田端信太郎はオワコンか
2月1日、故あってオンラインサロン田端大学に入塾しました。
元々田端さんとは何回かお会いしていたのですが、元々の私の認識は「超イケイケなメディア野郎」といったものでした。
企業に雇われたサラリーマンでありながら、顔出し実名で炎上も気にせず痛快にツイートする様子を小気味よく思っていた覚えがあります。
が、2019年12月13日、田端さんご本人のTwitterに下記が投稿されました。
まさかのサラリーマン辞める宣言!
当然、次のような指摘が入ります。
著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』や『これからの会社員の教科書』はサラリーマンが出したからこそ、部外者の批評家の発言ではなし得ない説得力があったと言えます。
サラリーマンを辞めたら、田端さんの発言は全て「おっさんの昔の武勇伝」になりかねません。
ここで、一度田端さんの経歴についておさらいしておきます。
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」の立ち上げや、広告営業の責任者を務める。2005年、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後は執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。2018年3月から株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長。
(引用:田端大学)
そうそうたる企業の名前が並んでいます。
なぜ田端さんはサラリーマンを辞めることにしたか。
サラリーマンを辞めることで、田端さんのブランドは虚像と成り果てるのか。
こちら2点について、本人のインタビュー記事やTwitterを元に考えていきます。
1 退職理由と次の仕事
こちらに関しては、日経XTRENDのインタビューが最も詳しく載っていました。
元記事から要約していきます。
・ZホールディングスによるZOZOの買収と前澤友作さんの退任がきっかけで退職を決意した。
・広告ビジネスのノウハウはあっても、転職してもう一度やることはドラマの再放送と同じ。やる意味がなく、戻りたいとは思わない。
ZOZOへの貢献という観点では、自身で「ダメだった」と評価を下しています。
一方で前澤さんのフォロワー増加目標についてはKPIの達成はできたそうです。
得意分野である広告ビジネスに行かず、では次に何にトライするのかと言うとーー
このツイートの通り、田端さんは現在Youtuberとしてビジネス系の動画を続々とアップロードしています。
「ZOZOに追い出されてヤケを起こした」と言う意見もちらほらありますが、そちらについては書籍の出版タイミングを根拠として否定できます。
一般的に本の出版にかかる期間が3ヶ月と言われていることからも、退職を見計ってあらかじめネタを仕込んでいたのは明らかですね。
田端さんが動画ビジネスに乗り出した理由については、シンプルに「動画ビジネスの波に乗るため」でしょう。
動画ビジネスの可能性については、様々な方が考察されている通りです。
触りだけ書くと、以前は通信コストがネックとなって動画コンテンツの視聴は一定の水準で留まっていました。
が、5Gを待たずに大手キャリアで近年大幅な「ギガ」の増量がなされ、小型デバイスでの動画視聴コストが劇的に小さくなります。
結果、現在では動画コンテンツの需要は爆発的に増大することになりました。
この「需要の価格弾力性」に関する話は『これからの会社員の教科書』(57節)でも触れられています。
加えて、田端さんは度々個人の持つ影響力を「資本」だと形容しています。
元々Twitterで個人のブランディングを行っていた田端さんが、次の主なプラットフォームとなる動画ビジネスに取り組むのは至極当然の流れに見えます。
ちなみに、田端大学3代目MVPの小島悠仁さんも17LIVEでライバー活動しています。
サラリーマン時代から田端大学を運営されていましたが、塾生の方が全員サラリーマンと言うわけではありません。
むしろ個人のブランディングを目的としているため、このように既存の枠にはなかった職業の方も在籍しています。
2 ブランドは損壊したか
田端さんの動向をまとめたところで、最初に触れた「ブランドの損壊」「言動の不一致」について考えます。
ここに切り込む上で、まず、田端さんの書籍の内容について触れておきます。
まず『ブランド人になれ!』
こちらはマンガ版の「はじめに」で次のように「ブランド人」が定義されています。
「ブランド人」とは、たとえ組織の人間であっても、会社の名前ではなく自分の名前で勝負する者のことを言う。
「たとえ組織の人間であっても」と書かれている通り、そもそも個人の名前で勝負できる人間なら「ブランド人」であると言えます。会社を辞めたあとも20万人以上のフォロワーを保持し、影響力の衰えはないと見て差し支えないでしょう。
であれば、こちらに含まれている内容に関しては、言動は一致していて、かつブランドを損壊することもないと判断して問題ないでしょう。
では、『これからの会社員の教科書』についてはどうでしょうか。
本人がTwitterで「会社員の卒論と思って書きました」と発言しているように、これまでのサラリーマン人生の総決算と位置付けられます。
では、ブランディングが損壊するかどうかは、どの点を考慮すればいいのか。
今回は、”書籍の内容が有効性を失った時”と定義してみます。
田端さんがサラリーマンであったが故にできたブランディングの根っこは次の2点です。
・理論ではなく、実践に基づいている。
・現役のサラリーマンの話であり、情報の摩耗がない。
たとえば、経済学の教授が同様の発言をしたとしても、同程度の信頼を得ることは難しいでしょう。
いくら発言に妥当性・権威性があっても、ビジネスにおける実績が欠けるからです。
さて、それを踏まえた上で、この教科書の内容が有効性を失うかどうかですが、個人的な意見では「向こう10年は色あせない」と考えます。
と言うのも、いわゆる必殺技のような内容は含まれていないからです。
誤解を恐れずに言えば、どの会社でもよく言われるありふれた内容ともとれます。
汎用的な内容であるため、そう簡単に通じなくなると言うことはありません。
この書籍の最も価値のある点は、これまで肌感覚でしか教えない内容を全て文章で書き記したことにあります。
どの会社でも当たり前に言われるからこそ、逆にマニュアル化されることがなかったはずです。
本来何年もかけて覚える内容が1冊の書籍の凝縮されているため、これさえ読んでおけば、会社での立ち振る舞いをしくじることはめっきり減るでしょう。
以上、それぞれの書籍の内容を鑑みると、次のように判断できます。
・ブランドの損壊/言動不一致か
「ブランド人」として定義される行動に則っているため、ブランドは損壊せず筋は通っている。
・発言の「おっさんの武勇伝」化
書籍の内容が有効である限り、妥当性は失われず「武勇伝」化しない。
終わりに
『これからの会社員の教科書』について、Amazonoレビューの中で次のように書かれてるものがありました。
書いてあることが日本の会社で特に必要な技巧であることは同意する。
ただ、それらは何の専門性もない、なんちゃってジェネラリスト社員を量産して世界との競争力を失った日本の元凶ではないか。
こちらの指摘については、書籍の内容が日本の「おっさん」文化を前提としている為、否定できないものです。
が、『ブランド人になれ!』と合わせて考えると、そういった「おっさん」文化をどのように乗り越えて来たのか道筋が見えてきます。
ただ迎合するだけでは使い潰されるままでも、個人として影響力を持つことでその壁を乗り越えることができる。そのように解釈ができます。
何より田端さん本人は、自身が「おっさん」にならないようにしつつ、その上でおっさんになっていく自分を認識しています。
だからこそ、常に新しい戦場を求め、若い世代に何ができるかを考えているのかもしれません。
これを読んで田端さんのことが気になった人はぜひ、翌月1日枠が空くのをお待ちください。
ハイアウトプッターがしのぎを削る魔境が、あなたをお待ちしています。
余談ですが、上記2冊の前に田端さんは『MEDIA MAKERS』という本を執筆しています。
そちらについては残念ながら未読のため、入手したのちに読んでみます。
参考記事