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電波戦隊スイハンジャー#211 小さきものよ

第10章 高天原、We are legal alien!

小さきものよ

そのあまりの小ささに吾の指の隙間から落ちた子らよ。

強い好奇心がゆえに数多の事象を知ろうとし、そして知りすぎた為に傷つけられ絶望し、

遂には自らの消滅を強く望み、絶望の大海を漂う小舟で眠る子らよ。

この宇宙で唯一お前たちを庇護してくれる者の処にいざ、

運びゆかん。


ざざん、ざざん…と規則的な波の音と時折吹く海風が心地よい夏の夜である。

「見てください父上!また一匹連れました!」

とかがり火の下で10才くらいの童子が紅い眼を輝かせて父を見上げた。

「おぉー、これで10匹目ではないか。父はまだ3匹しか連れておらぬぞ」

と釣り糸を垂らしながら息子を褒めたのは豊葦原族7代目大王、オオクニヌシ。彼は次男のコトシロを連れての夜釣りを政務で忙しい暮らしの中の息抜きにしていた。

コトシロはオオクニヌシと海の向こうの国から来た龍族の娘、カムヤタテヒメとの間に生まれた第二王子で生まれつき白い肌髪、紅い瞳という珍しい容貌をしていて日が昇っている間、表に出る事が出来ない。

だから暗くなると

「我々は夜釣り大好き親子だから」

と言って外に連れ出してくださる父の優しさをコトシロは嬉しく思い、今宵も父のためにいっぱい釣ってやるんだ!と張り切って針先に仕掛けを付ける息子の横で父親は別のことを考えていた。


丘の上で自分を虐げた兄たちの首を並べ、大王宣言をしてから早や15年。

スサノオの後押しで葦原中津国の大王となったオオクニヌシはスサノオの娘で正妻のスセリビメはじめ多くの妻と子に恵まれ、国を立て直した功績で民の絶大な支持を得、

もうこれ以上何も望まない。と思える程の幸せの中に居る…かと思われたが

民が増えて領土を広げるために山林を切り拓いていいものか、とか。春先から流行っている皮膚のかぶれの病に効く薬はないものか、とか。いろいろ思い悩んでいた。

全てのことを自分一人で考えて決断するのは難しいものだ。

と大王としての自分の能力に限界を感じ、隠れておられる舅スサノオどのや月に常駐なさっている思惟どのにいちいち相談できるわけでもない。

誰か智慧に長けた信用のおける者を外国とつくにから呼ぼうか?しかし臣たちが何と思うだろうか?

つまりオオクニヌシは、常にそばに居て相談相手となる政治顧問を必要としていたのである。

いかんいかん、せっかくの息子との憩いの時に。

オオクニヌシは強く首を振って政務のことを頭から追い払い、仕掛けを付けた針を海中に投じてしばらく経ち…

ぐんっ!

と竿が折れんばかりの強い引きが来たので

「コトシロ当たりだっ!手伝って糸を巻き上げよ」

と親子で悪戦苦闘して釣り上げたものは、魚ではなく長さ一尺、幅三寸ほどの銀色の円筒だった。

これは一体?

オオクニヌシは背後の護衛たちに
「今宵はよく釣れた。これは褒美だ」

と親子で釣った魚の半分を籠ごと与えた。護衛たちはうはっ!有難し。と声を上げて喜び、我が主が怪しい物体を懐に隠している事に気付かなかった。

皆が寝静まった夜中にオオクニヌシは御宝を収めた神殿に入り、鏡台に掲げられているスサノオ大王の御心を映す。と云われる御神宝の御鏡を手にとって裏返し、

中央の出っ張りを押すとりーりーりー、と鈴虫のような音を立てて鏡面が光り、寝間着姿の思惟が「何かお困りごとでも?」と画面に現れてから手に口を添えてふわあ、とお上品なあくびをした。

スイッチ起動で通信装置と化した御鏡の前にふところの円筒を置き、手に入れた経緯をオオクニヌシが説明すると思惟はこれは…とばかりに目を見開いた。

「大抵の地球上の物質なら今この瞬間に解析できている筈なのに読めないなんて…成程、大王さまは正体不明の物体オーパーツを拾得なさったのですね。明日、日が落ちたらそちらに伺います」

と思惟が告げると通信は途切れ、思惟どのが遠隔で解析できないものとは一体?と不安に曇る大王の顔が鏡面に映った。

翌日の夕方、葛籠つづらを背負った思惟が王宮の入り口に現れ「今年も良い玉(宝石)を仕入れたので献上に参りましたの」と籠の蓋を取って握りこぶし程の大きさの翡翠の勾玉を見せた。

「ああ思惟どのか。今年もご苦労であるな」

玉石磨き職人の思惟。

と王宮で顔も名も知れている思惟はすんなり大王とその家族が住む内宮へ通され、「待っておりましたぞ」と表情を緩めるオオクニヌシの前に置かれた円筒を確認すると葛籠を下ろし、勾玉を入れた一段目を蓋ごと外すと、中から取り出したのは解析装置と箱型の密閉容器。

手袋をした思惟は円筒を慎重に密閉容器に収納し、「何で構成されているのか何が入っているのか解らない未知の物質を我が大脳皮質を使って解析するだなんて…興奮しますわ」

と異様に目を輝かせ、はぁはぁと呼吸まで速くなって解析を始める思惟の顔を、オオクニヌシはなぜか子供たちに見せないようにした…

「で、出来ました…」
と思惟が未確認物質を解析し終え、全ての結果である高天原数列を竹簡に記し終えたのはもう夜中近く。オオクニヌシ以外の家族は既に眠ってしまっていた。

「この円筒の正体は私の読み通り小型の救命カプセル。中から知的生命体三体の生命反応が見られます。冷凍冬眠状態にありますが解凍して起こすことも出来ます。いかがなさいますか?」

「なさいますか、も何も『開けて中を見たい』と思惟どのの顔に書いてありますぞ」

そうオオクニヌシが言うと思惟は頬に人差し指を付けて「えー?」ととぼけてみせた。が、唇の端には薄笑いを浮かべていた。

丸二日後、内部の解凍処理を終えた円筒の中に地球外の細菌やウイルス、汚染物質が無いのを確認した思惟が「開きますよ」と密閉カプセル越しに遠隔操作で円筒の蓋を開いた。

思惟とオオクニヌシが覗き込む円筒の中に居たのは身長五寸ほどのかわいらしい顔つきをした小さき人で、その手には我が子であろうか一寸ほどの小さき人を抱きしめている。親子と思われる二人の頭部に生えた角を見て…

「な、何だこれは!?」
「んまあ、なんて小さき可愛らしき生き物!」
と真夜中に大王と玉石職人は同時に叫び、その声を聞きつけたコトシロが「中身を開けたの!?」と父の後ろから円筒の中を覗き込む。

途端に小さき人の子供の方が目がぱちり、と開けて円筒から起き上がり、コトシロと目が合った。

「え、何なのこれ?角をはやした人…?」

驚いたコトシロは左右に動いて相手の目線から外れようとするが相手はつい~っ…とコトシロの目を追い続け、やがてにぱっ!と笑うとコトシロを指さし、蚤のごとき跳躍力で飛び上がって密閉ケースを突き破るとコトシロの頭頂部に着地して何事かを告げた。

「この言語は初めて聞きます。何と言っているのでしょうか…?」

「…な、なんだよう」
とコトシロがいくら頭から振り払おうとしても小さい人はぴょんぴょん跳ねて交わし、コトシロの頭から離れない。
「お前、初めて見たから我の主と言っておるのだよ」
と小さい人の親の方が起き上がり、この国の言葉ではっきりそう言った。

自分たちのわずかな会話で言語を習得した小さい人の知力に「私よりも解析能力優れたる存在…!」と思惟の眼が童のように輝いた。

「我々はスクナビコナ族、外国とつくにで迫害を受けて避難のためにこの船に乗っていた。
我は長のハガクレ。そこな王子の頭にいるのは孫のスミノエ。何処かの国の王よ、救い上げて下さって感謝する。ぜひお礼がしたい」

頭から三本角を生やした小さい人、ハガクレはオオクニヌシと思惟に向かって両手を上げてひざまずき、スクナビコナ族最大級の感謝の意を示した。

「い、いえ…我はたまたまあなた方が入っていた筒を釣り上げただけで」

「遠慮をするな、まずは疫病の治療薬を作って民を回復させる。開墾はそれからだ」

自分が抱えている政務の悩みをずばり言い当てられたオオクニヌシは、我が求めていたのはこのお方なのだ!と食い入るようにハガクレを見つめた。

「我豊葦原族大王、オオクニヌシはあなた方を迎え、この国ある限り庇護します。どうか、どうか傍にいて智慧を授けて下さい…」

極上の玉石を押し頂くようにオオクニヌシはハガクレを両手で掬い上げ、首を垂れて未知の小人に政《まつりごとの》の指南を乞うと今まで無表情だったハガクレはにこっと笑って「よろしい」と快諾した。

これが、大国主と共に国造りを行う小さき相棒、少彦名族との出会いである。

後記
松五郎、インプリンディング。


































































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