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第二の生⑨ 「果物の汁を保管していたけど、それがお酒になるとは思いませんでした。」 と、否認する。酒を作ろうとしたことを認めずにいれば、刑法犯には問われなさそうだ。

同じ部屋にいる人が全員、優遇措置に関係のないどん底期間がしばらく続くことから、懲罰お構い無しでお酒を作ることにした。
以前、独居で甘いものを口にしたかったとき、大根おろしと麦飯を混ぜたものをヤカンで温めて炭水化物を糖質に分解したことがある。和菓子に使う求肥のように甘くなって美味しかったた。こういう科学実験は好きだから、口噛み酒以上のもの作ってみたい。
ご飯を口でくちゃくちゃ噛んだあと吐き出して発酵させるという縄文式口噛み酒の方法がある。それが一番原始的で簡単な酒造方法だろうが、誰かが口から吐いたものは飲みたくないので、別の方法を考えた。
まずは原材料。雑穀の炭水化物よりも純度の高そうな糖質として、桃の缶詰のシロップを使う。発酵の菌種はコッペパンの白くてフワフワの部分を使う。発酵分解されれば二酸化炭素とアルコールとアミノ酸(酸味)になってくれるだろう。コッペパンはアルコールの芳醇な香りがするからうまくいきそうだ。
刑務所では収容者に一人一本、水筒が渡されていた。この水筒はすぐに保温機能が使えなくなる不良品が多かった。七〇〇ミリリットル入る。これを密造酒のボトルにする。

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