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買占めとサプライチェーン 2/2

前回の続き。

前回はビールゲームとサプライチェーンについて説明した。

ここからは買占めの話を絡めていく。

ペットボトルのお茶やトイレットペーパーなどの消費財は大抵はまぁ、あと数日でそろそろ切れるなと思ったら買いに行く人が大部分だと思う。なので基本的には購入後数日で使い始める人が多いと思う。

でも何か非常事態になって買い占めようとするときの量は、おそらく数週間から数カ月単位での需要量に相当するだろう。

家の戸棚や収納スペース、物置などに消費財を備蓄し、数週間あるいは数カ月の単位で、欲しいときに欲しい分だけ消費していく。さらに外部要因の変化によっては、不定期に買占めを行うことにもなる。

つまり各家庭が在庫を持ち、その在庫量と外部要因を考慮しながら、小売店から各家庭の(見積もりが困難な)安全在庫の分だけ仕入れるようになる、といえる。
これはビールゲームの元々の前提である「そのとき消費したい分だけを小売店に発注する」ことと比較すると、もはや各消費者がサプライチェーンの1プレイヤーとして組み込まれる、と考えても良いと思う。

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で、前回の投稿で紹介したブルウィップ効果の話に戻る。ブルウィップ効果が発生すると最下流の小売店が最も在庫・受注残リスクを被ってしまう訳だが、仮に消費者もサプライチェーンに入ってくるとなると、どうなるだろうか。

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前回と同じように考えると、サプライチェーンの最下流の消費者が最もリスクを背負う立場になると考えられる。
でもそれは、消費者も小売店や卸業者と同じように、時間的遅延や在庫・受注残のリスクを負っているという前提だ。

しかしこの消費者というプレイヤーは、注文と納品の間に時間的遅延が存在しない。店頭で欲しいビールの量を店員に伝えて、その場で購入し家に持ち帰るからだ。

また、大部分の消費者は自分が購入したものをほかの人に売ることもしないし、家の在庫のスペースが増えてきたからと言って何かコストが発生するわけでもないだろう。

だから家庭内在庫のコストや受注残などの要素は関係ないし、小売店のコストやリスクが家庭内在庫にオフロードされるわけでもない。

一方で小売店は、もし突発的な買い占めが不特定多数の消費者によって行われると、需要予測が一気に困難になる。次にどのくらいの人がどのくらいの頻度でどの程度の量を購入するのか、全く見当がつかなくなる。

そして需要予測が困難になるほど、サプライチェーン全体の発注ブレ(本来の需要との差)が大きくなるため在庫・受注残リスクも大きくなる。

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結果として、ブルウィップ効果がより顕著に発生しやすくなる。小売店はこの二重のリスクの掛け合わせにさらされるようになる。
よって個人的な結論としては、何かのきっかけで消費者が買占めをすると小売店の経営リスクは急激に跳ね上がると考える。
 
(・・・という仮説を立ててみたんだけど、本当に合ってんのかなコレ…)


では最後に、これを解消するにはどうすればいいのか。

もちろん消費者が買占めをしないことがまず挙げられる。

他にもたとえば、小売店の在庫管理がサプライチェーンの中で果たしている機能を、なるべく上流側にオフロードさせることも有効だろう。

あるいは家庭内在庫もサプライチェーンマネジメント(システム)に含める前提で、全体の最適化を図っていくこともできるようになるかもしれない。
例えば家庭内在庫に何がどのくらい蓄えられているのかをリアルタイムで測定できれば、商圏内で何がどのくらい貯蓄されているのか、いつごろにそれが足りなくなりそうか、の予測を立てやすくなるはずだ。

それにはプライバシーなどいろんな制約の壁はあるかもしれないけど、今すでに売られているスマート家電を見ていれば技術的には十分実現可能だろう。

おわり

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