ゆずアリーナツアー2022「SEES ALWAYS with You」オーラスatマリンメッセ福岡A館(2022.8.18)



春から始まったアリーナツアー「PEOPLE」の追加公演、「SEES」。そのオーラスが最初で最後の参戦。
なけなしの語彙ではあるが、あの時、あの場所で体感した「ナニカ」の正体を詳にしたい。
リーダー、サブリーダーの挙動その他は他の方々にお譲りして、ここでは考察めいた感想を書いてみたいと思う。

1.君を想う

今回のライブにおいて、間違いなく基軸となっているのは、この曲である。通常ならば、中盤に位置していてもおかしくない、いわばメイン曲だ。その曲を最初にぶつけてきた彼らからの、最大級の愛を感じないファンがどこに居ようか。
「もう翼なんていらないここに居るよ」という最大級の愛を証明するメッセージ。実は、CDで聞いた時はそれほど強く感じなかった。しかし、いざライブに参戦して、その考えが180°転換した。今なら確証を持って言える。このメッセージの宛先は、我々ファンであることに間違いはないだろう。

2.ストーリー

まさかここでくるとは思わなかった。この曲が、ゆずと我々の「ストーリー」に化けていた。
この曲は、言わばコロナ禍から「日常」への架橋となる曲だと感じた。だから2曲目なのだ。1曲目の「君を想う」はコロナ禍で日常が停止してしまった中での曲であり、しかしそこからまたやっと日常が動き始めているという現実がある。これは二重文脈でもある。動き出した日常と、また動き出したゆずと我々の活動と。双方ともに、「まだ旅の途中」なのだ。「躓いた日々」はこのライブにおいては、コロナ禍での物語あり、制限の中で活動を続けてきたゆずの物語でもある。そして、「いつか笑い合えるその時」は、今、だし、「君とともに」は言わずもがなである。
そして「誰のものでもない僕らが描くストーリー」という歌詞で締め括られることから分かるように、この曲の芯は、決してエールではない。頑張れ、ではなく、むしろ混迷極まる見通しの立ちにくい未来へ、「ともに行こう」と白紙の未来を示してくれる、そんな曲だったと感じた。

3.ゆめまぼろし

「ストーリー」が北川曲における日常への架橋ならば、この曲は岩沢曲におけるそれであると考える。
本曲については「LAND」も交えて後述したい。

4.イセザキ

ギターとサブリーダーの歌声から始まって、リーダーの歌声が加わり、シンプルでとても良い演出。
「花売りの兄さんと姉さんステーキ屋のマスター」がとてつもなく切なく歌われてたのに泣きそうになった。アルバムの中の、1枚の写真のような、そんな曲だった。
そのライブでしか歌われない歌がある。たとえば「ゆめまぼろし」、「イセザキ」なんかは、きっとこのツアーでしか聴けないと思う。他の曲と親和性、汎用性が低いから、このセットリストのなかでだけ存在できるのではないか。

5.AOZORA

この曲は、ラストのコーラスに参加したかったと強く思った曲。前半を支える位置に据えられている。この曲があることによって、前半のストーリー性の強い曲から中盤に向かっていくルートガイド的な役割の曲ではないだろうか。

6.アゲイン

個人的にはかなりライブで聴きたかった曲なので、ここでやってもらえて、とても嬉しかった。
前の5曲のストーリー性と、「AOZORA」からのリズムを承けて、そこにエール的な要素をプラスした曲。エールと言っても、「アゲイン2」のような型のエールではない。
「アゲイン2」と「アゲイン」の違いは、前者は受け止める型のエールソングであるのに対し、後者はともに進もう型のエールソングであるというところにある。些細な違いであるが、詳細は歌詞を見比べてみて頂きたい。だから、このライブを貫いているストーリーである「ともに歩む」ということに矛盾しないのである。
もしここにくるものが仮に「アゲイン2」であれば、このライブの芯は破綻してしまうことになる。実に巧妙に考え込まれたセットリストであることがよく分かる。

7.タッタ

この曲もまたエールソングであるが、アゲイン型のエールソングであり、「アゲイン2」型の曲ではない。そしてこのライブにおいては、盛り上げ曲であり、ライブの主題を逸脱しない絶妙な曲である。

8.明日の君と

意外なことに、本ライブにおける唯一のバラード曲である。こんなにバラードの少ないライブはなかなかないのではないだろうか。
正直、CD音源の段階ではそれほど刺さらなかった。しかし、この曲の持つ「不安感」にどこか共感を覚えた。

9.あの手この手

ハンドくんによるじゃんけん大会。
楽しかった(笑

10.栄光の架橋→ゴールテープ→栄光の架橋

ドラム、ベース、エレキがゴリゴリな、大変ロックな栄光の架橋だった。おそらくは荒削り感を意図的に残しつつ、しかし極めて洗練されたバンドアレンジ。予習スペースでN氏とK氏が示唆していた通りに、「まだ国民的ではない頃」の栄光の架橋だった。あぁ、これは再び「ゆず」の手に返ってきて、それをゆずが我々に向かって投げかけてくれているのだと直覚し、泣いてしまった。
間に「ゴールテープ」が挟まれることによって、より鮮明な「栄光の架橋」になっていると感じているのは、きっとわたしだけではないはずだ。
「ゴールテープ」と「栄光の架橋」。おそらく、この両者は「エールソング」と位置付けられ、時には一括りにされるだろう。だが、本ライブにおいては、その位置付けがまったく異なると考える。
ロックなバンドアレンジの「栄光の架橋」の中に組み込まれた「ゴールテープ」。「国民的」なものとしての「栄光の架橋」、「ゴールテープ」とは、火力もベクトルも違うのだと感じた。火力が高いことはもちろん、そのベクトルは内に向かうのではなく、明らかに外に向いている。しかし、「無数にいる誰か」ではなく、そのベクトルの指す方向はきちんと宛先が存在するのである。だからこそあんなにも胸打たれる熱量を伴った曲へと変貌していたのだ。

11.奇々怪界

奇々怪界というよりは、まさに阿鼻叫喚。
換気明けの心臓に悪かった。しかしながら、よくぞセトリに残ってくれた。ありがたい。バンドがこれでもかというぐらいにせめぎ合いを繰り返し、奇々怪界。大変よいと感じた。
間奏の、リーダーとのドラムバトルでさらに奇々怪界へ。音と音がこれでもかというほど混ざり合い、混迷極まる奇々怪界。好きである。

12.LAND

唐突に感じたが、時勢にこれほど合うように変化する曲があるのか、という感想を持った。
LANDはメッセージ性が強いがゆえに、『LAND』という世界観の立ち上がったコンセプトアルバムの中でのみ成立する曲だと思っていたのだが、このライブの中でも恐ろしいくらいに馴染んでいる。抜きん出るでもなく、埋没するでもなく、ちょうどいい温度感で存在しているのに驚いた。
ここにLANDを持ってきた意図について、考えたい。
「LAND」の「ぬかるんだ道だって何度でも強く歩き出してやる勝手に決めんな全てのEND」と「ゆめまぼろし」の「決めつけられた偽りのゴール」には似たものを感じた。前者は時勢に対する決意と受けとることができ、後者もまた「行き先は自分で決める」という決意の言である。そう考えれば、このセットリストにまた一本筋が通るのだ。何度も繰り返すが、「ストーリー」からはじまり、「ゆめまぼろし」、「AOZORA」、「アゲイン」そして後述する「夢の地図」、「センチメンタル」、「T.W.L」と、「ともに進もう」という一本の芯が通っていると考えることが出来る。

13.夢の地図

これも「ストーリー」、「アゲイン」とともにこのライブの基軸を担う曲だと感じた。
「あの日描いた夢の地図」はもうない。けれど、「もっと素敵な夢を君と描けばいい」。
この曲も「LAND」と同じく、時勢に流されずに化けた曲であることは間違いない。

14.NATSUMONOGATARI→桜木町→NATSUMONOGATARI

発表当初は「NATSUMONOGATARI」に「桜木町」が呑まれてしまったと感じていたが、ここで見事にひっくり返された。「NATSUMONOGATARI」が「桜木町」と調和したように感じた。もはや「桜木町」のアフターソングではない。

15.センチメンタル

23年前の、同日発売のこの曲。
ライブも終盤にして、この曲の存在は大きい。この曲もまた、ともに進もうと語りかけてくるように感じた。
「はぐれた心の欠片を拾い集めて」とは、時勢により散り散りになってしまった人々(=スタッフさんや我々のことかもしれない)をもう1度結束させる強いワードであるし、そう思う願いに似たものなのかもしれない。

16.T.W.L

終盤も終盤、この曲を組み込んだゆず、恐るべしである。
しかし、「夢の地図」までのストーリー性のもう一歩先の「未来へ進もうよ」というメッセージをも感じた。

17.夏色

何回「もう1回」をやったのだろうか。記憶に残っているのでは、おそらく5回ほどやった気がする。「もう1回」を重ねる度にバンドがこれでもかと暴れ出して、テンポも速くなり、「歌えねぇ」とサブリーダーが言っていた。それはもう本当に楽しかった。

18.RAKUEN

この曲は予習をしておいてよかったと心の底から思った。行きの新幹線の中で延々とMVでフリを予習していた。おかげで寸分の狂い無く、カチッと反応できたので、ご助言くださったN氏とK氏に心から御礼申し上げる。
これまた楽しかった。

19.Always→with you→Always

最高の締め括りだった。「Always」が始まったのかと思いきや、「with you」へと移行。そして再び「Always」に還ってゆく。
今回のライブは組曲になる曲が多かった。
→NATSUMONOGATARIと桜木町
→ゴールテープと栄光の架橋
→Alwaysとwith you
この、曲の曲との融合という新しい武器は、ゆずが25年やってきて手にした、まさに「ニュースタンダードなゆず」の片鱗ではないだろうか。
「Always」と「with you」という曲名が語る通り、ゆずは常に我々ファンとともに在り続ける、というメッセージだと思った。

20.ツアーお疲れ様の唄

「BIG YELL」ツアーの、大阪城ホール以来に聴くことが出来たこの曲。あぁ、もうこれで終わるんだ、しばらく会えないんだな、と感慨に浸りながら、けれど無事に完走おめでとうございます、という思いも抱いて聴いていた。2人の歌声と、アコギの音色が心地よかった。

まとめ

唐突ではあるが、ロラン・バルトの「作者の死」を知っているだろうか。「作品は完成した瞬間から作者の手元を離れ、読者のものになる(=自由な解釈、様々な解釈があるべきだ、とする考え方)」というものである。この考え方は、音楽にもあてはまると考える。
今回のライブに参戦して感じたことは、「聴き手が曲を育て、創り手が再構築する」という過程を経て、曲の文脈が変わるのだということだ。詳しくは上述したが、曲が化ける瞬間に出会えて幸いに思う。

そして、ツアーが始まる前に考えていたことがある。

この伏線の先には、「希望」があった。


最後に。私見であるが、このツアーの主題は、「日常への架橋」であり、「ともに進もう」というところにあると考える。これまでに見てきたこのセットリストがなによりの証左である。
あのライブに立ち会った1人のファンとして、彼らの愛を、素直に受け止めたい。

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