電波戦隊スイハンジャー#129

第七章 東京、笑って!きららホワイト

オニの末裔たち6

戸隠とがくし

3400年前、長野県の山中に隕石が落ちた。

それは高天原族の最強の戦士タヂカラオがはるか2億年先の銀河からぶん投げた天岩戸であった。

後に地球に降下した異星人、高天原族はその地を「戸隠」と名付け、タヂカラオは現地の娘と結ばれ戸隠に定住した。

その宇宙最強の男の直系子孫が…

「うわ。ここの焼き鳥美味しいですねー」

「そうでしょ?」

とぼんじりをかじるきららを見てでれっとした笑みを浮かべている。

農林水産省勤務、都城琢磨は金曜の夜、バイト休みのきららを行きつけの居酒屋に誘った。

先月、男女交際の第一段階「テーマパークに誘う」から今夜は第二段階、「夕食に誘う」にステップアップしたのである。

「今夜は僕のおごりですからどうぞどうぞ」

「いいんですか?じゃあ卵焼きにしよっかな~」

ああ…きららさんのこの笑顔を見るために僕は一週間仕事を頑張ったのだ!と琢磨はテーブルの下で拳をぐっと握ってガッツポーズを取った。

そんな琢磨を店の入り口近くの席から観察する者たちが居た。

「デレデレだな」

と言い切るのは長髪をひっつめにして眼鏡をかけ、キャリアウーマン風に変装したた百目桃香。

「まずは弟の赴任祝いしてくれって話ですよ…やっぱり女を優先かよ」

と不貞腐れた顔でホッピーを飲んでいるのは琢磨の双子の弟の都城及磨である。

及磨は背広姿に眼鏡を掛けて仕事帰りのサラリーマン風に変装していた。

「まあ私がここで祝ってやるからさ」と桃香が琢磨のホッピーの瓶にかちん、と自分のグラスを重ねた。

「うーなんで僕たちは兄のデートをのぞき見せにゃならんとですか?なんでモモさん引き受けたんですか?」

「面白いから」桃香の回答は単純明快だった。

「電話一本でこの私たちに琢磨の尾行を依頼するとは…あの勝沼の坊っちゃんは何考えてるか分からん。けど面白い」

「ふーん、僕には解りませんけどね」

と呟いた及磨は兄がこっち側を向いたように見えたので慌てて新聞で顔を隠した。

ポケットの中でスマホが振動したので取り出して画面を覗き込むと

「あちゃー…気づかれてますよ」と桃香にlineの画面を見せた。


ゴラァ邪魔すんな(# ゚Д゚) 兄より

「…さすが戸隠、色ボケしていても勘は衰えてないな。さっさと出てって飲み直すか?」

「いっすねー」と任務から解放されてにこっと笑う及磨を

「お前これ任務終了じゃなくて失敗だかんな。もうちょっと尾行術上手くなれ」

と桃香は叱り彼の胸をとん、裏拳で小突いた。

桃香が悟に報告のメールを入れて、及磨とともに店を出た。


百地よりブルーへ
戸隠はナチュラルハニートラップを「わざと」満喫中。


風魔《ふうま》。

風魔小太郎を頭目とする相州乱波であり、足柄山中を縄張りとする忍者集団であった。

信頼性の高い現存する文献がほとんどないため、風魔忍群の実態は明らかでない。

公安調査庁統括調査官、風間蛍雪が夕方自宅マンションに帰るとシステムキッチンで青い髪の外人女性がで鼻歌まじりに料理していた。

「あ、お帰りなさーいご主人様。今夜は和食中心のおかずと、蛍ちゃんの離乳食を作ってさしあげまーし」

と割ぽう着姿で小鉢に煮物を取り分ける女性の正体は、女性と子供の守護天使ガブリエルである。

この人誰だ!?ちょ、ちょちょちょ…!

と蛍雪は買って来た紙おむつのパックを床に放って妻の理恵と生後8か月になる娘の蛍を探した。

リビングのソファに座っている理恵は赤ん坊を膝に抱っこして「パパお帰りなさーい」と呑気な声で迎えてくれ、娘の蛍は父親を見るなりあう!と声を上げ手足をじたばたさせた。

妻子の無事を確認し、蛍雪は心底ほっとした。

ソファで紅茶を飲んでいた正嗣が立ち上がって「突然おじゃましてすいません…」と蛍雪に向かって済まなさそうに頭を下げた。

「どうしてここが分かった?琢磨か?」と正嗣を指差し詰め寄りそーになる蛍雪を止めたのは

「とりあえず荷物置いて着替えたら」という冷静な妻の一言だった。

背広を脱いで普段着に着替えた蛍雪はソファにぐったりと体を沈めた。

「まったく…裏で忍者やってる公安の人間がいきなり他人に家庭訪問されるなんてな」

「ショックでしか?」冷えたグラスを2個、冷蔵庫から出したガブリエルはグラスを蛍雪に持たせてビールでお酌し、自らも手酌でビールを一口飲んで

「ぷはあっ、お料理頑張った後のビールはサイコーでしー!」と他人様の家で勝手をかましている。

「ショックどころか屈辱だ」蛍雪はあまり味のしないビールを一気飲みした。

「私達は今回は琢磨君の力を借りていませんよ」

グラスをテーブルに置いて蛍雪は正嗣を見た。

「あなたや帚木さんのような官僚タイプの人の個人情報を調べるのは戦隊以外のある人物に協力していただきました」

「誰だ?」

「うちのブルーの縁者なんですが」

蛍雪は考えを巡らせ数秒で答えに行きついた。

「勝沼基か…!あいつは地検の切れ者検事で有名だった」

「ついでに言うとあなたと基さんは東大法学部時代の同級生で、同じ教授のゼミでしたよね?」

「っあー、あいつに調べられたらバレるよな。変わり者だったけど、優秀だった」と蛍雪は頭を抱えた。

「待てよ、それじゃ帚木さんのところにもこうやって?」

「多分そうでしょう。勝沼さんのことだから趣向を変えて」

ガブリエルは小鉢におかずを取り分けて「さあさ食べましょうよ」と蛍雪に押しつけ気味に手渡した。


黒脛巾くろはばき

陸奥の戦国大名である伊達政宗が創設したと言われる忍者集団である。

戦国時代や江戸初期の同時代史料では確認できない呼称であり、江戸中期以降の伊達家関係資料に突如登場することから、架空の可能性がある。

黒革の脛当てを標章にしていたので黒脛巾と呼ばれる。

「体験教室といえども今回は講師のわたくしの方が緊張してしまいますわ」

着物姿の講師はうふふ、と口元に手をやり可愛らしく笑った。

ここは東京千代田区のカルチャースクールの中の生け花教室。

講師の女性はは30代後半から40歳くらいの品のある顔立ち。ショートボブの髪型が若々しい印象を与える。

「いえいえ、こちらこそ海外からのお客様の接待に使わせてもらって…」

と教室の畳の上で折り目正しく正座して頭を下げるのは、紺野蓮太郎であった。

そしてこちらが、と蓮太郎が紹介したお客様というのが

「ニホンの生け花のぉ、神髄に触れるコトはぁ、まことに光栄でぇす。トレビア~ン。ワタクシ、ティオリエいいま~す」

とわざとつたない日本語で話すツクヨミであった。


見て見て~喬橘流の若様とモデルみたいなフランス人のお客様が来ちゃった!


と妻と蓮太郎と銀髪の外人女性が並んで映る写真を見つめる男のスマホを持つ手はかたかた震えていた。

「まどか…!イロモノ戦隊の奴らめ、なかなかやるじゃないか」

土曜の昼下がりに家族の洗濯物を取り込んでいた帚木哲治は、何かを決意したように曇り始めた空を見上げた。

その夜の9時すぎ、バー「グラン・クリュ」に突然現れた客は悟が予想していた男だった。

「きさま~、オニの仲間にもちょっかいかけてやがったな…」

Tシャツの上にコットンシャツを羽織った哲治はとても40代とは思えない程若く見える。が、その肩は怒りで上下している。

「いらっしゃい、警視庁外事二課の帚木警視」

悟は感じのいい営業用スマイルで哲治を迎えた。

後記
眼には目を。家庭急襲には家庭急襲を。











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