電波戦隊スイハンジャー#131

第七章 東京、笑って!きららホワイト

花言葉は復讐2

皆が帰った後のエンゼルクリニック診察室の机にのビビンバ用の石鍋がある。その中に摂氏41度の適温のお湯を張って

「草津良いとーこ~、一度ーはおいで~ちょいなちょいな~♪」

と呑気な鼻歌を歌って湯に浸かっているのは、小人の松五郎である。

ラベンダーの精油を一滴垂らしたアロマバスの中でうぃ~と頭だけ出して額の角を天井に向けている。

「うはは、まるで岩風呂気分だべ」その様子はまさにお気楽極楽。テッパン妖怪漫画の主人公のお父さん。

そんな松五郎を疲れた顔で見てるのはこの研究室の主、野上聡介と


「これ以上女性専用ドミトリー『あやめの間』を占拠されると売り上げに響きますから!」

という理由で悟に安宿を追い出されたツクヨミであった。

「確かに勝沼の言い分はもっともだ…だからって俺ん家に泊めてよってのはムシがよすぎね?」

「遺伝子上の姉なんだからいいじゃない、聡ちゃん泊めてよ~」

と手を合わせるツクヨミはシルクのパジャマに着替えてもう寝る気満々である。

「だ、か、ら、そう!その遺伝子ってやつだよ!

お前ら銀髪銀目のエイリアンどもの細胞から俺のじいちゃん作り上げて

俺の代でスサノオとDNA一致させてしまった全ての元凶のマッドサイエンティストが、今風呂に浸かっている。

答えろスミノエ!どうして純血の高天原族の俺を創った?

本当はエイリアンだった天津神の子孫を豊葦原族と区別するんは何故?」

神名スミノエノスクナビコナこと松五郎は石鍋に手を掛けてサンリオキャラを彷彿とさせる笑顔でにぱっと笑った。


「二億年先の銀河、高天原で生まれた究極の生命体が高天原族。

追放された第二王子スサノオが流刑先のこの国でクシナダ媛と結ばれ作った子孫が豊葦原族だ。

両者の間には狼とトイプードルほどの力の差がある。

おまえがいけ好かねえと思っている忍者集団も、所詮は異星人と地球人のハーフの子孫。おまえ程強くはない」

「あのね、血が薄くなっちゃうのよ」

とツクヨミはぬるいカモミールティーをすすり、松五郎の説明に補足した。

「高天原族が異星人と交配して出来た子供は力が10分の1程度しか発揮できなかった」

「それじゃあ4、5代先には高天原族の能力を持つ人間は絶滅してしまうだろうよ。
どうして琢磨たちのような優れた運動能力を持つ奴らが現在まで残ってるんだ?」

ガーゼハンカチで体を拭いて浴衣に着替えた松五郎は遠い目をして答えた。


「今から1400年前…役小角の時代にまでなると能力が発現した子は3代の内に一人生まれるか、ってまでに激減した。

そういう子たちは荒ぶる神の子、山神の子として迫害されて山に棄てられた。

小角は前鬼を初めとして捨て子らを次々に拾って育てた。

迫害された者どうしが共同生活する内に数年経ち、ある重大なことに小角は気づいた。何が起こったか分かるか?」

松五郎の質問に聡介は考えを巡らし、数秒で答えに行きついた。

「集団生活する男女の間で生まれた子供たちに超人の能力が発現したんだな!?」

「そう、豊葦原族どうしのかけ合わせで再び血は濃くなったのだ。
小角たち山の民はそうして1400年間血と力の存続を守ってきた」

「という事は…今も?」

「そうだ。隠の配偶者はだいたい隠の子孫だ」

結婚の自由が制約されながらも力の存続のためにそれを受け入れる。

果たしてそれが幸せなんだろうか?愛情は生まれるんだろうか?

聡介が考え事をしているそばではツクヨミが二つの診察台をぴたりと合わせ、勝手に布団を敷いて寝息を立てていた…


妻のまどかがシャツのボタン付けの途中で自分の指を縫い針で刺して「痛っ!」と小さな悲鳴を上げた時、帚木哲治はテレビで週末の気象情報を見ていた。

悲鳴に気づいて振り返ると、妻の人差し指の先から真っ赤な血の玉が膨れている。

「あーあー消毒しなきゃ」と夫が救急箱を取りに行こうとするのを止めてまどかは指先の血を舐めた。

「すぐ止まるからいいのよ」指先を吸う妻の目つきは何か別の事を考えているようである。

「昨日お会いした外人さんね…なんだか人間とは違う異質なものを感じたの」

「喬橘流の若様が連れて来たフランス人か」

「あなたさっき会って来たんでしょう?」

妻の鋭すぎる指摘を哲治は驚きもせずに受け止めた。

「やっぱり『匂い』で分かるか。さすがだな」

まどかも15年前哲治とお見合い結婚するまでは凄腕の忍びだった。

「からかうのはやめてください」

指を吸うのをやめたまどかは大人しく手を差し出して夫の手当てを受けた。

絆創膏を巻いた指先を見つめて、まどかはふ、ふふ。と小さく声を上げて笑った。

「どうしたんだ?」

「あの方が先祖代々の伝承で聞かされていた高天原族さんなのかしら…

私の実家では、先祖がかぐや姫のお世話をしていた、という言い伝えがあります。

ティオリエさんはうっとりするくらい美しい方でした。

京都からお嫁に来て14年。忍びのお仕事は結婚退職して子供2人育ててずっと専業主婦してましたけど…

これから東京が面白くなりそうだわ。うふ、ふふふ…」


帚木まどか。旧姓、宝井まどかの現役時代のコードネームは「将監しょうげん」という。

本当は怖い妻の本性を時々垣間見てしまうのは、忍びとしての宿命なのか?

それとも全国のお父さん共通なのか?

「小春は風呂が長いな」

気分を変えたい哲治は中一の娘の長風呂にわざと文句をたれた…

後記
実は将監まどかの方が強い。箒木夫妻は格差婚。

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