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例えばイチジクを美味しくする

私のレストランでは、四季折々のフルーツを使った季節感のあるデザートを1〜2品メニューに組み込んでいます。いつも考えるのはフルーツの個性を生かし、素材らしさをいかに表現するかということ。手を加えることで美味しくなるものもあれば、手を加えないほうが美味しいもの、さまざまです。素材を見極めそれが最も輝く配慮を施しダイニングへ送り出しています。

そんな手の施しがいのあるフルーツにイチジクが挙げられます。イチジクの味わいは淡白で香りは繊細、生地やクリームと合わせるとどうしても主張が弱く存在が薄い。そのまま食べておいしいフルーツですがデザートにするとなると少し工夫が必要です。そこでイチジクの味わいをグッと引き出すテクニックを紹介したいと思います。

夏のイチジク

イチジクの旬は6月〜10月で、夏前から出回り始めます。秋のイメージが強い人が多いので意外に思われるかもしれません。
一般的に夏のイチジクは甘みが弱く秋になると香りが出て味わいも強くなると言われています。素材を見極めるという観点からそのまま食べておいしい秋イチジクは変に手を加える必要はないでしょう。我々の出る幕ではありません。フレッシュを食べ素材を存分に味わいましょう。
あえて味の弱いとされる夏のイチジクを加工しデザートにしています。

イチジクのコンポート

真空技術を使いイチジクを浅漬けならぬ浅コンポートにしました。
ポイントは2つ。
ポルト酒、オレンジ、スパイスを濃縮したソースをイチジクと共に真空パックします。真空パックすることでイチジクの細胞が開き浸透性が増します。この状態で2時間ほど冷蔵庫へ。コンポートとは言ってもこれを火にかけたりはしません。休ませる2時間も超えてはいけません。ソースが過剰に浸透してしまいます。フレッシュ独特のあの濃厚感を損なうわけにはいかないのです。イチジクのフレッシュ感を残しましょう。
もう一点、皮は処理しないということ。以前は皮を処理してコンポートにしていました。しかし今年気付きがありました。何気なく皮と一緒に食べてみたのです。するとドライイチジクのような深いコクを感じ主張が一気に強くなったのです。やや皮が口に残るのが気になりましたがパックすることで繊維が緩み適度な存在感となりました。これを使わない手はないとすぐに採用しました。

ポルトとエピスのソース

ポルト酒         750G
グラニュー糖       187G
バニラスティック      1本
シナモン             0.5G    ※スパイスは全てパウダーを使用
カルダモン            0.5G  
メース            0.5G
アニス           0.5G
ジンジャー         0.5G
クローブ          0.5G
オレンジ皮(すりおろし)    45G

材料を全て鍋に入れ、総量が半分になるまで火にかけます。濃縮できたら濾して冷やして完成。このソースの仕込み中、ポルト酒が揮発する際のアルコールに酔いしれ、スパイスのエキゾッチックな香りとオレンジの爽やかさ、この上なくリラックスできます。一瞬にして厨房はアロマサロンと化します。
スパイスは好みのモノを使いましょう。全て揃える必要はありません。ただバニラとシナモン、アニスは揃えて下さい。というのもこの3つのスパイスの組み合わせは私の鉄板です。ぶどう、パイナップル、グレープフルーツなど、基本的にフルーツと相性が良くコンポートにする際必ず使っています。

イチジクを横に半割します。(約30g)実の堅いものは絶対に避けて下さい。直径5㎝・高さ1.5㎝のセルクルに押し込みソースを1個3g回しかけます。断面が美しく見えるようにキレイに押し込みましょう。これを真空器にかけてます。フレッシュ感を残しながら程よくソースを浸透させたハイブリッドなコンポートの完成です。

さいの目にカットしヨーグルトと合わせても美味しくいただけます。その他サラダ、生ハム、フロマージュ、カナッペ、料理のアクセントにも使える万能コンポートです。そこへエクストラバージンオリーブオイルをたっぷり回しかけることをお勧めします。

Tarte aux figues, fromage blanc, sucre vergeoise, bière brun
イチジクのタルト フロマージュブラン ベルジョワーズ 黒ビール

今、夏メニューのデザートでイチジクタルトを提供しています。
主役のイチジクをメインにクレメ・ダンジュ、黒ビールのパルフェ、甜菜糖のサブレの組み合わせです。
黒ビールの程よい苦味と深いコク、甜菜糖サブレのホロホロとした食感がデザートのバランスを取っています。クレメ・ダンジュの主な原材料はフロマージュブランと呼ばれるフレッシュチーズ、チーズとイチジクの相性を狙っての採用です。
毎年イチジクのタルトをこのシーズンに提供していますが、今年はなかなか満足のいく出来でした。

過去のnoteで食材の組み合わせ、考え方を紹介しています。参考にしてください。

フルーツは味、香りとさまざまあり、それぞれの風味にあった作り方が求められています。さらに毎年微妙に味も変わる。その変化を感じて食べて調整し、ルセットの分量を設定しています。こうして食材と正面から向き合い一つの味を生み出すことこそ我々職人の醍醐味と言えます。
真空器が家庭で定着しつつある今、設備、環境が整っている人は是非試してください。

ありがとうございました。

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