電波戦隊スイハンジャー#140

第七章 東京、笑って!きららホワイト

two cube too hate2


ボスの李は5つの杯に年代物の老酒を注いで部下である4人の幹部の男と、私に持たせて

「再見(ザイジェン・さらばだ)!」

と宣言して一気に杯の中身を飲み干した。

ばかめ。

私にとっては再見了(ザイジェンレ)、もう会うことは無い。だ。

男たちは間もなく苦しみだし、喉を抑えたり床を引っ掻いたりしながら次々に倒れていった。

老酒の中に入れた私の新作の麻薬をご賞味あれ。君達が最初の実験台だ。

まったく君達人間というものは…

酒やドラッグで酩酊する。女を抱いて快楽を得る。大金を稼いで高級品を買って悦に浸る…

我欲を満たすだけの醜い生き方には吐き気がするよ。

だから、薬を使って命を縮めてあげているのさ。

こうやって人間がころころ死んでいくのを見ると…

実に、すっとする。

と同時に、頭の中で警報の音が鳴り響いて止まないのだ。

20年前、患者に取り付けられた測定機器の全てブザーを鳴らし始めた。

バイタル低下してます!ただちに治験を中止して下さい!

若い医師やナースたちが恐怖に顔を強張らせて私を見る。

「いや、続けろ」と命令したのは他ならぬ私だった。

たとえ何人殺してでも、「私の薬」の完成度を見たい。と思ったのだ。

私がいまだに憎み続けているのは誰だ?

私を追い出した大学病院と、日本の医学界か?籍を抜いて私から逃げた妻子か?

私の新薬製造を後押しし、事故が起こると即株式を売り払った製薬会社か?

それとも…マスターが言うように人間全体なのか。

もう考えている暇はない。

今月の初め、私は「カジノをつぶした3色のヒーロー戦隊たち」をおびき寄せるため荒川河川敷に「餌」を撒いた。

もちろんそれは、私の実験体が殺した張博則と徐秀雄の死体だ。

元々刺青をしていたあの二人は組織から逃げようとしていた。忠誠の儀式だと言うとしぶしぶ形だけ刺青に針を入れるのを受け入れた。

ばかめ。花言葉は復讐。裏切者には死を、だ。

いま地上の氷工場では警報ベルが鳴り響いている。コンクリートの天井には、恐竜が足踏みをしたような衝撃が起こっている。

彼らは餌に食らいついたのだ!

ここまで来たのは誉めてあげよう。

さあ私も行こう「箱」のもとへ。私は可愛い実験体の足元の小部屋へと続く階段を降りていく。

スーツケースと、缶コーヒーと、モーツァルトのCDが入ったラジカセを持って。

ラジカセの再生ボタンを押すとレクイエム「怒りの日」の合唱が小部屋になり響く。

Dies iræ, dies illa
solvet sæclum in favilla:
teste David cum Sibylla
Quantus tremor est futurus,
quando judex est venturus,
cuncta stricte discussurus.

怒りの日、その日は
ダビデとシビラの預言のとおり
世界が灰燼に帰す日です。
審判者があらわれて
すべてが厳しく裁かれるとき
その恐ろしさはどれほどでしょうか。

戦隊6人が見下ろした倉庫の地下室には、禍々しい紫色の、一見して10本近くの長い頭部を持った体長4,5メートルの山椒魚みたいなぶよぶよした怪物が、氷塊と瓦礫の中で

おおおおおおんっ
と哭いた。

怪物の半透明の体の下に、厚いガラスの小部屋に座ってこちらを見上げる厚眼鏡の中年男…

「柳か!?」
声を張り上げたレッドの問いに、柳はにかっと笑って片手を挙げて応えた。

「よく来たね、カラフルな戦隊ヒーローくん。我が実験体『ヒュードラー』の餌食になってもらうよ。

「ぬかせ!」
シルバーが抜き打ちの真空剣を思いっきり放った。ヒュードラーと呼ばれた怪物の体が中央から真っ二つに裂けた。

と思ったらすぐに断面がくっついて元の姿に戻った。

「まさかこいつ、液体で出来た生物か!?」

ブルーが9本ある頭部をレーザー銃で次々に撃ち抜いてもまた生えてくる。

「どうやらそのようですよ。これは…力技が通用しない相手みたいだね」

あおおおおん、といななきながらヒュードラーが反撃した。噛みつこうと伸びてくる牙をグリーンは武器の倶利伽羅剣で受け流す。

がきぃん!と重さと衝撃で両腕が痺れる。なんて怪力だ…!

その時、ヒュードラーのある特徴にグリーンは気づいた。

「こいつは攻撃の時だけ体の一部を硬化させます!その時を別の仲間に狙わせてみては?」

「仲間を囮にするって言うの?」ホワイトが怪物の尻尾の攻撃をかわしつつ「それは反対」と首を振った。


「やってみる価値はあります」

とグリーンに賛同したイエローと他メンバーが見上げた相手は…

「結局俺がいちばん丈夫な子、って訳ね、やりゃーいいんだろうが!」

シルバーがほとんどヤケ気味に承諾し、わざと怪物の視界に入るように躍り出た。

「来やがれ、ブヨブヨ野郎!」

スーツの下で聡介は無敵の高天原族形態に変身してヒュードラーの9本の頭部の噛みつきを前方にクロスさせた両腕で受け止めた。

「今だ!」シルバーに噛みつき、硬化した頭部に向けて残り5人が、なるだけ一点に向けて攻撃を開始した。

ブルーはレーザー銃を最大出力にして、レッドとホワイトは武器のブーメラン機能で遠方から攻撃した後、

グリーンとイエローは、もつれた蛇型の頭部を剣で交互に斬りつけた。


その間シルバーは、敵の噛みつきと、仲間から受ける攻撃の両方に耐え続けた。

そして何10回かの攻撃の後、9本のヒュードラーの石化した頭部はシルバーに噛みついたまま顎の上が本体から千切れた。力任せにシルバーが頭部を腕から振り払うと、コンクリートの壁に衝突した頭部が粉々になった。

「なかなかやるじゃないかヘラクレスくん」

小部屋の中でで柳は下手な口笛を吹いた。しかし、そうはうまくいかないよ。

と柳は腕の中にある「箱」を大事そうに抱きしめた。

やった!

と6人の戦隊が心の中で同時に思った時、ゴーグルに突如、

emergency!(緊急事態!)の文字が点滅した。

頭部を失くした怪物の首の切り口から、紫色の泡がぶくぶくと噴き出す…

「そいつは毒液で出来たモンスターだ!体液が蒸発すると有毒ガスをまき散らすぞ!」

と、戦隊たちのはるか上、氷倉庫の屋根の梁から忍び姿の男が声を張り上げた。

「その声はオッチーさん!?」

今夜の小角は肩の上に、一羽の烏(からす)を乗せている。

「おまえらはスーツで毒から守られているが、俺様の服じゃこうだ…」

と小角は溶けかけた自分の上着の衿を見せた。

「力押しじゃ攻撃は無駄、傷つけたら毒液が散るだけ、って…どうやって戦えばいいのよ!」

ホワイトは本当に頭を抱えたい気持ちになり、小角に怒鳴りつけた。

興奮の余りスーツから雪の結晶が舞い落ちる…

「俺はこれ以上は無理だから脱出する。健闘を祈る」

無情にも小角は言い放って倉庫の窓から出て行った。烏が不吉な鳴き声を上げながら3度旋回して主を追った。

もし牙がスーツを貫通してたら、俺死んでたってこと!?

シルバーはスーツの自分の腕を撫でて、初めて鳥肌を立てた…

「さあヘラクレスくん、どうする?」

小部屋の中で柳が、じつにいやな笑い顔を浮かべた。

後記

オッチーさん、少しは手伝えよ。

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