「友達の作りかた」を発見した
この記事はテーマ「私の発見」アドベントカレンダーの1日目の記事だ。
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今年最大の発見は友達の作り方がわかったことだ。
結論から言えば、友達を作るには「一緒に泊まる」ことが最も望ましい。
自分にとって友達をどのように作るのかという問いは、長年の謎だった。
婚活だったらシステム化されているし、様々なノウハウも見つけることができる。しかし友達というと、そうもいかない。
友達を作る方法を検索しても、本を読んでも、スカッとする答えが見つからない。すごくシンプルな問題なのに、その方法が分からないというのは、面白い。
そもそも友達の定義すら、なかなか一致することができない。
「2人は夫婦ですか?」という問いは、答えられる。しかし、「2人は友達ですか?」という問いは、本人すら気まずくなることがある。自分ですらわからないとは、友達っていったいなんなんだ?
私たちは、どうやって作るのかも、何なのかもわからない「友達」というものに振り回されている。
この感覚は、子どものころに聞かれた「将来の夢」のようだ。なんの情報も与えられていないのに、ただ未来のありたい姿を問われる、あの居心地の悪い瞬間。「友達」を巡る問題は、それに似ている。
私はこのあまりにも漠然とした「友達」についてずーっと考えてきた。動機としては、友達が欲しいというよりも「友達を巡る問題」というものがあまりにも普遍的なのに一致した見解がないところに好奇心をくすぐられる。JPOPが何十年も愛について歌っているようなものだ。答えのない問題は面白い。
しかし、今年、突然答えが見つかってしまった。
友達とは「安全」な相手であり、それは「隣で眠りたいと望める相手」のことである。
……と、言われましても、だろう。
何をいっているのだと。
そもそもこの議論は「将来の夢」や「愛」のようにふわふわとした対象についてのものだ。あなたと私でそのゴールイメージすら一致しない。そこに「隣で眠る」だといわれても、共感のしようもないとおもう。
それでもこの記事を書いているのは、この「隣で眠る」ことに効果があったからだ。30名程度の被験者(?)で実験したところ再現性のある効果が出た。隣で眠ると、仲良くなります。
今回の発見は人類学者ロビン・ダンバーの「なぜ私たちは友だちをつくるのか: 進化心理学から考える人類にとって一番重要な関係」という本を元にしている。彼は人間関係についての研究の第一人者で「ダンバー数」という認知可能人数によって人間関係の輪が形成されるという概念を提唱したことで知られている。この本は彼の人間関係研究の決定版で、世界中の友達に関する研究を総まとめしてくれている。
この本の主張することはシンプルで「人間は猿と変わらないですよ」ということだ。どうやったって私たちのハードウェアは動物であり、理性で制御できる領域というのは限られている。人間関係についても、大部分が動物と同じだという結論だ。
本が紹介している事実は以下のように身も蓋もない。
・物理的に近所に住んでいる人と友達になり、遠くに離れると関係性も弱くなる
・「どれだけの時間その人とコミュニケーションをとっているか」で友達の強さが変わる
・毛繕いのように、スキンシップは超大事
・好みや生まれが近いほうが仲良くなりやすい
・一緒にスポーツをすると仲良くなる
数々の研究紹介のなかで自分が注目したのは「アメリカの大学の新入生を観察したら、単なる知り合いから時々顔を合わせる友達になるには45時間一緒に過ごす必要がある」というものだ。友達とは、単なる接触時間なのである。そして他の研究とあわせると、その45時間というのはリラックスした時間でなくてはいけないようだ。単に同じ授業を受けているのではなく、だらだらと雑談をしたり、サークル活動をしているような時間の累積により、友達になるのである。
この「45時間」というパラメーターが、「社会人になると友達ができない」ということを綺麗に説明してくれる。45時間というのは長い。職場で週に1度飲み会がある程度では全くたりない。飲み会が3時間だとしても2か月で24時間にしか達しない。職場で営業日に1時間×2か月雑談してようやく40時間少々だ。途方もない。
さらにいえば「45時間」は結婚が難しいことも同時に説明してくれる。結婚は究極的に親密な関係だ。大学生が少々の友達になるのに45時間かかるのだから、男女の仲が真剣に進むまでも同じくらいはかかるだろう。出会い系アプリやお見合いサービスで2人が出会ってから仲良くなるまで、毎週土曜に映画と食事にいって5時間×2か月。たしかに45時間をクリアできるような男女であれば、結婚を前提とした交際にも進むことだろう。
ここで重要なのは「友達だから、だらだらと長時間過ごす」のではなく「だらだらと長時間過ごした結果、友達になる」ということだ。そして、その時間は社会人になると本当に稼ぎにくいことだ。思い起こせば小中学校時代の友達というのは、通学の都合や地元の都合で自然に45時間一緒にいた。部活や委員会という顔を合わせる機会も頻繁にあった。クラス替えやグループ学習など、学校というのはあらゆる方法で人間関係をシャッフルし、新たな関係を作るきっかけを提示してくれる。その超優秀システムに自覚のないまま甘えきった状態で社会に放り出され「いまから45時間誰かとだらだらしなさい」というのが社会人なのである。これはなかなかに難しい。
さらに頭を抱えるのは、社会に出ると「友達が多い人は、もうその時間が埋まっている」ことだ。人間のだらだらできる時間は有限であり、友達の多い人間は既存の人間関係に使っている。新しい人間とだらだらする余裕がない。出会い系アプリを何年も続けてしまう人は「何らかの理由で結婚できなかった人」であるように、社会に出てからの新たな友達の候補は、それなりに友達になりにくい人である。
しかし、絶望するには早い。
ジャニーズオタクは、友達が多いのだ。
突然話が変わったように思うが聞いてくれ。旧ジャニーズのファンの女性は、びっくりするくらい全国に友達がいるのだ。社会人になってからハマった女性でも、しっかりと全国に友達ができる。それはなぜかというと、「人間関係を作らないとライブにいけない」し「北海道も福岡もドームライブで宿がとれないからオタクの家に泊まるしかない」からだ。ご存じの通りジャニーズのチケットは倍率が高い。だからファンクラブに入ってあの手この手で連帯をしてチケットを獲得し、仲間同士で分かち合わなければライブにいけない。ここで基本的な関係が生まれる。そしてチケットを仲間とともに手に入れても、宿がない。ホテルが埋まっている。そうすると自然、地方のジャニーズ友達の家に泊まることになる。泊まると夜にはブルーレイ上映会が開催される。翌日は観光したりもする。何時間もだらだらと過ごし、そのお返しとして次のライブでは自分の家にも招くことになる。
ジャニオタコミュニティではロビン・ダンバーが論じる友達の条件が、自然に達成されている。ということは、だらだらする時間がない社会人であっても「宿泊をする」口実があればいいのだ。寝る前後というのは忙しい人でも、どうやったってだらだらする。歯磨きをし、寝具を整え、睡眠につく。だらしない格好で目覚め、顔を洗って、朝食をとる。まるで家族のような親密な時間。極めて動物的に「安全」な時間を過ごすことになる。そうすると、警戒心が解かれていく。
ここで想像がつくように「だらだらとした45時間」というのは「危険でない相手だと認識するため」にある。私たちは猿であり、危険を遠ざけることが遺伝子に刻まれている。友達とは「利益のある関係」ではない。「隣で寝ても危険ではない関係」なのだ。その安全確認のためにどうしても時間がかかる。
この仮説を元に、私は自宅を「ゲストハウス」と無理矢理名付け、寝具をたくさん購入した。結果として半年で累計30名程度が宿泊した。できるだけ複数で宿泊させ、最大で6人が同時に泊まった。実験を通して分かったことは、驚くほどのスピードで仲良くなるということだ。特に0時をすぎて、あくびを噛みしめながら無意味な話をだらだらする時間がたまらない。俺たちは日なたで毛繕いをする猿の一種であることが身体で理解できる。初めてあった人とあくびをしているとき、その人を「敵」と見なすことは難しい。
思い返せば、企業の「合宿研修」だったり「社員旅行」というのは極めてコスパの高いイベントだったのである。ファシリテーションやコーチングをするのも良いが、とりあえず「同じ釜の飯、同じ床」で過ごすことが心理的安全性の獲得には一番早い。もちろん性のトラブルなど一定のリスクはあるだろうが、二段ベッドのドミトリーの宿が成立するように、適切な管理体制があれば問題はないはずだ。私たちは「一緒に眠る」というシンプルな行動を、軽視しすぎではないか。
もちろん社会人になって「一緒に眠る」状況を作るのが難しいことはよく分かる。けれど手段はある。自分がダイビングの免許を伊豆に取りにいったときには一緒に合宿した人達とひたすらだらだらせざるをえなかった。海に潜っている数時間以外は準備や休憩の時間であり、やることがないのだ。この間にとりとめのない話をして仲良くなり、安宿の二段ベッドで眠った。山小屋、キャンプ、海外のゲストハウス、免許合宿など社会人でも宿泊のあるアクティビティは存在している。社会人になってから友達を作る機会を逃してしまった人には、とてもおすすめだ。
宿泊実験を繰り返した結果、自分の人間関係が驚くほど変わってしまった。旧友との仲が疎遠になることもなく、新しい友人との時間がぐんと増えた。相互に安全だとおもえる人間とともに過ごすことは、ストレスが少なくて良い。
そんなわけで私が2024年に発見したのは「友達の作りかた」だ。
ぜひ、お試しあれ。
それでは、よい睡眠を。