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【葬送のフリーレン】構成のリフレイン:すれ違い・回想

漫画「葬送のフリーレン」には、様々なリフレイン(繰り返し)が組み込まれています。それらを意識しながら読み進めるのも、この漫画の一つの楽しみだと考えています。リフレインの種類についての概要はリンクを参照して頂き、以下では具体例について紹介します。

対象は単行本全10巻97話までですので、ネタバレを避けたい方は読むのを止めて下さい。


本記事で紹介するのは、構成のリフレインの「すれ違い・回想」パターンです。

「すれ違い・回想」パターンとは

漫画「葬送のフリーレン」では、やたらと登場人物同士の認識の「すれ違い」が発生します。

それは種族の違いによるものか、または口下手な人が多いのか、理由は様々ですが、その「すれ違い」が発生することで、個人的には何だかもどかしい気分になります。

またこの漫画には、やたらと「回想」が登場します。

それは勇者一行の記憶であったり、それぞれの生い立ちであったりしますが、その「回想」が様々な形で「すれ違い」に影響することで、物語を奥深いものにしていると考えられます。

具体例を通したほうが説明しやすいので、以下にて幾つかのパターンを紹介します。

「すれ違い・回想」の具体例

第2話 僧侶の嘘

パターン1:すれ違いの発生 → 回想 → すれ違いの解消

認識の「すれ違い」自体は、この1話だけでもたくさん生じていますが、「回想」に関係しているのは、「魔法の修行をする理由」のすれ違いです。

・すれ違いの発生
フリーレンは最初、フェルンが魔法の修行に打ち込む理由がはっきり分かりませんでした。

おそらくその理由を推察するために、フェルンに魔法が好きか質問しましたが、ほどほどであるとの返事があり、結局理由ははっきりしないままでした。

修行が4年過ぎた頃、フリーレンはハイターに、フェルンの魔法への打ち込み具合を報告しましたが、ハイターは魔法が好きだからそうしている、という認識を示したところで、「すれ違い」が生じました。

フリーレンとしては「魔法が好き」以外の理由があるのだろうとなんとなく考えていたところに、ハイターの認識を聞いたので、わずかな違和感を感じたはずです。

すれ違い発生シーン、第1巻56ページ

・回想
その直後にハイターが倒れたため、フリーレンはフェルンに修行を中止するよう提案しますが、フェルンは修行を続けようとします。

それは後回しでもいい、との意見をフリーレンは示しますが、フェルンはそれではダメだと反論し、その理由を説明するための「回想」が登場します。

回想では、幼少期のフェルンが崖から飛び降りようとしましたが、ハイターの説得により命を留めたシーンが描かれています。

ハイター自身はその時まで、大人しく自身の余生を過ごそうと考えていたようですが、その考え方を変えてまでフェルンの命を救おうとしました。

・すれ違いの解消
その決断が正しいものだったと、ハイターに思ってもらうために、フェルンは魔法の修行に打ち込んでいました。

つまりフェルンは、一人で生きていく術を身に付け、その姿をハイターが亡くなる前までに見せたかったため、魔法の修行を急いでいたのでした。

その理由を聞き納得したフリーレンは、フェルンの好きなようにすればいいと、フェルンの決意を認めました。

すれ違い解消シーン、第1巻65ページ

上記のように、まず各登場人物間での「すれ違い」が生じ、それを説明するために「回想」が用いられ、最後には「すれ違い」が解消する、という構造が、葬送のフリーレンでは度々登場します。

「回想」がどのように「すれ違い」に関わるかは様々ですが、この構造がこの漫画の基本的な流れと言っても過言ではないと考えています。

第6話 新年祭

パターン2:すれ違いの発生 → 回想(すれ違いの発生) → すれ違いの一部解消 (→ 新たなすれ違いの発生)

この話で登場するすれ違いは「日の出を見る理由」です。

・すれ違いの発生
この話では2箇所「すれ違い」が発生します。

まずはフリーレンとフェルンの間のすれ違いについて描かれています。

2人が訪れた村では、新年祭に日の出を見る習慣があり、その日の出はとても綺麗とのことです。

ただし、フリーレンは朝起きるのが苦手で、以前に勇者一行で訪れたときは、案の定日の出を見ることが出来ませんでした。

今回はフリーレンは徹夜してまで見ると言っていますが、正直興味はないとも言うなど、フェルンには日の出を見る理由が理解できませんでした。これが1つ目の「すれ違い」です。

1つ目のすれ違い発生シーン、第1巻162ページ

・回想(すれ違いの発生)
もう1つはフリーレンとヒンメルの間のすれ違いです。

勇者一行との回想にて、フリーレンは日の出を見られなかったことを気にしていませんでしたが、ヒンメルは日の出を楽しんで欲しかったと返しました。

フリーレンは楽しめるとは思えないと考えており、楽しめる理由をヒンメルに聞くと、君はそういう奴だからだ、と回答しました

この時点でフリーレンはその回答に納得しておらず、ここで2つ目の「すれ違い」が生じています。

2つ目のすれ違い発生シーン、第1巻163ページ

・すれ違いの一部解消
その後、無事フリーレンとフェルンの2人で日の出を見ることが出来ましたが、フリーレンにとってその日の出は、早起きするほどの価値があるとは感じませんでした。

ただフェルンは十分楽しんだらしく、笑みを浮かべてフリーレンに、とても綺麗ですね、と問いかけます。

フリーレンは、そうかな、と返しますが、フェルンはフリーレンが少し楽しそうな顔をしていることを指摘します。

フリーレンはそれに対して返答しようとしますが、途中で何かに気づき、返答を中止します。

この時点でフリーレンは、ヒンメルが何を意図して日の出を見せようとしていたかに気づいたと考えられます。

それはつまり、たとえフリーレンが日の出を楽しむことが出来なくても、一緒に日の出を見た仲間が楽しんでいる姿を見て、きっとフリーレンは楽しむことができる、とヒンメルは考えていたのです。

ストーリーを一通り記述しましたが、1つ目の「すれ違い」については解消していないと考えられます。

フェルン自身は日の出を綺麗だと感じていますが、フリーレンはそうでもないと感じており、綺麗だからという理由では「すれ違い」は解消されていません

1つ目のすれ違いは解消されず、第1巻166ページ

しかし、2つ目の「すれ違い」については、仲間の笑顔を楽しむというヒンメルの意図にフリーレンが気づいたということで、「すれ違い」は解消しました

ただヒンメルがもうこの世に居ないため、完全に解消されていないのが切ないですが。

2つ目のすれ違い解消シーン、第1巻166ページ

上記のように、パターン1の構造を基本として、すれ違いが解消されないまま終わるというパターンも確認できました。

おまけですが、この話の最後にフリーレンが、私一人じゃこの日の出は見れなかったな、と仲間の笑顔を見れるか見れないかの話をしていたのに対して、フェルンが、当たり前です、フリーレン様は一人じゃ起きられませんと、別の観点で同意していたのがおもしろ可笑しく、別のすれ違いが発生した場面でもありました。

第25話 剣の里

パターン3:回想 → すれ違いの発生 → すれ違いの解消 → 追加の回想

この話で登場するすれ違いは「ヒンメルが勇者の剣を手に入れたかどうか」です。

・回想
回想では、勇者一行の旅の始まりが描かれています。

元々ヒンメルが持っていた剣に対して、フリーレンが"勇者の剣"だと推察すると、ハイターが偽物ですと答えました。

どうやら子供の頃にもらった剣を今も使っているらしく、ただ最終的には"勇者の剣"を手に入れて魔王討伐すると、ヒンメルは明言していました。

すれ違いへの布石シーン、第3巻142ページ

・すれ違いの発生
回想が終わり、現代のフリーレン一行は剣の里なる場所に到着します。

シュタルク曰く、そこは"勇者の剣"を守っていた里で、里の近くの聖域にその剣が刺さっており、ヒンメルが史上始めて引き抜いたという有名な話があるとのことでした。

ただ、フェルンはその話を知らず、フリーレンは特に返答しませんでした。ここが「すれ違い」の発生ポイントです。

すれ違い発生シーン、第3巻147ページ

・すれ違いの解消
その里の周辺には定期的に魔物が湧くらしく、特に最近は山の主が暴れているとのことなので、フリーレン一行は魔物討伐の依頼を受けます。

最終的に聖域付近にいた山の主を倒し、依頼は完了しますが、シュタルクは"勇者の剣"が聖域にまだ残っていることを指摘します。

それに対してフリーレンは、ヒンメルが"勇者の剣"を抜けなかった事実を話します。この時点で一旦「すれ違い」は解消しました。

すれ違い解消シーン、第3巻154ページ

・追加の回想
この回想では、"勇者の剣"が抜けなかった場面が描かれていますが、ヒンメルは、いいじゃないか偽物の勇者で、魔王を倒せば関係ない、と前向きな発言をします。

結果として勇者一行は魔王を倒し、"勇者の剣"は無くとも本物の勇者になってみせたのでした。

上記のように、回想が話の始めに出てくるパターンもあります。

またこの場合、回想の役割としては、すれ違いが生じることを誘発し、読者をミスリードするためのものだったと言えます。

まとめ

漫画「葬送のフリーレン」では、「すれ違い」と「回想」が組み合わさった構造が繰り返し用いられています。

すれ違いの発生 → 回想 → すれ違いの解消といった基本的なパターンから、それらの要素の順番が入れ替わったものまで、様々な構造を具体例を通じて紹介しました。

個人的に「葬送のフリーレン」のストーリーには、一種の定番感や安心感を感じることがあるのですが、こういった構造の類似性が、そうした読後感に繋がっているのではないでしょうか。


長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

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