1対1にこだわる。どんな相手も跳ね返す。DF遠藤凌【Voice】
昨シーズン途中、アルビレックス新潟から期限付き移籍で加入。J3優勝とJ2昇格を支えた立役者であり、今季はセットプレーから2得点を挙げてチームの躍進を支えるDF陣のリーダー・遠藤凌選手にお話をうかがいます。
■感じていたのは「1勝することの難しさ」。
5月17日の水曜日に行われた、2023明治安田生命J2リーグ第16節・大宮アルディージャ戦。今季初めてホームでのナイター開催となったこの試合は、1対1の同点で後半に突入。迎えた後半14分のことでした。
敵陣でFKを得たいわきFC。キッカーの山下優人選手が蹴ったボールは、大宮ゴールに向かって大きな弧を描いで飛んでいきました。これに頭で合わせたのが遠藤凌選手。183㎝の長身で、セットプレーのターゲットでもあるDFリーダーがヘディングしたボールは見事、ゴール右隅に吸い込まれていきました。
連敗中だったチームを救う決勝点。そして、自身にとってはJ2初ゴール。遠藤選手は得点シーンを振り返り、落ち着いた表情でこう語ってくれました。
「実はぜんぜん覚えていないんです(笑)。いいボールが来て、飛び込んでギリギリ触れた感じだったと思います。ゴールを決めたい気持ちはずっとありました。今シーズンはセットプレーで何度かチャンスがあったのにダメで、やっと取れてホッとしました。どうにか役目を果たせましたね」
この決勝ゴールでアシストを記録した山下優人キャプテンは「遠藤サマサマでした(笑)」と語ります。守備の中心選手として奮闘する遠藤選手は昨シーズン途中、アルビレックス新潟から育成型期限付き移籍で加入。今季は副キャプテンとして、チームを支えています。
そんな遠藤選手の決勝ゴールでいわきFCは6試合ぶりに勝利。長い連敗のトンネルを脱け出すことができました。
「1勝することの難しさを感じていました。だからこそ、今日は本当にうれしい。連敗している中でも前向きにサポートしてくれたファンの方々に感謝したいです」
第11節の栃木SC戦から始まり、第15節のブラウブリッツ秋田戦までチームは5連敗。栃木戦では鼻を負傷するも、フェイスガードを付けてプレーを継続。しかし、なかなか結果が出ず、大きな責任を感じていました。
第13節のヴァンフォーレ甲府戦の前半31分、遠藤選手は甲府FWピーター・ウタカ選手との競り合いで、微妙な判定ながらもレッドカードをもらってしまいます。遠藤選手の退場で10人での戦いを強いられたいわきは、間もなく甲府に失点。0対1で敗れてしまいました。J3にはめったにいないパワフルで駆け引きの上手い外国人選手とのマッチアップは、遠藤選手の課題をあぶり出す結果となりました。
さらに4日後の清水エスパルス戦では、遠藤選手を出場停止で欠いた守備が崩壊。ディフェンスの要が不在の中、ラインコントロールのミスから失点を重ね、いわきFCは1対9の大敗を喫してしまいました。
「連敗中の出場停止でチームに迷惑をかけてしまいました。J3とJ2では、FWの能力がまったく違うことを痛感させられました。課題は多いですね。
でも、やれることもたくさんある。相手FWとのバトルで自分が跳ね返せれば、チームはもっと前に行ける。そして、自分の成長は必ずチームの勝利に結びつく。そう信じて、1対1の戦いにこだわっていきます」
その後、チームは遠藤選手の決勝ゴールで大宮に勝利し、連敗を脱出。前向きなムードを取り戻していきます。翌週の第17節の相手は、J1から降格してきたジュビロ磐田。3連勝中の強敵を相手に、遠藤選手はまたしてもやってのけました。
後半までスコアレスが続く一進一退の展開から、80分に磐田が先制。迎えた89分のことでした。いわきFCは右CKを得ると、キッカー山下選手が左足でニアサイドへ。このボールに遠藤選手が頭で合わせ、試合終了間際の劇的な同点ゴール。
「いいボールが来たので、そらすだけでした。2試合連続のゴールでしたが、勝ち切りたかったのが本音。だから、次です。追いついての勝ち点1ですが、この1を今後にどうつなげるかは自分達次第。次節は絶対に勝ちたいです」
好調・磐田の勢いを止める値千金のゴール。まさに土壇場で拾った勝ち点1でした。しかし遠藤選手は冷静にそう語り、表情を引き締めます。
そんな彼のこれまでとこれからについて、話を聞いていきましょう。
■たび重なる挫折から再起し、プロ入り。
遠藤選手は1998年生まれ。チームではDF嵯峨理久選手、FW吉澤柊選手、MF宮本英治選手、DF黒宮渉選手と同い年です。出身は埼玉県。3歳上のお兄さんの影響で幼稚園のころ、地元のクラブでサッカーを始めました。
「兄について行き、一緒に始めました。最初のころは点を取りたくて、FWでプレーしていました。ボールを扱うことは得意でしたね。CBでプレーするようになったのは中学生の時。ボランチだったのですが、監督からやってみないかと言われ、コンバートされました。当時から身長が大きくて、背がどんどん伸びていたこともあったと思います。もともとFWや中盤をやっていたので、後ろから組み立てていくのは得意でした」
そして高校に入学するとともに、子供のころからファンだった浦和レッズのユースに加入。3年間プレーし、プロサッカー選手という夢を現実へと近づけていきます。
「小学校のころから、家族でよく埼玉スタジアムへレッズの応援に行っていたんです。だから、うれしかったですね。でも、僕の代はジュニアユースで全国優勝していて、そこに加わっていくのは大変。ついていくだけで精いっぱいでしたが、多くのことを学び、今のプレースタイルの基礎が作られたと思います」
浦和ユースを経て、桐蔭横浜大学へ進学。同学年には鳥海芳樹選手(現・ヴァンフォーレ甲府)や橘田健人選手(現・川崎フロンターレ)らがいました。1年生の時はインディペンデンスリーグ、2年生では桐蔭横浜大の社会人チーム「TUY」でプレー。この間、トップチームでの出場機会は遠いままでした。
「レベルが高かったです。同学年で1年からトップチーム入りする選手もいる中、自分は一番下からのスタート。悔しさと『本当にやっていけるのか』という不安もありました。実際、同じ環境には腐ってしまう選手もいましたね。
課題はフィジカルの弱さ。入学したころは今よりもっと細く体重も軽かったので、練習や授業の合間に自主的に筋トレに取り組みました。結局、大学はすべてが自分次第。活躍するも腐っていくも、自分がどう考え、どう行動するかで決まる。それを実感しました」
2年生でプレーしたTUYでは、関東サッカーリーグ2部優勝に貢献。このころから地道な体作りの成果が出始め、社会人リーグ終了後にトップチーム昇格。3年生から本格的にトップチームで試合に出場するようになりました。そしてこの年、桐蔭横浜大学サッカー部は関東大学サッカーリーグ戦1部で2位に入り、初出場したインカレで準優勝を果たします。
4年になり、遠藤選手はキャプテンに選出。同学年には下級生から試合で活躍していた選手も多く、桐蔭横浜大はさらなる躍進を期待されていました。しかし、チームはコロナ禍により、春先の活動を自粛。その影響もあり、チームはリーグ戦や全国大会で満足のいく成績を残せませんでした。個人としてもJクラブにアピールする機会を満足に得られず、キャプテンとしてチームを牽引した1年は、不完全燃焼の結果に。しかし、そんな遠藤選手にアルビレックス新潟からオファーが届きます。
「自分はこの先、いったいどうなっていくんだろう、という不安を感じた半年余りでした。新潟からオファーが来たのは10月の終わりごろ。練習参加もしておらず、急だったので驚きましたね。決まったのは確か11月。ギリギリのタイミングでした」
期待されていたチームを目標に導けなかった悔しさを胸に、遠藤選手は新天地・新潟でプロとしての第一歩を踏み出しました。
■チームにすぐさま適応。J3優勝&J2昇格の立役者に。
しかし新潟で、遠藤選手はまたしても壁に突き当たってしまいます。なかなか試合に出られず、苦しい日々が続きました。
「技術もフィジカルも、大学時代とはまったく違いました。新潟のCBの方々と比べると、自分には足りないものだらけだとわかりました」
Jリーグ初出場は、2021年11月13日のJ2第39節・愛媛FC戦。2点をリードしている状況の終盤、守備固めで入りました。しかし、この年の試合出場はこの1試合のみ。そして、捲土重来を期して臨んだ2022年も、天皇杯1試合のみの出場で半年が過ぎていきました。
一方、J3で戦ういわきFCは快進撃を続けていました。CBの新戦力を探していたいわきFCは、遠藤選手を急遽、育成型期限付き移籍で迎え入れることになります。
「新潟でゲームに絡めず、悔しい気持ちでいっぱいでした。この世界にいる以上、試合に出ないとまったく評価されない。J3というカテゴリーは関係なく、とにかく試合経験を積みたいと思っていた。だから、うれしかったですね。
大学3年のころ、いわきFCの練習に一度参加した経験があるんです。全員フィジカルが強く、攻撃的ないいサッカーをしている印象があり、移籍への抵抗はまったくなかったです。
新潟はDFからボールを保持して攻めるスタイルですが、いわきFCは速く敵陣に入って攻撃することを重視しています。プレースタイルはまるで違いますが、大事なのはチームの要求に徹すること。もしもプレースタイルが逆だったら適応に時間がかかったと思いますが、自分が考え方を変えればよかったので、割り切れました」
移籍発表からすぐに、遠藤選手はいわきFCでのデビューを果たします。2022年6月26日のJ3第14節・松本山雅FC戦。上位同士の大一番でした。8000人近い観客が詰めかけたアウェイの地で、遠藤選手は先発出場しました。
「新潟でぜんぜん試合に出ていないのにスタートから使ってもらえて、とてもありがたかった。いきなりのアウェイはプレッシャーもありました。チームを勝利に導けず、とても悔しかったですね」
敗れはしたものの、松本戦で上々の評価を得た遠藤選手はその後もスターティングメンバーの座を確保。シーズン途中に急遽加入したハンデをものともせず、毎週末の試合をこなしながら、チームになじんでいきました。
「最初のころは肉体的にきつかったです。週2回のハードな筋トレがあり、疲れと筋肉痛が抜けないまま週末に試合。この連続で、ついていくのが精いっぱい。プロで90分出たことがなかったので、試合中に足がつることもありました。
それもあって、食事に気をつけました。筋トレをたくさんしますし、激しいプレースタイルなので毎日消耗する。だから、たくさん食べてサプリメントもしっかり摂りました。そこは新潟時代よりだいぶ徹底しましたね。やらなければ、乗り切れなかったと思います」
加入当初、同年代の多いチームに溶け込んでいくことにも苦労したようです。
「人見知りなんですよ(笑)。いわきFCの選手はみんな年齢が近く、とても仲がいい。新潟ももちろんみんな仲よくしているのですが、いわきは若い選手ばかりなので空気がぜんぜん違いました。最初はなかなか溶け込めませんでしたが、話してみるとみんな本当に明るく優しかった。おかげで、徐々になじんでいきました。
CBのコンビを組む家泉怜依選手に助けられた部分も多くありました。彼も当時1年目でしたが、自分より加入が早かった分、チームのやり方を理解していた。だから、疑問があった時は年齢に関係なく教えてもらいました。彼は自分にない強さを持つ選手。隣にいて安心感がありますし、いい刺激を与えてもらっています」
2022年はJ3で20試合に出場し、8月27日のJ3第22節・藤枝MYFC戦では、Jリーグ初ゴール。加入間もなくチームにフィットした遠藤選手が昨年のJ3優勝、そしてJ2昇格の立役者の一人であることに、疑いの余地はありません。
「いやいや、そんなことはないですよ。加入した時にチームはすでに上位にいましたし、勢いのある時期に途中から入らせてもらえた。自分はいい流れを止めず、チームを崩さないことを強く考えていただけです。
トレーニングの仕方もプレースタイルもぜんぜん違ういわきに移籍して早めに適応できたのは、周囲のサポートのおかげです。コーチと一緒に試合の映像を見てたくさん話し、周囲の選手ともコミュニケーションを取り、チームのやり方を早く覚えて実践していけたことが大きかったです」
謙遜気味にそう語りますが、昨年J3のタイトルを取れたことが選手生活の大きな財産となり、今後の自信につながったことは間違いありません。
■J2のFWをにもどんどん仕掛け、跳ね返していきたい。
J2で今シーズンを迎えるに当たり、遠藤選手はアルビレックス新潟からの期限付き移籍期間を延長。今年もいわきFCでプレーすることとなりました。
「新潟にいたころに出られなかったJ2という舞台で戦えるチャンスがあったので、今年もせひやりたいと思いました。チームの居心地がよかったことも大きな理由です」
今年も第1節の藤枝MYFC戦から、出場停止となった清水戦を除く全試合で先発出場しています。「いわきに来て身体が強くなった」と語る遠藤選手。時にはJ2のアタッカーのレベルの高さに苦しみながらも、昨シーズンからフィジカルを向上させ、競り合いのレベルを上げつつあります。
「このチームのCBに求められることはいろいろありますが、一番は相手の攻撃を跳ね返す力。前からプレスに行く分、後ろは相手攻撃の脅威にさらされる。そこでいかにFWを自由にさせないかが重要。いい流れにさせないためにも、どんどん仕掛けていきたいです。
もちろん、ただ守っているだけではダメ。現代サッカーでは、DFも攻撃に加わるのが当たり前。縦パスやフィードにも自信があるので、そこもぜひ見てほしいです。そしてセットプレー。DFが得点する貴重な機会なので、貪欲にゴールを狙っていきたい。得点を決めた時は、サッカー選手として一番うれしい瞬間。今後も持ち味を発揮して、得点に絡んでいきます」
また、今年は副キャプテンにも選出。桐蔭横浜大の先輩でもあるキャプテン・山下選手を、同い年のDF嵯峨理久選手とともに支えます。言葉数は決して多くありませんが、背中でリーダーシップを示す遠藤選手について、村主博正監督はこのように語ります。
村主監督から厚い信頼を受ける遠藤選手は最後に、今後のサッカー選手としての展望をこう語ってくれました。
「J3→J2と戦ってきたので、J1でやりたい。そしてJ1で活躍し、長くプレーしたい。もちろん、アルビレックス新潟への気持ちは持ち続けています。最初に入ったチームですし、今もJ1で魅力的なサッカーをしています。いつか戻って活躍できたら、という思いもあります。
そのためにも、まずはここでチームとしても個人としてもしっかりと結果を出したい。最下位を脱することはできましたが、苦しい状況はまだまだ続きます。そして、自分達が目指すところはここではない。これから一つ一つの試合で勝ち点を取って、もっと上に行きたい。今後もチーム一丸となって戦い続けますので、ぜひ期待してください」
次回もいわきFCの選手達の熱いVoiceをお届けします。お楽しみに!
(終わり)
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