パンチライン百科事典 p.29 -Trial ’N Error-
追悼 - MF DOOM
2020年10月31日にMF DOOMがこの世を去ってから早くも2年になります。当パンチライン百科事典では、去年もこの命日に合わせて彼のパンチラインを取り上げたのですが、今年も彼の功績を偲んで私の好きな彼のラインを紹介させて下さい。ただし、今回はMF DOOMとしてではなく、彼の活動の原点に立ち返り、KMDのZev Love Xとしての一言を紹介しようと思います。
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KMD - Trial ’N Error 0:47〜
MF DOOMが「MF DOOM」という名前を冠する前、そしてMF DOOMがマーベルコミックスに登場するDr. Doomからインスパイアされた仮面を付ける前、彼はZev Love Xという名前で素顔を出し、Onyx the Birthstone Kidと弟のDJ Subrocと共にKMDとして活動していました。「黒人であること」をテーマの一つに活動していたKMDの楽曲では、差別に対する風刺的な内容の詞や、先代の黒人アーティストに敬意を表すような詞などが多く見受けられ、Zev Love X(MF DOOM)のペンの鋭さは彼らが精力的に活動していた90年代当時から顕在でした。このラインは恐らくそういった強いメッセージ性を含むものではないとは思うのですが、正に彼が自身のリリシストとしての実力を非凡な詩的表現の中でスピットした粋なラインです。
まず、彼が自身が発する言葉の質感をどのように表現したのか、それが「I speak bold print(太字で喋るんだ)」に表れています。皆さんも、学校で課される課題のレポートを書く際や、仕事の説明資料などを作る際に人の印象に残したい部分を太字にすることが多くあるかと思います(正に私もこの記事の中で同様に太字を多用してますね笑)。彼のラップも同じで、彼の書く歌詞にはその表現の巧みさや内容の鋭さから、一聴するだけで一瞬で耳に付くような太く大きな存在感があるということなのではないでしょうか。そして、彼は続く「like black spraypaint(黒いスプレーペイントのような)」という部分で、その存在感に対する解像度を更に上げます。皆さんはスプレーペイントというものを見たことがあるでしょうか。
写真のように、グラフィティアートに代表されるような、いわゆるスプレー缶で描かれた文字や絵では、その塗料の性質から滲んだり垂れたりすることがよくあります。つまり、この性質をラップに置き換えると、彼がラップをするとき、その言葉に乗った脂や唾が彼の熱量や勢いによって飛び散り、滴り、滲み出ている様子が想像出来るかと思います。それだけ彼のラップはフレッシュだ(活きている)ということなのではないでしょうか。加えて、後のMF DOOMがアメコミ(マーベルコミックス)のキャラクターを模した仮面を着用していることを考えると、
正に漫画内でキャラクターのセリフが吹き出しの中に書かれているように、彼の口から発せられる太字が、具現化しこちらに向かってきているような印象すら覚えます。このラインは聴けば聴くほど、そのニュアンスがどんどんと視覚化されていくマジカルなラインだと私は思っています。
P.S. この前Dr. DoomとAdidasのStan Smithがコラボしていましたね。買った人いますか??
written by じょん
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