀河の諸君、我は高天原族第85代目女王の天照である。これから起こることを落ち着いて聞いてほしい。

この星域に起こる災禍、超新星爆発によって演算予測により5星域から10星域までが滅ぶ。

我々が諸君らに提供した脱走用の移送船に移り、疾く退避、できる限り次元転送して今いる処から逃げよ。

その目標は最低でも300光年以上先である。

逃げ切った後は各々の才覚で生き延びるように。ではさらばだ」

滅多にない女王陛下のお姿を見、お声を聴くことが出来る!

と映像端末を開いた支配下30星系の民たちは女王が告げた残酷な真実に最初は驚き、恐怖はしたが映像から流される音声によって既に強烈な洗脳状態に懸かってしまっている。

種族文明政治制度問わず知的生命体が住まう各星の各指導者たちは直ちに民たちの脱出を指揮し、100年以上も前から宇宙港に配備されていた避難船に乗り込み、すぐさま母星から離れた。

その間、共に首輪を外したアメノコヤネと天照だは王族である二人だけが使うことのできる共鳴の祝詞を詠唱し続け、言霊使いたちもそれに唱和し続ける。

それは地球時間にして実に三日三晩続いた。

「陛下、危険星域の民全ての脱出が完了いたしましたぞ!」

と隔離された神殿のモニターから宇宙艦隊総司令官タケミカヅチの報告を受けた天照は

「よし、仕上げだ」

と冠、首飾りから指輪に至るまで光子エネルギーと先王イザナギの抽出細胞との融合体である自分のエネルギーを吸い出す装置である装飾具を身に着け、

「コロニータカマノハラ、解体」

の詔を下した。

「コロニー、解体!」

基地司令長官タヂカラオの命のもと直径3.8キロメートルの円盤型の巨大なスペースコロニーは隔壁から分離し、居住部を中心に変形を繰り返し、女王いる神殿を中心とした真の旗艦、天鳥舟を中心とした鳥の形をした八隻の惑星探索用宇宙船団に変形(トランスフォーム)した。

「女王陛下がお力を貸してくださる!全艦、整列を整え次元間飛行を行う、脱出の準備はいいか!?全艦、高速離脱ワープっ!」

全高天原族を乗せた船団は瞬間移動を繰り返し、目標位置である300光年先までの離脱を終えたちょうどその時、

高天原銀河中心部より75億光年に位置する恒星スレヴが別の恒星セナと融合すると瞬間的に限界を超えて崩壊を始めて核融合が開始される温度を超え、核融合開始後、数秒の間に、白色矮星を構成する物質のかなりの部分が熱暴走を起こし尨大なのエネルギーを放出して、爆発を起こした。

その規模、約250光年。かつて高天原族が生まれたスサ星はじめ周囲の12星系がこの爆発によって消滅した。

後の地球の天文学的では Ⅰa型いちえーがたと呼ばれる強烈な光を放つ超新星爆発からぎりぎりの所で高天原族は逃れたのである。

「陛下、ようやく安全星域まで脱出確認いたしました」

とタケミカヅチが報告すると歌い続けた元老長がやっと詠唱を止めてほっと表情を緩める。

エネルギーを消耗しないようモチを摂取しながら交代で謡い続けた言霊使いたちも老人、中年、若者の順に床に手をついてから

「怖くて不安だったけれど、生き伸びることが出来た…」

良かった良かった、と手を取り合っている背後で各艦に過剰にエネルギーを供給した女王が倒れた。

「いかんっ!陛下の体力が限界を超えたっ!」

封印が説かれた神殿の扉から入ってきたウズメがすぐさま昏倒した女王を抱きかかえると主から力を搾取し続けた装具を全て外す。

「いけません、すぐに羽衣で包んで応急処置しないとお命を落としてしまわれます」

そう診断したウズメが腰に括り付けた羽衣で平服になった女王の体を包もうとした瞬間、

天照の全身に厚いバリアが張られ、胎児のように身を丸めた天照は生命の危機に瀕した高天原族に起こる現象、蛹状化反射ようじょうかはんしゃを起こし外界と完全に遮断されてしまった。

「いかん…大量に電力を消費した今陛下が蛹状化されては」

蒼白になったタケミカヅチがそう呟くと間もなく船内の明かりが消えて辺りが真っ暗になった。

後記
民のためにエネルギーを使い果たした女王。
どうなる?高天原族。




















































































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