2023年12月29日(金)

2023年の振り返りと2024年の抱負

もう年末である。2023年は色々なことがあった。アカデミアに残る決心をして、ドイツに短期留学して(人生で初めて本州を出た)、英語でセミナー発表をして、博士論文を書いて提出した。今年の目標にしていた博論の提出を達成できたのは本当によかった。提出前の1、2カ月ほどは集中して取り組んでいて何度か心が折れそうになったけど、何とか乗り切ることができた。自分に研究者として最低限の忍耐力が備わっていることが確認できて安心した。もちろん、自分の力だけでなく、ボスの熱心な指導のおかげでもあるんだけど。来月の初めには審査会が控えている。最後まで油断せず気を引き締めて臨みたい。博論はよかったとして、研究成果としては共著の論文が1本出版されただけだった。研究者としてあまり仕事が出来たとは言い難い。来年からの課題だと思っている。

2024年は論文をたくさん出したい。既にいくつか結果があるので、まずはそれらを論文にする作業に取り組むことになるだろう。来年度の新しい職場に移る前にある程度は片づけておきたい。新しい職場では新しい研究に取り組んで成果を出したいと思っている。あと、このブログは細々と継続したいかな。誰かに需要があるとは思っていないけれど、公の場で日記を書き続けることで文章力が上がらないかなとか思っている。来年もそれなりに満足のいく一年にしたい。

dual-unitary量子回路

量子多体系のカオティックなダイナミクスは物性を含めた物理の様々な分野で関心を集めている。しかし、一般には解析的にも数値的にも計算するのが難しいとされている。例えば、エンタングルメントの急激な増大が見られるため、テンソルネットワークを用いた表現は短時間で破綻してしまう。近年では量子ダイナミクスのトイモデルとして量子回路が注目されている。Haar測度に従う2-qubitゲートを並べたランダムユニタリ量子回路は、様々な物理量を解析的に計算できて、PRXなどにいくつも論文が出ている。Pauli行列をPauli行列に変換するという性質を持つCliffordゲートを並べたClifford量子回路は、Gottesman-Knillの定理によって古典計算機で簡単にシミュレーション可能であることが示されており、様々な数値計算に用いられている。

dual-unitary量子回路もそのような"性質のいい"量子回路の一つである。通常、量子ゲートは時間方向のユニタリ性を持つのだが、それに加えて空間方向のユニタリ性を持つdual-unitaryゲートを並べて、dual-unitary量子回路を構成する。この性質によって、初期状態を特別なMPSに選んだ際に、長時間のダイナミクスが簡単に解けてしまう。元々は2018年に量子カオスの典型的な模型である1次元kicked Ising模型の特別な場合として提案された。

kicked Ising模型は最近だと、IBMのチームが量子コンピュータを用いて127サイトのダイナミクスを計算したことでも有名である。

私はdual-unitary量子回路のことを、同期のS君の研究発表を通して知った。その後、S君と議論する際にdual-unitary量子回路についての論文を軽く読み漁った。2018年に提案されたのにもかかわらず、2022年2月当時には既に単純な相関関数からETHの揺らぎまでありとあらゆる量が解析的に計算されているという印象を受けた。しかしながら、直近でも進展があるようなので物理の世界は奥が深い。12月の下旬はdual-unitary量子回路についての論文がarXivに少なくとも3本も上がっていた。

私は1番目と2番目の論文に目を通した。どうやらdual-unitary量子回路は様々な方向に拡張されているようだった。

*2次元系への拡張:ternary unitary

*3つの方向に関するユニタリ性:tri-unitary

*階層的な拡張:一般化dual-unitary

1番目の論文は、tri-unitaryかつ2nd-levelでの一般化dual-unitaryの量子回路を扱って、エンタングルメントのダイナミクスを計算していた。2番目の論文は2nd-levelの一般化dual-unitary量子回路について非自明なものが存在することを議論して、エンタングルメントダイナミクスの粗視化理論であるentanglement membrane theoryの計算を実行していた。非自明な一般化dual-unitary量子回路の存在については、以下の論文でも証明されているらしい。

dual-unitary量子回路についてはまだまだ進展がありそうなので、今後も注目していきたい。

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