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東京都のコロナ陽性率は本当に高いのか

新型コロナウィルスの感染拡大対策として、日本においてもPCR検査をより充実させるべきだという議論は随分以前からある。また、4月に入って東京都で感染者数の急増がみられ、緊急事態宣言もあって、人々の危機感は高まっている。

そのPCR検査において、検査を受けた中のどれだけの割合が陽性と判定されるかを陽性率という。先日、「東京の陽性率40%は危険領域」との報道が世間を騒がせた。

陽性率が東京で40%というのは、厚生労働省による都道府県別一覧表が元になっている。厚生労働省の資料には、東京都が「陽性3,747人、検査人数9,827人、陽性率38.1%」とある。確かに、これが真の姿であれば、相当に深刻な事態だと思う。

ところが、これは統計の計算式が不適切なための誤解なのだ。陽性率38.1% の分母となる「検査人数」からは、医療機関から保険適用で民間検査機関に回った民間検査分が除かれているからだ。

東京都情報サイトにある「検査人数」と「検査件数」の統計をみてみよう。最近までの累積値で、人数が1万人で件数が3万件である。検査人数には、民間検査が入っていない一方、検査件数には入っている。また、検査件数は、一人で何度も検査すれば増える。

民間検査が始まったのは3月6日だ。検査件数と検査人数の比率をみると、3月6日までは検査件数の7割が検査人数となっている。つまり、保健所だけが検査を行っていた時には、保健所の検査の3割は、退院者などへの複数回の検査のために利用されていたことになる。民間検査はそういう目的では利用されないと考えられるので、検査件数を、保健所を利用した検査人数(a)、その3/7を重複検査(b)、残りの検査件数が民間検査(c)だと考えることにしよう。このように検査件数を分類したときに、実際にコロナ感染を疑ってPCR検査を受けた人数は、a+cとなる。

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感染者数(d)に対し、陽性率を保健所の検査人数のみで計算すると、d/aであり、これが厚生労働省の資料の計算式だ。しかし、分子の感染者数には民間検査で検知されたものも含んでいるので、これだと分子分母のベースが合わない。

陽性率をd/(a+c)で計算すると、直近で17%と、約半分になる。実態はこちらに近いだろう。

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当初、統計を見ていた時は、人数が1万人で件数が3万件だから、一人平均3回も検査するのか、と思っていた。しかし、検査能力の不足が指摘される中、そんな贅沢な使い方はしていないだろう。やはり、検査人数と検査件数との差は民間検査が中心だと考えられる。だとすれば、検査人数を利用して計算した東京の陽性率だけ異様に高いことの理由が説明できる。

本当は、こうした誤解を生む数値を厚生労働省が公表するべきではなかった。また、原データを持っているはずの東京都がこうした計算を公表してくれれば、誤解を生まなかったのにと思う。

とはいえ、陽性率が17%だったとしても、それで安心はできない。感染者をしっかり検知するために、もっとPCR検査を充実させるべきであることは事実だろう。しかし、感染者の検知数が低下しつつある東京が、ニューヨーク以上の陽性率だという指摘は、統計の計算式が適切でなかったことによる誤解だと思われる。