映画「朝が来る」を見て
重い。
ただただ重い。
物語は赤ちゃんの産声から始まる。
概要
子供を授かることができなかった夫婦と、中学生で望まない妊娠をしたひかりを繋いだ特別養子縁組。
特別養子縁組で朝斗を迎え幸せな生活を送る夫婦にかかってきた一本の電話…。
「子供を返してください」
この物語は双方のリアルが描かれていた。
不妊治療の末一度は子供を諦めた夫婦
井浦新と永作博美が演じる夫婦は不妊治療の末、一度は子供を持つことを諦める。
札幌まで通い治療に励むが、ある日の飛行機が欠航、その時に永作博美演じる左都子が「もうやめよう?」と…。
その言葉に夫の清和の感情が決壊する演技は見ていて胸がギュッと痛くなるほどだった。
その後旅先の旅館でかけたテレビにたまたま映った特別養子縁組の特集をきっかけに、夫婦は養子を迎え入れる決意をする。
不妊治療の苦しさや夫婦間の葛藤を表現するリアルな演技力に引き込まれる。
特別養子縁組
「あなた達に育ててもらいたい赤ちゃんが産まれましたよ。」
と電話で知らせを受け喜ぶ左都子。
我が子との対面に感極まるその時、
「産みのお母さんに会っていかれますか?」
と聞かれる。
少しの間を置いて「会わせてください。」と答える夫婦。
産みの母親、蒔田彩珠演じる片倉ひかりはまだ中学生だった。
望まない妊娠の上、特別養子縁組斡旋団体である「ベビーバトン」にきたのだ。
深く頭を下げ、1通の手紙を左都子に託し、泣きながら「お願いします」「ごめんなさい」と繰り返す姿は見てるこちらも苦しくなる。
まだ中学生、
だけどお腹で育ててきた我が子と離れるこの子の気持ちは一体どんなものなのだろう。
ひかりの視点
途中まで夫婦の視点で物語が進んできたが、ある時から産みの母親であるひかりの視点へと切り替わる。
ひかりはどこにでもいる普通の中学生だった。
親との関係はあまり良くないが、普通に学校生活を送り、普通に恋愛をし、だが妊娠してしまったのだ。
気付いた時にはもう遅かった。
泣き喚く母親。
世間体を気にする両親にひかりの気持ちを聞かれることはなく、病気で学校を休むことにするから遠く広島の地へ行き子供を産み養子に出しなさいと言われてしまう。
あんなに大好きだった彼氏にも、謝られ突き放されてしまう。
中学生はあまりにも無力だった。
船に乗り向かった先ではひかりと同じように出産後養子へ出すことが決まっている妊婦さんが共同生活を送っていた。
理由は様々だった。
大きなお腹でひかりが夕日のかかる海を見つめ「一緒に見たこと忘れないよ。」と言うシーンが印象的だった。
そして出産を終え、赤ちゃんを養子に出したあとのひかりの生活は苦しいものだった。
受験勉強にも身が入らず親ともうまくいかない。
実家を出たい一心で仕事に励むが思うように人生は進まない。
出会った友人に裏切られ、借金を背負わされたり、満たされない日々を送る。
この映画で私が1番印象に残ったシーンがある。
髪を染め、私服で生きる気力を無くしたひかりがガードレールか何かに腰掛けているそばを、赤ちゃんの父親である彼が高校の制服に身を包み過ぎ去るシーンだ。
中学生で妊娠し、何もかも失ったひかりと対照的に彼は何も失うことなく順調に人生を歩んでいるのだ。
これがリアルだろう。
そしてひかりはついに自分が産んだ赤ちゃんの養子縁組先である夫婦に電話をしてしまう。
「子供返してください」
「それがダメならお金ください」と…。
夫婦とひかりの対面
衝撃の電話を受け取った左都子は一度会って話しましょう。と受話器を置く。
その後ひかりが夫婦の自宅を訪ねる。
変わり果てたひかりの姿に夫婦は
「あなたは誰ですか?」
と問う。
自分の言う通りにしないなら朝斗や朝斗の周り、学校にも全てバラすというひかりに対して、
夫婦は朝斗に、自分達以外に朝斗を産んでくれたお母さんがいると教えてきた。
朝斗はひかりのことを「広島のお母ちゃん」と呼んでいる。
広島のお母ちゃんは自分の産んだ子供の年齢を間違うような人ではない。
朝斗は学校ではなく幼稚園です。
お引き取りください、と…。
正直なところ私の脳では、あと4回くらい観ないとこの部分の本意がわからなかった。
何を伝えようとしているのか、物語の真意は何なのか、わかっていない。
一つ言えるのは、全てがリアルであり、全てが重いということ。
この映画を見て受け取るものはそれぞれ違うのかもしれない。
不妊治療
特別養子縁組
中学生の妊娠
そしてその後
全てがそれぞれ一つの映画を作れそうな言葉だが、それらが全てこの一本にリアルに凝縮されていた。
あまりにも重い内容に、見た後は何とも言い難い気持ちになる。
だが現実にあり得なくはない、寧ろ現実のあちこちで起きていることだと思われるこの映画を見て良かったと思う。
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