原発ジプシー

女川原発の下請け業者の作業員達が、よく健康診断に来る。それは当院にとって一つの安定した収入源になっているのだが、気の重い仕事でもある。例え心筋梗塞を見つけても、たばこによる慢性閉塞性肺疾患(COPD)を疑っても、「医師の意見」には「就労可能」と書かなければならない。他に書いてはならない。もし何か書けば、その人はクビになる。



要するに原発の下請け業者は、健診を受けさせてその人を病院に掛からせよう、職務で配慮しようとしているわけではなく、「不良品」を排除するための健診なのだ。なにか異常を認めると書けば、即クビである。原発の作業員というのは皆特殊技能の持ち主だが、特殊すぎて他でつぶしが利きにくい。原発でしか働けないという人も多い。クビにされたら終わりなのだ。



しかし原発で働く作業員というのは、ほぼ全て男性で、各地の原発を渡り歩く人が多い。当然生活習慣は乱れがちだ。いやそもそも彼らは典型的な職人気質で、「今日が食えればそれでいい」のだ。だから心筋梗塞が見つかろうが、COPDが見つかろうが、そんなことは気にしない。「いいから就労可能と書いてくれ」と言ってくる。「診断書にはそう書くけど、あなたの心臓のことなんだから必ず循環器科に行けよ」とか、「このままたばこ40本毎日吸っていたら10年後には酸素吸ってないと一歩も歩けなくなるよ」とか言っても、馬耳東風である。先のことなんか考えてない。そういう気質だからああ言う職場で働けるのか、ああ言う職場を転々としているといやでもそういう気質になるのか、そこは分からないが。



まあ、金を儲けるというのはきれい事では済まないのだが、どうもいやな仕事だ。


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