2024年3月2日(土)

引っ越しでてんやわんや

今年は定期的にブログを書いていこうと考えてたのに、しばらく期間が空いてしまった。余裕がなかった、というのは単なる言い訳かもしれない。でも、思った以上に引っ越しに労力が持っていかれた。同じ大学に通うのは変わらないが、4月からはキャンパスが変わる。それに合わせて早めに引っ越したということだ。5年前、東京にやってきたときは、全ての荷物を両親の車に詰め込んでもらって移動した。その前は寮生活だったので家具・家電はなく、まだ引っ越しは楽なものだったと思う。今回は一人暮らしをしてからの初めての引っ越しだった。業者の手配など山のような手続きがあって、てんやわんやしていた。特に大変だったのが、インターネット回線。オンラインでの会議や発表がある身としては、最も重要なインフラの一つだ。最初にお願いした仲介業者さんは、あまり対応がよくなかった。立ち会い不要と聞いていたが、光コンセントがなかったため結局立ち会い工事が必要だったり、立ち会い工事の希望日がちゃんと伝わっていなかったり。担当者への電話も中々繋がらず、かなりストレスが溜まった。痺れを切らした私は最終的にはその業者さんとの契約をキャンセルし、大手光サービスと再度契約を結んだ。光回線が使える日程が大分遅くなってしまったけど、これでよかったと思う。ストレスの溜まる業者さんをもう相手にはしたくない。引っ越しをする皆さんもインターネット業者には気を付けてほしい。流れで勧められた業者ではなく、ちゃんと自分で選ぼう。

テンソルネットワーク若手の会

私は「テンソルネットワーク若手の会」というDiscordサーバーに参加している。

テンソルネットワークに興味がある若手(?)の人が40人ほど集まっている。あまり活発ではないが、たまに論文や質問を投げると返事をしてくれる人がいる。そのDiscordでは月に1回ぐらいのペースで論文紹介が行われている。(まだ3回しか行われていないけど。)先日もあったのだけれども、参加者がまだまだ少ない。Kさんと2人で最近の気になる論文を紹介し合った。聞くだけでもいいので、もっと参加してくれると議論が盛り上がるのに、と思う。2人でも十分楽しいんだけど。気になる方はぜひDiscordに参加してみてほしい。そして、時間が合えば論文紹介に気軽に顔を出してほしい。

測定誘起相転移の平均場理論

今日は先日の論文紹介で私が取り上げた測定誘起相転移の平均場理論について紹介したい。ちなみに、前の論文紹介で取り扱ったdual-unitary量子回路については以前のブログに書いている。

測定誘起相転移は、2-qubitゲートと射影測定の組み合わせで起こる非自明な動的臨界現象である。基本的にはきれいに並べられたランダムな2-qubitゲートの間に確率$${p}$$で1-qubit上の射影測定を挿入する。臨界測定確率$${p_c}$$が存在して、$${p < p_c}$$のときには初期状態の情報が拡散していき、最終的にエンタングルメント体積則に従う状態に至る。$${p > p_c}$$のときには測定によって情報の拡散が抑えられ、エンタングルメントはあまり大きくならない。$${p = p_c}$$のときには臨界的な振る舞いが見られ、最終的な状態のエンタングルメントはCFTのスケーリングを示す。元々は2018年に以下の論文で、ある種の量子ゼノン効果として提案された。

量子ゲートと射影測定という量子計算の基本要素を単純に組み合わせて起こる非自明な現象ということで、提案論文以降、爆発的に研究されている。ランダムCliffordゲートを用いることで大きな系の数値計算が実行できる、という利点も大きかったのかもしれない。日本人の方もいくつか成果を上げている。

例えば、東大物工渡辺研の大島さんと藤さんの研究。ランダムな2-qubitゲートを$${U(1)}$$対称性を持つものに制限することによって、臨界測定$${p = p_c}$$のときに現れる状態の臨界性が変わり、それが朝永–Luttinger液体のものと一致することを示した。

例えば、東工大の山本さんと理研の濱崎さんの研究。量子回路の代わりに量子開放系のマスター方程式を用いて、多体局在との関連が議論された。

例えば、ドイツEisertグループの鈴木さんの研究。パーコレーション理論を用いることにより、測定誘起相転移と複雑性の対応関係を厳密に証明した。

今回、私が紹介したのは、測定誘起相転移の平均場理論を扱った以下の論文である。

ランダムな2-qubitゲートと強度が調整できる1-qubit上の測定を組み合わせることで2 qubitsから1 qubitへの量子操作を構成する。この量子操作を$${2^k}$$ qubitsに繰り返し適用することで、全結合的な量子回路が現れ、最終的に得られる1 qubitの状態の純粋度によって相転移を捉える。このときの量子回路の構造は、テンソルネットワークで言うところのツリーテンソルネットワークになっている。(私がこの論文を「テンソルネットワーク若手の会」で紹介した理由だ。)この解析手法は、周りの量子回路を等質的なものに置き換えているため、ある種の平均場を用いていると言える。平均場理論を測定誘起相転移に適用するというのは中々思いつけることではない。さらに、秩序変数や臨界指数が厳密に求まったり、ツリーテンソルネットワークが現れたりするのは興味深い。この論文のアイデアは以下の2つの論文で提案されていた平均場理論を拡張させたものらしい。

統計力学では厳密に解ける模型は限られている。そのため、解析計算においてはある種の近似を行う必要がある。平均場理論は最も基本的な近似手段の一つだ。イジング模型においても平均場を用いることで相転移が現れる。ただ、平均場理論が元の模型を全結合的な空間次元が無限大のものに置き換えていることには注意したい。イジング模型は1次元空間においては相転移を示さないし、測定誘起相転移も1次元空間のfree fermionの場合は相転移ではなくクロスオーバーであることが解析的に示されている。

free fermion以外の場合における測定誘起相転移は研究がかなり進んでいるので、ちゃんと相転移になっているはずだ。測定誘起相転移は量子計算の基本的な要素のみを用いて起こるため、量子計算機を用いた実証実験も進んでいる。今後の進展に注目したい。

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